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百田尚樹 錨を上げよ [日記(2016)]

錨を上げよ(上) (100周年書き下ろし)錨を上げよ(下) (100周年書き下ろし)
 昭和30年、大阪の下町に生まれた作田又三の30年にわたるビルツィングスロマンです。作者も昭和30年生まれ、同志社大学やTV局の構成作家のエピソードも登場しまから、百田センセイの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』のようなものでしょう。しかしまぁ、こんな破天荒で都合のよいビルツィングスロマンなどあるわけはないです。

 ベストセラーの、特攻隊を描いた『永遠の0』、出光佐三をモデルとした『海賊とよばれた男』の二冊はテーマがハッキリしているので、たぶん誰が読んでも(好き嫌いは別として)分かり易いです。『錨を上げよ』は、万博、全共闘運動などの「昭和」を背景に、「ぼく」作田又三が錨を上げて人生の荒波に漕ぎ出してゆくストーリーです。上下巻1200ページ、舵の無い船があっちへフラフラ、コッチへふらふら、挙げ句の果てに「人生の長い航海は、これから始まるのだ。」と締め括られる未完の大ロマン?です。
 で面白くないかというと、そうでもない。ハイライトを少し。

 商業高校を4年かかって卒業し、大阪の中小スーパーに就職した又三は、わずか三ヶ月で退社し大学を目指します。別に勉強がしたかった訳ではなく、社会の上昇階段を登るため卒業証書が欲しかっただけ、おまけに遊びたかった。余談ですが、この小説には、今で言う格差社会への批判と、それを徒手空拳で乗り切ろうとして挫折する姿が至るところにあります。又三は、同志社大学に入学し、京都で下宿生活を始めます。下鴨や岩倉の学生アパートの学生生活の話は(個人的に)懐かしいです。
 全共闘運動の余波がくすぶるキャンパスで、格差社会を潰すために又三が革命を目指したかというと、百田センセイですからそんなことはありません。又三は、反動の烙印を押され、女子大生に恋をしてウチゲバに巻き込まれ、良家の令嬢に惚れて京大生に破れます(笑。

 で、大学を2年で中退し、錨を上げて上京します。雀荘の手伝い、ホストクラブ見習い、右翼(百田センセイらしい)、パチンコ店員、レコード店員と職業を転々。またも失恋して北海道へ(又三の転機は常に失恋)。TVで雄壮なオホーツクのタラ漁を見て北海道!ですから笑います。

 根室、貝殻島のウニ密漁を描いた第五章「嵐」はなかなか面白いです。ソ連の警備艇と海上保安庁の巡視艇の眼をかいくぐって、ソ連領の貝殻島、水晶島でウニを獲る話です。北方領土問題がからみますから、この辺りも百田尚樹の面目如実といったところでしょうか。ついには、自ら高速の密漁船を(特攻船)持ち、ソ連、海上保安庁、果てはヤクザを出し抜いての荒稼ぎと手に汗を握る冒険譚です。こうなると講談です(笑。

 またも女性に躓いてこの冒険譚も終了。そしていよいよTVの構成作家・百田尚樹の登場となり、話はタイ・バンコクへ飛んで...「人生の長い航海は、これから始まるのだ。」とシュトゥルム・ウント・ドラングの物語は(尻切れトンボ)に終わります。
 賛否両論はあると思いますが、結構面白いです。 

タグ:読書
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