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坂野潤治、大野健一 明治維新 1858-1881 (2010講談社)(1) [日記(2018)]

明治維新 1858-1881 (講談社現代新書)  政治史の研究者・坂野潤治と開発経済学の研究者・大野健一による明治維新の分析です。「開発経済学」とは発展途上国が如何にすれば「発展」にたどり着けるかという方法を研究する経済学の一分野だそうです。本書は、「発展途上国ニッポンが」明治維新をへて近代国家に変貌する姿を描きます。副題の1858年は、英米他と修好通商条約が提携された年であり、1881年は、「明治14年の政変」を機に天皇により国会開催の詔勅が表明された年であり、国営企業の民営化路線が明確に打ち出された年です。著者は、この20余年を変革期と捉え、変革が如何になされたかを分析します。

 第一部「明治維新の柔構造」(坂野、大野共同執筆)、第二部「改革諸藩を比較する」(坂野)、第三部「江戸社会-飛躍への準備」(大野)の三部校正です。時系列に沿って、第三部 →第二部 →第一部の順に読んでみます。

 先の『西郷隆盛と明治維新』同様、本の紹介、感想というより、個人的な備忘録、学習ということになります。

江戸社会(第三部)
 日本の近代はペリーの浦賀来航から始まるわけです。黒船から始まる欧米の文化、政治、経済の荒波のなかで、江戸社会にはそれを受容する社会的インフラが十分整っていたというのが、著者(等)の主張です。近代化の条件とは(p180)、

1.政治的統一と安定
2.耕作面積と生産性の両面における農業の発展
 →大名や有力農民の開梱・治水・灌漑により、耕地面積は293万町へと143%、人口は3200万人270%と増加。米の収穫量は、二毛作、品種改良、肥料(干し魚)、農機具により、単位面積当たり1600年の0.995石→1720年1.094→1872年1.44石へと増加
3.物流システムの発展と全国統一市場の形成
 →五街道、西廻り東廻り航路、菱垣廻船、樽廻船が開発整備され、北海道の昆布から鹿児島の砂糖まで諸国の産物が流通。1700年代に入ると米は大阪を中継点に流通し、堂島で米相場が立つようになり後に幕府公認となります
4.商業・金融の発展、富裕な商人層の台頭
 →1830年代の京都には飛脚問屋が128軒、1860年代の江戸には180軒が営業し、江戸、京阪間は最短6日で情報が行き交います。また1600年代から両替商が登場し、札差は藩の蔵米を現金化し金融業を営んでいます。こうした商人のなかから、鴻池、三井などの豪商が生まれます
5.手工業の発展
 →藩は産業政策として特産物の製造を奨励し、薩摩藩、高松藩の砂糖、長州藩の紙、蠟、秋田藩の絹織物などが生産されます
6.地方政府(藩)による産業振興
 →同上
7.教育の普及
 →江戸、大阪はもとより地方にいたるまで寺子屋が設けられ、藩校は230にのぼり、民間では松下村塾、適塾、シーボルトの鳴滝塾が開かれ、明治維新を推進する逸材が排出することなります。明治8年の小学校は24,000を数え、就学率は男子で50%を超えます

 冷害や飢饉はあったものの農民の生活は安定していたようで、慶安の御触書にある「大茶をのみ、物まいり、遊山ずきする女房を離縁すべし」は、笑ってしまいます。幕府が奢侈を戒めるほどに、江戸時代は(すべての地域ではないものの)農村、都市の富裕化が始まっていたわけです。お蔭参り(伊勢詣)や富士講(富士山詣)が盛んになったのも江戸時代です。
 こうした江戸時代の文化、経済の発展が、ペリー来航という事件を受け止め、明治維新を準備したわけです。
 特に国学の隆盛は、ナショナリズムを生み、尊皇攘夷思想と深く関わっていることも留意する必要があります。


幕府の失敗
 重要なことは、都市と農村に起こった経済の発展に時の支配者であった幕府が付いて行けなかった点です。

 商工業の自由化と積極財政策によって民間の経済を活性化するればよかったのでしょうが、制度疲労をおこした幕府の官僚がやったのはその逆。歳入の基板をコメに置き、財政赤字は増税と大名、豪商からの献金。緊縮財政、倹約令、物価統制、果ては貨幣改鋳。
 開港による大幅な輸出超過によって国内の物資は不足します。金銀交換比率が世界水準に比べ大幅に銀高だったことにより金が流出。これらよるインフレが庶民の生活を直撃し、幕府の権威は地に落ちます。

・・・マルクス流の古い言葉でいえば、「下部構造」(生産力、生産構造)のとどめがたい発展が、旧来の「上部構造」(政治、思想、政策など)と矛盾を起こすようになり、それを弁証法的に乗り越えるための「革命」を必要としていたのである。

この革命の引き金となったのが、ペリーの来航だったのです。さらに革命には、武力革命と平和革命のふたつの革命があり


続きます。

タグ:読書
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