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金完燮 親日派のための弁明 2 ③  教科書問題 (扶桑社2004) [日記 (2020)]

親日派のための弁明2 続きです。
誰が歴史を歪曲しているか----日韓教科書問題によせて
 2001年に、韓国政府が日本の歴史教科書の記述に訂正を迫った「日韓教科書問題」です。35項目(本書では19項目)にわたって、「それは間違っている、修正せよ」と公式に迫った内政干渉です。韓国の「歴史認識」がよく分かって面白いです。ちなみに、日本政府は35項目のうち、2項目については出版社に訂正を求め、残りは修正を拒否しています。
 教科書の記述、韓国政府の修正要求、日本政府の回答、(著者による)解説の4項目が併記されます。

壬辰倭乱(文禄・慶長の役)
教科書
 朝鮮への出兵---秀吉は、さらに中国の明を征服し・・・東アジアからインドまでも支配しようという巨大な夢にとりつかれ、1592(文禄元)年、5万の大軍を朝鮮に送った。 ……日本軍はたちまち首都の漢 城 (現在のソウル)をおとし、……明との交渉は整わず、1597(慶長 2)年、日本は再び1万の大軍で朝鮮に攻め込んだ。・・・云々

韓国政府の修正要求
 題名の「出兵」を「朝鮮侵略」に修正しなければならない。「出兵」という用語は、朝鮮が間違いを犯してこれを膺懲するための軍事的行為と誤解されやすいため、日本の一方的な軍事的侵略であったことを題名から明らかにすべきである。また、壬辰倭乱の勃発要因を、明国を征服してアジアの大帝国を建てようとする大義名分、ないしは豊臣秀吉の個人的な妄想とだけ説明している。しかし、壬辰倭乱の原因は豊臣秀吉の個人的な英雄心、日本内封建領主の不満をなだめるなどの、「名分のない戦争」とみるのが一般的である。つまり、壬辰倭乱の原因は、国内の矛盾を海外に向かわせて政権の安定を図ろうとした日本の内政ないしは東アジア国際関係の中で説明されるのが正しい・・・云々

日本政府の回答
 我が国の学界においては、「文禄・慶長の役」「朝鮮出兵」「朝鮮侵略」などの呼称が広く認められており、このような学説状況に照らして、明白な誤りとは言えず、制度上、訂正を求めることはできない。(出兵の目的に関して) 我が国の学界においては、豊臣秀吉が東アジアを征服する構想をもっていたことは広く認められており、その背景については種々の推測がなされている。このような学説状況に照らして、明白な誤りとは言えず、制度上、訂正を求めることはできない。・・・云々

(著者による)解説
 ・・・日本政府に対し、出版社に「出兵」を「侵略」と修正するよう指示しろと要求したり具体的な事件の解釈まで提示したりするのは、韓国の画一的な官僚主義を日本にまで押し付け非常識な要求ではなかろうか。いくつかの周辺国が絡んだ事件を、自国の立場を最大限弁護して記述するのは国際的に容認された慣例であるため、日本にばかり歴史記述において「厳正な世界主義」を要求するのは公平さの面でも無理な要求だと考えられる。・・・自らがまず世界主義を実践してから他国に要求するならば、ある程度説得力があるが、自分は徹底した国粋主義に立脚した歴史記述に固執し、日本にばかり客観的になれと要求したなら、返されるのは嘲笑だけである。・・・云々

 韓国政府は、秀吉の朝鮮派兵をどうあっても「侵略」としたいようです。秀吉がこれを聞けば、侵略したいのは明であって朝鮮などは眼中にない、通過しただけだ、と言うでしょねw。日本政府の回答は、概ね我が国の学説を持ち出して韓国政府の修正要求を軽く否します。親日派の著者の解説は言わずもがな。歴史認識は、学問の世界ではなく政治の世界、イデオロギーの世界であることがよく分かります。

甲申事変
 金玉均を「親日派」とした教科書に対して、韓国政府は、親日派を「開化派」に訂正せよいいます。金玉均は日本に留学し日本の後援でクーデターを起こし、失敗すると日本に亡命しています。開化派ですが、金玉均は親日と呼ばれても問題はありません。朝鮮改革の一翼を担った金玉均が親日派と呼ばれることは、親日=悪という今日の韓国のイデオロギーに抵触しますから、韓国政府は訂正求めたわけです。日本政府の回答は、「学説状況の照らして、明白な誤りとは言えず、制度上、訂正を求めることは出来ない」。

甲午農民戦争(東学党の乱)
 教科書の記載「農民暴動」は誤りであり、甲午農民戦争は「朝鮮農民の反封建・反外勢運動」であって「乱」や「暴動」ではない、訂正せよといいます。甲午農民戦争は、李朝役人の横領など不正に端を発した暴動で、拡大して李朝の腐敗に対する告発へと発展しますから、韓国政府が革命運動だ!と主張したいのも分からないことはありませんが、「反封建・反外勢運動」の主張にはやはり無理があります。

安重根
 伊藤博文暗殺を暗殺した安重根について、その記述が無いことを韓国政府は問題にし、「安重根の義挙」と書くように要請します。これは従軍慰安婦についても同様で、故意に隠蔽していると非難します。日本政府は、「我が国の教科書検定制度では、学習指導要領の範囲内で、具体的にどのような歴史的事実を取り上げ、それをどのように記述するかは、執筆者の判断に委ねられている」と否します。

 イデオロギーと教育の問題は考えさせられます。韓国の高校歴史教科書を読みましたが、日本の教科書に比べ近現代の比重が異様に高く反日に偏向しています。日本政府による教科書問題の提議があってもよさそうなものですw。

日本軍のヒューマニズム--従軍慰安婦
従軍慰安婦」とは、大東亜戦争のとき日本軍を相手にした売春婦を称する用語である。

 「独立軍」を馬賊だと切って捨てたように、こちらミモフタもありません。従軍慰安婦問題では、強制連行があったのか無かったのか、売春婦だったのかどうかがが争点となりますが、この問題は歴史的にはほぼ決着がついていると思います。本書では、従軍慰安婦を日本軍の「管理売春」という視点で捉えます。

 軍隊慰安婦は、シベリア出兵で遠征軍七万二千人の兵士うち、一万人が性病に感染したということから、海外に派兵された日本軍の強姦を予防して性病の被害を防止し、軍の士気を高めるために始まった制度だといいます。

 上海事変が勃発すると、陸軍はシベリア出兵の反省から従軍慰安婦を制度として取り入れます。管理売春です。軍慰安婦制度によって、兵士を性病から守り、派兵地の婦女子を兵の性的暴行から守ろうとしたのです。女性の尊厳を踏みにじる制度を国が運営するのですが、この制度を持たない軍隊が派兵地域で如何なる暴虐をなしたかは、明白です。慰安婦制度を公式に採用した軍は、旧日本軍以外には無いそうです。

六十年前にすでに従軍慰安婦を運営していたということは、日本の先進性の証拠になりはしても罪にはならない。軍隊慰安婦制度は日本軍のヒューマニズムを象徴する証拠として再評価されなければならない。日本軍は海外遠征軍に慰安婦を派遣することで軍人と現地住民に配慮した。これは世界の戦争史に類のない独創的な発想であり、日本の軍隊が侵略軍ではなく解放軍であったという決定的な証拠になるのである。(p196)

とまでは言えないにしてもです。

 著者は、陸軍の慰安所管理の実態、慰安婦の労働と収入、彼女達の証言、兵士数から類推される慰安婦の数などを検証し、

結論をいえば、韓国を中心とした元従軍慰安婦団体が主張する、日本政府の個人賠償と戦争犯罪への謝罪を求める主張は、一考の価値もないのである。

 と切り捨てます。さらに、「従軍慰安婦問題」には韓国に根強い純潔思想と家父長制度が根本にあるといいます。呉善花氏の言葉を借りれば、「従軍慰安婦問題」は、35年の日帝支配の「恨」と「侮日観」に支えられた、劣等「日本民族」が優等民族の「聖なる血の一体性を陵辱した」という民族の「性」の問題だといいます。だとすれば、この問題は、著者や李栄薫、呉善花がいかに歴史的事実を並べようが、永遠に続くように思います。思考回路の問題なのですから。

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SHIN

はじめまして。
ブログを時々拝読させて頂いております。多くのブログが何を食べたとかの絵日記風の多い中、いずれも大変興味深い内容で非常に読み応えがあります。
これからも書評なども含めてお願い致します。
by SHIN (2020-09-18 07:02) 

べっちゃん

ご訪問いただきありがとうございます。無線されているんですね。私もハンダゴテを握っていますが、なかなか進みません。
by べっちゃん (2020-09-18 18:52) 

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