武藤正敏 文在寅という災厄(2019悟空出版) [日記 (2020)]
呉善花『侮日論』を読んで、文民政権下の金泳三～朴槿恵の流れはおおよそ分かりました。文在寅は、「太陽政策」の金大中、「日帝は反人類的犯罪者」「植民地支配は超法規的に断罪」と言う盧武鉉の政策を引き継だ政権ですから、その政策も想像できます。2014年の『侮日論』で書けなかった文在寅政権とはどんな政権なのか？。タイトルが『文在寅という災厄』ですから、目次も中身もけっこう辛辣。呉善花の本や武藤正敏氏のnetの発言で免疫ができているので、目新しい論はそれほどありません。
序 章 日韓を敵国として引き裂いた文在寅
第一章 前著『韓国に生まれなくてよかった』の検証
第二章 対北・対米中外交ーー孤立する韓国
第三章 民主主義の仮面をかぶった独裁政権
第四章 経済と国民生活を破壊する指導者
第五章 日韓関係崩壊させた無策
第六章 韓国人も日本人も文在寅に「NO」を！
文在寅も過去の文民政権同様「三・一独立運動」に始まる「建国神話」を政策の基盤にしているのですが、自らの正統性を担保し反対勢力の弾圧に乗り出します。
「積弊清算」という言葉がいよいよ強調され始め、前政権や、文在寅氏の師である盧武鉉元大統領を自殺に追い込んだ(と考えている)李明博政権の行い、さらに光州事件などの過去史において、自分たち革新勢力を追い込んだ軍事政権やその流れをくむ保守陣営を「積弊」として扱い始めたのだ。
「過去清算」が1910～1945の植民地時代の否定だけはなく、それに続く軍事政権、保守政権にまで拡大されたと言います。
私の目には、これは軍事政権時代に文在寅氏たち学生運動家を抑圧していた行為とまったく同じように映る。「積弊」は政権の意思でいかようにでも定義できるからだ。後述する「親日派」も同様で、両者の違いはもはや、武力を使うか使わないかだけだ。
共に民主党が進める「歴史歪曲禁止法」というのがあります。1)日本植民地時代、2)光州事件、3)セウォル号沈没事件の3点について言論統制を行うという法案です。日本植民地時代や軍事政権を評価すれば刑事訴追されるという、民主主義の根幹を否定する法案です。文在寅政権は、保守と革新に色分けし国内を分断し、政権に反する勢力を弾圧する「独裁国家」だというのが著者の主張です。「歴史歪曲禁止法」を目論む以上、そう言われても仕方がないです。
金大中は、「日韓共同宣言」を発表し「両国が過去の不幸な歴史を乗り越えていこう」と宣言し、韓国で禁止されていた日本文化開放を推し進め、盧武鉉は徴用工等の補償は日韓請求権協定で受け取った3億ドルを当てる政策をとります。文在寅は、金大中、盧武鉉の流れを汲む革新系の大統領ですが、やっていることを見ると、「積弊」を軍事政権、保守政権にまで拡大して己の政権基盤の安定を図っているとしか思えません。朝鮮は日帝に侵略され、南北の統一が有るべき姿であり、最低賃金を引き上げれば経済は回るという考えは、民主化運動を担った理念に走る学生運動家の短絡のような気がします。
本書を読むと、読まなくと文在寅大統領の言動を見ていれば分かることですが、この人は「北朝鮮愛」一筋の大統領です。イデオロギーによって民族が分断されているのですから、南北統一への熱い思いは分かりますが、国際政治の空気も読まず、国民そっちのけで「北朝鮮、北朝鮮」。ところが肝心の北朝鮮はソッポを向く始末 →このギャップは面白いです。経済格差の激しい南北朝鮮が統一されれば、とんでもない混乱が生じるはずです。
日韓関係に長年携わってきた私から見れば、一九六五年以降、すべての出来事は「未来志向」で作られてきたのである。日韓基本条約も、日韓請求権協定も、小渕・金大中の『日韓パートナーシップ宣言』も、「慰安婦合意」も、すべてその時点から両国の未来を見つめて作った合意だ。
はっきり申し上げておきたいが、「未来志向」の原点を覆そうとしているのは、文在寅その人なのである。
元駐韓大使の韓国愛と怨嗟が聞こえて来る一冊です。
【余談】
元大統領・李明博が、懲役17年、罰金130億ウォン、追徴金57億8000万ウォンという実刑が確定しました。これも「積弊清算」のひとつでしょう。元大統領の収監は、全斗煥、盧泰愚、朴槿恵に続いて4人目です。報道によると、これは、李明博政権下で不正を追求され自殺した盧武鉉の、文在寅による「報復」だといいます。「士禍」で有名な国ですからさもありなん、「剖棺斬屍」「凌遅処斬」が無いだけマシというものかもしれません。そう言えば独立記念日で文在寅の前座を務めた光復会長の金元雄は、「国立墓地から親日派の墓を掘り返せ」と演説していますから、この国は未だ18世紀の李朝を引きずっているようです。
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