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サラ・ウォーターズ 黄昏の彼女たち 上 (2016創元推理文庫) [日記 (2020)]

黄昏の彼女たち 上 (創元推理文庫)  戦争(第一次世界大戦)が終わってから4年とありますから1922年、舞台はロンドン郊外。父親と(戦争で)兄弟を亡くし母親と二人暮らす26歳のオールドミス、フランシスの物語です。『エアーズ家の没落』と設定がちょっと似ています。

 フランシスは屋敷を維持するために下宿人を置きます(没落上流階級?)。下宿人はシティーに勤めるレナードとリリアン、25歳と22歳の若い夫婦。母親と静かに暮らしてきた屋敷に他人を迎い入れたわけですから、フランシスの心は穏やかではありません。キャプションによると「心理の綾を丹念に描く」ということになるのでしょうが、ミステリーを期待している読者は、特に男性は、オールドミスの「心理の綾」を読まされイライラします。その綾というのが、フランシスのリリアンへの傾斜。スカートからチラリと見えるリリアンの脚にドキドキし、何かの拍子に顔が近づくとクラッとし、同性愛を公言している作者ですから、これはレスビアンのミステリー小説か?。登場人物も、レーナードを除いてほぼ女性。この唯一の男性も、狷介な俗物とクソミソに描かれます。この「心理の綾」を250ページ読まされてはたまりません。
 リリアンは、パーティのためにフランシスの古いドレスを直し、髪を切ってカールする等など少女漫画調で…ともかく殺人事件が起こるまではじっと我慢ですw。

 フランシスとレナード、リリアンが酒を飲んでゲームを始める辺りから少し雲行きが変わってきます。罰ゲームで歌を歌ったり服を一枚づつ脱ぐという猥雑なゲーム。レナードを敵役としてフランシスとリリアンは接近します。リリアンはレナードの子供を妊り(結果は流産)結婚したこと、そのためレナードの身内は彼女に辛く当たりそれが結婚生活に影を落としていることを語り、フランシスは同性愛の過去を告白します。ひとつ屋根の下で暮らしていますから、レナードと母親の目を盗んで手を握り合いキスし、友情は同性愛に発展しポルノまがいの描写まで飛び出します。こういう小説もアリなんでしょう。

 現代であれば多様性、LGBTと許容されるふたりの関係も、100年前の話ですから、許されざる恋。夫と母親に隠れて逢引するフランシスとリリアンの関係は、当たり前ですが、これはもう立派な恋。おまけにリリアンは既婚ですから、恋の相手が女性であっても立派な不倫。フランシスは次第にレナードへの嫉妬に苦しめられ、ふたりで暮らそう、と迫ります。これは立派な三角関係。上巻400ページにわたって延々と繰り広げられる「少女漫画」は、不倫の果の「恋の道行き」への導入だったことになります。

 ミステリーを期待してここまで読んできたんですが、殺人事件も起きず、延々フランシスとリリアンの同性愛を読まされました。ミステリー作家サラ・ウォーターズですから、このまま終わるわけは無いはず。恋の邪魔者リリアンの夫レナード殺害が起きる筈です。

わたしはあなたをレナードと共有しなきゃいけないの?(フランシス)
ときどき思うわ、死んでくれればいいのにって(リリアン)

フランシスがレナードを殺すのか、はたまたふたりで共謀するのか?。やっとミステリーにたどり着きました。 →続きます

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