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サラ・ウォーターズ 黄昏の彼女たち 下(2016創元推理文庫) [日記 (2020)]

黄昏の彼女たち 下 (創元推理文庫)  上巻400ページ、フランシスとリリアンの”レズ”小説を読まされましたが(何度も放棄しそうになった)、

わたしはあなたをレナードと共有しなきゃいけないの?(フランシス)
ときどき思うわ、死んでくれればいいのにって(リリアン)

という会話となり、いよいよ事件が起こります。

 リリアンが妊娠します。妊娠は新しい生活を目論むふたりにとって障害となり、リリアンは堕胎を考えます。フランシスは老いた母親を捨て、リリアンは夫を捨て、さらに子供まで殺すわけです。女性同士であっても恋というものは排他的かつエゴイスティックなもの、まぁ小説の世界ですが。薬を飲んでの堕胎の描写は壮絶、何しろ女の「生理」の話ですから男にとってはちょっと…。堕胎の始末の最中にレナードが帰宅し、すべてバレたふたりは関係を告白し、リリアンは夫に離婚を突きつけます。

 事の次第を知って怒り狂ったレナードはフランシスに掴みかかり、あわてたリリアンは手近の灰皿でレナードの頭を殴りあっけなく死にます。「痴情」の果の子殺し夫殺しとなるわけですが、文学ジャンルでは無くサスペンスですから難しい話は無く、単なる過失致死。ジェンダーのサスペンスですから、男性の扱いは至って軽いですw。
 ふたりは死体を階下に運び下ろし道路に横たえ、足を滑らせて頭を打った、または暴漢に襲われた風をよそおいます。殺人のダメージが残る女ふたりが、男の死体を始末するのですから骨が折れます。作者の筆力でなかなかの読み応えアリ。死体の始末の伴う殺人は、割に合わない犯罪です。

 ここから、警察の操作の手が如何にフランシスとリリアンに伸びるかという倒叙ミステリーとなります。警察は、レナードの死が事故ではなく殺人と断定します。殺人の夜レナードと過ごした友人の証言で犯行時刻が後ろにズレ、フランシスとリリアンにアリバイが生まれます。警察はレナードとリリアンの結婚が上手く行ってなかっとことを突き止め、リリアンの男性関係に的を絞ってきます。レナードが多額の生命保険に入っていたことが明らかになり、不倫の果てにリリアンとその相手による殺人という核心に迫ってきます。問題は不倫の相手が「女性」であるということを突き止めることが出来るのか?。

 作者はもうひとつ仕掛けを用意します。レナード殺害容疑で19歳の青年が逮捕されます。レナードはこの青年の恋人と不倫関係にあり、そのために青年はレナード殺害に及んだと警察は考えます。リリアンは夫の不倫を知っていたことをフランシスに告白します。事実は、怒りに任せてレナードがフランシスに掴みかかり、リリアンが手近の灰皿でレナードの頭を殴ったのですが、不倫を知っていたリリアンはレナードを「殺した」、という可能性があります。不倫の夫と子供を殺し保険金を手に自由を得るというストーリーです。
 無実の青年に罪をかぶせてフランシスとリリアンは殺人の罪から逃れ、新しい生活を始めるのか、はたまた良心の呵責に耐えきれず、フランシスとリリアンのどちらかが自首するのかストーリーは混沌。。

 『黄昏の彼女たち』にオチはありません。延々とレスビアン小説を読まされ、殺人事件が起こったにも関わらず、です。『荊の城』『エアーズ家の没落』は面白かったのですが本書はイマイチで、作者の筆力で最後まで読ませますが…。

タグ:読書
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31

べっちゃん さん
こんにちは。いつも拝見しています。
細かい点ですが、黄昏の彼女たち、ハヤカワ文庫ではなく、創元推理文庫かと......
by 31 (2020-12-05 09:58) 

べっちゃん

31さん今日は、私もblog拝見しています。創元推理ぶんこですね、今読んでるハヤカワと混同していました。ご指摘ありがとうございます。
by べっちゃん (2020-12-05 10:14) 

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