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映画 愛の嵐(1974伊) [日記 (2021)]

愛の嵐 [DVD]  英題:、The Night Porter。
 どうしても観たいと思いながら機会がなかった映画があります、『愛人/ラマン』と『愛の嵐』。『愛の嵐』は例の扇情的なポスターに惹かれたわけです(笑。シャーロット・ランプリングのセミヌードとナチス親衛隊の軍帽という組み合わせが圧巻です。やっと観ることができました(AmazonPrime)。基本は、ナチス親衛隊の将校とユダヤ女性のラブストーリーで、ホロコーストの加害者と被害者の愛です。

 舞台は1957年のウィーン。ホテルのナイトマネージャーを勤めるマクシミリアン=マックス(ダーク・ボガード)の前に、アメリカ人の指揮者夫妻が現れます。カウンターを挟んで、マックスと夫人のルチア(シャーロット・ランプリング)は、幽霊にでも出会ったかの様に見つめ合います。フラッシュバックによってふたりの過去が明かされます。マックスはナチス親衛隊将校、ルチアはユダヤ人収容所の収容者。マックスは親衛隊将校の地位を利用してルチアを愛人にした過去があり、ふたりは12年を経て再会したわけです。再会の後ろにはナチスのユダヤ人迫害という暗い過去が横たわっています、これが主旋律。
 第三帝国が崩壊し、マックスは過去を隠し一市民として暮らしています。彼が恐れるのは悪行を知るユダヤ人で、親衛隊だったことがバレれば告発され刑務所行きです(日本兵もB/C級戦犯として5700名が捕まり1000名が処刑された)。オーストリアはナチスの侵攻を歓迎し、国民の10%がナチス党員となった国です。一人が捕まれば芋ずる式に摘発されるため、元対独協力者は互いに監視し、ホロコーストの証人の抹殺や党員の逃亡を支援する組織=「査問会」を作っています(映画にもなった「オデッサ」が有名)。マックスの過去を知るルチアの登場で、この査問会が動き出します、これが副旋律。査問会のリーダーは、今でも党員であったことを誇りに思うゴリゴリのナチズム信奉者。

 査問会はふたりの関係を調査し、マックスは査問会からルチアを護るたルチアを知る人物を殺害します。こうしたサスペンスの間に、ユダヤ人収容所でのマックスとルチアの”愛”がフラッシュバックされます。親衛隊の秘密パーティーで、ルチアが軍帽にサスペンダーのセミヌードで歌い踊るあの有名なシーンです。親衛隊は、ユダヤ人女性とこうした怪しげなパーティーを楽しんでいたようです。
ルチア2.jpg ルチア3.jpg
パーティー               サロメ
 マックスは、これもナチズムの信奉者・伯爵夫人にルチアと再会したこと、今でもルチアを愛していることを告白します。「ずいぶんロマンチックな話ネ」と言う夫人に、「そんな話ではないんだ聖書の話なんだ」とマックスはパーティーの思い出を語ります。そのパーティーで、マックスはルチアが嫌っていた男の生首を彼女に捧げるのです。これはオスカー・ワイルドの「サロメ」です。戯曲では、サロメは「7つのヴェールの踊り」(ストリップティーズ)を踊り、愛を求めるヘデロ王に首を要求します。ルチアは首を要求したわけではありませんから、マックスは彼女の歓心を買うため首を捧げたわけで、親衛隊将校とユダヤ女性という支配する者と支配される者の関係がここで入れ替わり、ナチスの物語がラブストーリーに転換したことになります。

 支配する者と支配される者の転換は、マックスに起こったばかりではなくルチアにも起こっていたようです。再会したルチアは、ふたりが出会った頃のドレスを買いマックスのアパートを訪れ12年前の関係が復活します。ルチアもまたマックスを愛していたことになります。

 マックスはルチアを護るためにホテルを辞めアパートに閉じこもります。査問会はアパートを監視しマックスの殺害を試み、食料品の配達やアパートの電気まで止めて誘い出そうとします。飢えに苛まれながらの愛欲生活も長くは続かず、マックスは親衛隊将校の制服に身を包み、ルチアは収容所でマックスに着せられたドレスを着てふたりは外出します。ドナウ川にかかる橋の上で、ふたりは査問会の銃撃に倒れて幕。
 『愛の嵐』とは何か?。解釈はいろいろありそうですが、ラストでふたりが12年前の服をまとったことがカギです。マックスは、外に出れば殺されることが分かっていたはず、殺されるのであれば12年の前の出会った頃の姿で最期を迎えたい、それが愛を証明することだと考えたのでしょう。親衛隊とユダヤ女性、支配する、支配される関係にも愛はあるのだと。
 『愛人/ラマン』も宗主国の少女と植民地の青年の、支配階級と被支配階級のラブストーリーでした。主人と婢の倒錯の愛とエロティシズムは永遠のテーマかも知れません。
ルチア4.jpg ←こんなシーンは無かった
 今回観た『愛の嵐』はどうも完全版ではなさそうで、カットされた映像があるようです。その映像は「ナチズムとエロス」だと思うのですが…ノーカット版を探して見ます。シャーロット・ランプリングとナチス大好きという方以外には余りオススメできません。個人的には宿題を果たした気分ですが。

監督:リリアーナ・カヴァーニ
出演:ダーク・ボガード、シャーロット・ランプリング

タグ:映画
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