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山本博文 「忠臣蔵」の決算書(2012新潮新書) [日記 (2021)]

「忠臣蔵」の決算書 ((新潮新書)) 映画『決算!忠臣蔵』の原作で、映画と原作ドッチが面白い?みたいな話です。たいてい原作のほうが面白いのですが、これはドッチも面白い。

 「忠臣蔵」(赤穂事件)は誰でも知っているように、

1)赤穂藩の藩主・浅野内匠頭が、江戸城中で私怨から吉良上野介に斬りつけて切腹、藩はお取り潰し。
2)赤穂藩の家臣が、主君の仇を討つため吉良の屋敷に襲撃をかけ首をとった仇討ち。

 この2つから成り立っています。5万石、藩士300人の赤穂藩の「取り潰し」は、現代であれば、収益5万石、社員300人の会社が倒産したことに相当します。本書は、専務・大石内蔵助が如何に会社を整理し、47人の社員を使って「討ち入り」という一大プロジェクトを成功させたのかを、経済の視点で描きます。元になったのは大石の収支決算報告書「預置候金銀請払帳」。
 著者は、江戸期を通じて変わらなかった「蕎麦1杯の値段」に注目します。蕎麦一杯が16文(落語「時そば」も16文)、現在の値段を480円とすれば1文は30円(丸亀製麺の素うどんは並320円、大430円、笑)。これを基準として物価を勘案すると、1両=12万円、金1分=3万円、銀1匁=2,000円となります。

退職金
 倒産で藩士は失職するわけですが、藩は藩士一人ひとりに給料(知行)に応じて退職金(割賦金)が出しています。大石は1500石、堀部安兵衛は200石、下級武士の大高源五は20石5人扶持で約30石。映画での一方の主役で、経理課長の矢頭長助も20石5人扶持。足軽の寺坂吉右衛門は3両2分2人扶持。知行取りは100石につき18両、知行取りではない中小姓組には14両、歩行組10両、小役人5両といった具合です。著者によると退職金総額は19,619両、23.5億円、平均で一人780万円だそうです(大石は辞退)。誰が幾ら貰ったとはかいてありません、暇な人は計算してみて下さい。

軍資金
 領地と城、家屋敷は幕府に返しますが、その他は藩と藩士の財産として処分が可能たったようです。退職金を払い、船や馬、武具を売って残った金が691両、1両12万円換算で8,300万円。これが討ち入りの軍資金となります。遣った内訳は、
仏事費      127両3分 18.4%
御家再興工作費   65両1分  9.4%
江戶屋敷購入費   70両   10.1%(アジト用)
旅費・江戶逗留費 248両    35.6%
会議通信費     11両          1.6%
生活補助費    132両1分   19.0%
討入り装備費    12両          1.7%
その他       30両          4.2%
 仏事費は内匠頭の墓所、供養の支払い。大口は、旅費・江戶逗留費248両と生活補助費の132両。藩士は江戸と京大阪に分かれていますから、連絡打合せのために藩士が行き来し、その旅費滞在費が全体の35%を占めています。「金銀請払帳」には、例えば

一、金弐拾壱両壱步、銀拾もんめ四分弐厘
  內藏助、岡本次郎左衛門同道に江戶へ罷下道中路銀·旅籠·江戶滯留雜用·会所入用之分、手形有

大石と岡本次郎左衛門の二人が上方江戸往復の交通費と旅籠代、江戸滞在費です。手形有とは領収書のこと。
 生活補助費は困窮する藩士への援助です。城の引き渡しが4月、大石始め藩士が赤穂を引き払うのが6月、討ち入りは翌年の12月ですから、1年半の間に多くの藩士は退職金を使い果たしたのでしょう。これも、
一、金六両 銀三拾目
  千馬三郎兵衛、神崎与五郎宿飢鍋候二付、原惣右衛門、岡本次郎左衛門相談ノ上二渡す、手形有、

千馬三郎兵衛と神崎与五郎が困窮しているので、原惣右衛門、岡本次郎左衛門と相談の上(大石が)金六兩 銀三拾目を渡したというもの。

 旅費交通費、生活保護費はこうした記述がズラリと並んでいます。殆んどが領収書付きですから立派。大石は691両を必要に応じて元藩士に渡し、経理課長・矢頭長介か誰かに帳付させ、都度領収書取っています。「金銀請払帳」と領収書を、討ち入り前夜に内匠頭の奥方・瑤泉院に届けています。

 47人を率いる討ち入りというプロジェクトは、忠義や「武士の一分」という精神論だけで出来ません。691両という軍資金が大きくものを言ったわけです。著者は、

藩の財産を処分したあと、約七百両のお金を残し、これを適切に管理して使い、立場も考えもさまざまに異なる多数の同志を足かけ二年の長期に亘って統制した内蔵助の力量は、あらためて高く評価されるべきものである。

 いや面白いです。時代は、西鶴が『日本永代蔵』『世間胸算用』を出版した元禄時代という辺りも興味深いです。

タグ:読書
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