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読書感想文 吉田修一 『路 ルウ』 [日記 (2021)]

路 (文春文庫)  一般的な「良書」なのでお手軽読書感想文に追加します。テーマが明確で文章も読み易いので中高生の「宿題」向きかと思います、原稿用紙約5枚。元ネタはコッチ

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読書感想文 吉田修一 路 ルウ

 台北→高雄間350kmを結ぶ新幹線(台湾高速鉄道)建設の日台プロジェクトを背景ーに、日本と台湾の交流を4組の男女に託した物語です。

 1994年、大学生の春香は台北を訪れ、道に迷って劉人豪に助けられます。人豪は春香をバイクで台北を案内し再会を約束して別れます。1995年に阪神・淡路大震災が起き、人豪は無事を祈るように春香の住む神戸にボランティアとして訪れます。1999年に台湾大地震が起きると、春香もまた人豪を心配し彼の郷里・台中を訪れます。春香は人豪の連絡先を紛失し、春香が人豪の連絡先を伝えていなかったため、ふたりは会うことができなかったのです。

 2000年、商社に就職した春香は新幹線建設プロジェクトで台北に赴任し、ツテを頼って人豪を探すことになります。一方の人豪は春香と出会ったことで日本に留学して建設会社に就職、東京で暮らすことになります。運命の糸で結ばれたふたりは、日本人の春香が台北、台湾人の人豪は東京、とすれ違いとなります。『路』は、想いばかりが先行する春香と劉人豪の「すれ違い」の物語です。

 台湾大地震で日本は各国に先んじて救援隊を派遣し救援物資を提供し、東日本大震災では台湾から200億円の義援金が届きました。2021年のオリンピック入場式で、NHKアナウンサーが「台湾です!」と紹介しました。台湾メディアはこのことを「台湾に誇りの瞬間をもたらした」と報道し、twitterで拡散したそうです。IOCは、国名を中華民国(台湾)ではなく「チャイニーズ・タイペイ」としているからです。中国が台湾を併呑しようと圧力を強めています。台湾の独立が危機に瀕している時に、日本の国営メディアが声高々と「台湾」の呼称を使い日本は味方だと叫んだのですから嬉しかったわけです。
 中国がパイナップル輸入を止めた時には、台湾産パイナップルを買おうという運動が庶民レベルで起きました。政府は、新型コロナウィルスのワクチンを無償で提供し、台湾のファウンドリー企業を日本に誘致するため4000億円の投資を決めています。
 こうした日台の交流が春香と人豪に託されたのです。

 日台交流で忘れてはいけないのが、台湾が日本の植民地であった歴史です。1895年、日清戦争の勝利で台湾は日本に割譲され、敗戦の1945年まで日本の植民地でした。日本は多額の資金を投入して台湾の近代化を図り、多くの日本人が台湾に移住しました。
 葉山勝一郎は、台湾で生まれ育ち敗戦で日本に引き上げた「湾生」です。75歳になった勝一郎は、旧制台北高校の同窓会名簿で幼馴染みの呂燿宗(日本名・中野赳夫)が健在であることを知り、60年ぶりに呂燿宗を台北に訪ねます。この台湾旅行をアテンドしたのが、劉人豪。
 勝一郎と呂のふたりは、日本女性・曜子を愛した(争った)という過去があります。学徒出陣する呂は曜子への恋を勝一郎に告白し、勝一郎は、オマエは日本人ではない、二等国民(台湾人)だと呂を詰った経緯があります。その後、勝一郎は曜子と結婚します。この出来事が勝一郎を台湾から遠ざけていたのです。曜子が亡くなり、60年経ってわだかまりも癒え、勝一郎は呂を尋ねる決心をします。二人の再会と、昔遊び回った路地を訪ねる下りはなかなか感動的です。
 勝一郎は癌で余命幾ばくもない身、医師の呂は「台湾で死ね(故郷に来いオレが看取ってやる)」と告げます。

 春香と劉人豪、葉山勝一郎と呂燿宗の物語に、春香の上司・安西と台湾人ホステス・ユキの恋、日本人との間に生まれた子供を育てるシングルマザーの張美青、美青と結婚し日台混血の子供を育てる新幹線整備工場の陳威志のエピソードが加わります。2007年、日本の技術によって完成した新幹線は台北~高雄を走り出します。歴史と国を超えた日本と台湾の物語です。
 タイトルの『路(ルウ)』とは、台湾高速鉄道の「道」であり、葉山勝一郎と呂燿宗が再訪した「路(ルウ)」であり、春香と人豪が歩いた台北の「路(ルウ)」です。

ここまで。

 このままのコピペでは能がないので、自分の言葉を使って下さい。台湾高速鉄道台湾の歴史に目を通すと、イメージが膨らみます。

タグ:読書
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