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映画 アイヒマンを追え! (2015独) [日記 (2021)]

アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男 [DVD]  フランクフルトの検事長フリッツ・バウアー(ブルクハルト・クラウスナ)がホロコーストに関わった親衛隊中佐アイヒマンを追うサスペンスです。

 アイヒマンは、ヴァンゼー会議の「ユダヤ人問題の最終的解決」に関わり、ゲシュタポのユダヤ人課長として500万人ものユダヤ人を絶滅収容所へ送り込んだ責任者です。敗戦で逃亡し、偽名を使ってブエノスアイレスに潜伏していることをバウワーに突き止められます。
 過去に正しく向き合うことがドイツの責務であると考えるバウワーは、アイヒマンを戦争犯罪人としてドイツで裁こうとします。政府中枢にはニュルンベルク法制定に関わったグロプケなど元ナチスが居座り、国内にはナチスの逃亡を助け支援する組織(オデッサ等)が存在し、ナチス支援者は、民間企業、司法、行政、警察とあらゆる階層に食い込んでいます。ドイツで戦争犯罪を暴くことは、これら勢力との闘いでもあるわけです。バウワーの元には脅迫状が舞い込み、銃弾が送られてくる始末。

 バウワーは、アイヒマンの情報を取るため恐喝までやってのけます。メルセデスの人事部長が元ナチス党員であることに目を付け、スアイヒマンガブエノスアイレスにいる確証を得ます。バウワーは、政府に任せておいたのではアイヒマン逮捕は覚束ないと考え、この情報をイスラエルの諜報機関モサドに渡します。これは国家反逆罪、犯罪を告発する検察の長が犯罪を犯すわけです。こうなると映画は、検事、モサド、オデッサ、政府が入り乱れてのエスピオナージュ、サスペンスとなります。

 ここで、バウワーの部下で検事のアンガーマン(ロナルト・ツェアフェルト)が登場します。検事局の部屋からナチ関係の資料が消える様にバウワーの回りは敵ばかり。バウワーは、アンガーマンを見込んでアイヒマン告発の助手にします。バウワーは、WWⅡ当時奥さんの故国デンマークに亡命していましたが、コペンハーゲンで男娼を買い捕まったが過去があります。ドイツ刑法175条で男性同性愛は禁止されていますから、バウワーを脅すネタになります(親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒが陸軍司令官フリッチュを追い落とした手法と同じ)。ナチスは、ユダヤ人、障害者とともに同性愛者を絶滅収容所に送っていますから、刑法175条はナチ映画では重要なアイコンなのかも知れません。おまけにアンガーマンはバイセクシャル。アンガーマンがその道に踏み込み、親ナチ勢力は、これをネタにアイヒマンから手を引けと脅します。こうなると、刑法175条とアイヒマンの「人道に対する罪」(国際法)の対決になってきます。
 バウワーの情報によってモサドはアイヒマンを拉致、イスラエルで裁判にかけられ「人道に対する罪」で死刑されます。

 ドイツ国民がヒトラーを国家元首に選びユダヤ人迫害に加担したわけですから、ホロコーストの罪をヒトラーやアイヒマン個人に追わせても何も生まれません。裁かれるべきは、ポピュリズムに加担したドイツ国民、人間の存在そのものかも知れません。アイヒマン同様の有能なテクノクラートが戦後のドイツを復興し、ニュルンベルク法に関わったグロプケがアデナウアー政権を支えたのです。日本でも、満州帝国の高官で東條内閣の大臣が戦後に総理大臣となっています。『アイヒマンを追え!』の面白さは、この辺りの面白さでもあるわけです。

 ナチ映画は多いですが、凡庸な悪を告発した映画『ハンナ・アーレント』と共にオススメです。

監督:ラース・クラウメ
出演:ブルクハルト・クラウスナー、ロナルト・ツェアフェルト

タグ:映画
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