SSブログ

司馬遼太郎 街道をゆく40 台湾紀行 ① (朝日文庫1994) [日記 (2022)]

街道をゆく 40 台湾紀行 (朝日文庫)  『韓のくに紀行』『耽羅紀行』があって『台湾紀行』の感想文が無いのも片手落ちじゃないかと、年始の読書はこれ。吉田修一の『路 ルウ』を読んだことも動機のひとつです。
 台湾は、1895年日清戦争の勝利で日本に割譲され、1945年まで日本の植民地でした。朝鮮も日清戦争の結果清の冊封を離れて独立国となり、1910年日本に併合されますから、日本と台韓両国の関係はよく似ています。ところが、今日の日韓関係は最悪と言われる一方、日台関係は、コロナのパンデミックに際しワクチンを無償供与し、台湾のファウンドリー企業を政府主導で日本に誘致するなど至って良好です。同じ様に1895年からスタートした日韓、日台関係が、なぜこれほど違うのか?、司馬さんに聞いてみましたw。

 『街道をゆく』は、作者が日本各地を歩きなが日本の歴史を振り返る歴史紀行です。韓国、モンゴル、中国、オランダと海外にも出かけますが、日本史の延長としての外国です。台湾が本格的に日本史に登場するのは、1895年からです。そのためか、本書に登場するのは歴史上の人物より、李登輝からタクシーの運転手さんまで現在の台湾の人々が登場し、司馬さんと交流します。

犬が去って豚が来た
 台湾は、原住民ともいうべき山地人(高砂族)の居住する島です。17世紀のオランダ、明の再興を目指す鄭成功(国姓爺、母親は平戸の日本女性)の支配があり、清朝は台湾を福建省に編入、大陸から漢人が流入します。これらは西側の沿岸部だけにすぎず、台湾の大部分を占める山岳地帯は山地人の支配下にあったと思われます。その後、下関条約(日清戦争)よって日本に割譲され1895~1945年の50年間の日本統治時代が続きます。

 1945年、毛沢東に負けた蒋介石は台湾に逃げ、蒋介石と数十万の国民党が主となります。新たに大陸から来た漢人(外省人)は、1945年以前から台湾に住む漢人(本省人)を暴行、掠奪、収賄、弾圧し、占領軍の様な支配層を形成します。「犬が去って豚が来た(犬は日本、豚は国民党)」と言われ、本省人による2.28事件が引き起こされます。
 蒋介石の後を継いだ蒋経国は副総督に本省人の李登輝を起用し、蒋経国の死とともに李登輝が総統となって台湾の民主化が実現されます。

日本統治  台湾と朝鮮
 下関条約よって、朝鮮は清の冊封から解放され大韓帝国として独立し、1910年日本に併合されます。日本となった朝鮮、植民地となった台湾、これが大きな違いですが、日本が朝鮮と台湾で行った施策は大きな違いはありません。総督府は、日本語による教育と同化政策をとり、鉄道を敷き道路を作り学校を建てる近代化を推進します。巨大ダムを建設しますが、朝鮮でははその電力で工業化が図られる一方、台湾では製糖など農業振興策がとられます。

 台湾総督府の技師・八田與一は、烏山頭ダムを造り、嘉南平野に水路を巡らせ穀倉地帯を産み出します。ダムには八田の功績を称えた銅像があるそうです。朝鮮でも鴨緑江に赴戦江ダムを建設し、その電力で興南地区に窒素工場を造り農業生産高を飛躍的に伸ばした総督府殖産局長・穂積真六郎(穂積産業革命)がいます。日本は、植民地の台湾、併合した朝鮮の近代化に大きく貢献してたことになります。では何故、台湾は親日、韓国は反日の構図が生まれたのか?(筆者は台韓の比較など一切していませんが)。
 戦後の台湾は、大陸から来た国民党(外省人)によって開放されますが、この開放者は本省人を弾圧し搾取して新たな支配者となります。犬(日本人)よりも悪辣な豚が来たため、犬が再評価されたと思われます。台湾と朝鮮の違いは、朝鮮には、どんな国だったかは別にしても、李朝という500年続いた王朝があったことです。日本は李朝を滅ぼして朝鮮を乗取ったわけで、開放とともにこの民族のアイデンティティが復活します。外省人の支配によって台湾のアイデンティティが生まれたように、朝鮮は日本を犬、豚とすることで民族のアイデンティティを取り戻したと言えます。この辺りが、親日反日の分かれ目だと思われます。

朝鮮:李朝→1895大韓帝国→1910日韓併合 →1945連合国軍政、南北分断→1948大韓民国
台湾:清朝→1895大日本帝国・植民地→→→→1945:中華民国

 本書には「台湾人(Taiwanese)と呼んでくれ」という人が登場します。東京オリンピックの入場式で、NHKのアナウンサーが「台湾です!」と紹介しましたことを、台湾メディアは「台湾に誇りの瞬間をもたらした」と報道し、twitterで拡散したそうです。IOCは、国名を中華民国(台湾)ではなく「チャイニーズ・タイペイ」としているからです。中国が台湾を併呑しようと圧力を強めています。台湾の独立が危機に瀕している時に、日本の国営メディアが声高々と「台湾」の呼称を使い日本はあなた方の味方だと叫んだのですから嬉しかったわけです。

タグ:読書
nice!(4) 
共通テーマ:

nice! 4