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小泉 悠  ウクライナ戦争 (1)(2022ちくま新書) [日記 (2023)]

ウクライナ戦争 (ちくま新書)
 新春1冊目はウクライナ戦争。去年からBSフジLIVEプライムニュースを見るようになり、ウクライナ戦争ついての高橋杉雄氏(防衛研)と小泉悠氏(東大先端科学技術研究センター専任講師)の明快な語り口に感心してきました。著者は、ロシアの軍事・安全保障を専門とする軍事アナリストです。その小泉悠の最新刊が出たので読んでみました。

ウクライナ
 ウクライナは、小麦、コサック、チェルノブイリぐらいしか知識はありません。スターリンによるホロドモールがあり独ソ戦の主戦場となって多くの犠牲を出しています。ロシアとヨーロッパを繋ぐ位置にありますから、独ソ戦では戦場となり、ロシアにとってはNATOに対する防御壁となる地政学上の要衝です。東アジア的に言えばロシアと冊封関係にあった国です。

 著者は、今回のウクライナ戦争を、2014年のロシアによるクリミアの併合、ドンバス戦争に続く第二次ウクライナ戦争と呼びます。プーチンは2021年の論文『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』において ロシア人とウクライナ人(そしてベラルーシ人)は9世紀に興った古代ルーシの継承民族なのであって、そもそも分かちがたいものであると述べているそうです。更にプーチンは侵攻の理由として、1)ウクライナ政府はで、ロシア系住民を迫害・虐殺している(ネオナチ)、2)核兵器を開発している、3)NATOに加盟すればロシアの安全保障が脅かされる、の3点を挙げています。いずれも証拠はなく、こじつけだそうです。プーチンは、現在のロシアをソビエト連邦およびロシア帝国の版図まで戻し、2024年の大統領選挙で5選を果たそうという意図があるようです。

プーチンの誤算
 プーチンは、短期間にキーウ(やはりキエフですよね)を陥してゼレンスキー政権を倒し(斬首作戦)、ロシアの傀儡政権を作る作戦(プランA)だった様です。プーチンはスパイ(ゾルゲ?)に憧れてKGBに入り、KGBを基盤に大統領となった人物。

スパイ映画に胸を躍らせる少年だったプーチンが、ウクライナ侵攻という一世一代の 大博打 を打つにあたって思い描いていたのは、このような情景だったのではないか。つまり、少数精鋭の工作員や彼らが張り巡らせた内通者ネットワークによって敵国を内部から骨抜きにし、軍隊は戦わずして電撃的な占領劇を演じる──というようなシナリオである。

ところが、ウクライナ軍の抵抗に会い、全面侵攻(プランB)→ドンバスなど限定された地域への侵攻(プランC)へと後退したのは、ご存知の通り。大国ロシアとウクライナでは勝負ならない筈ですが、ウクライナが戦いを優勢に進めたのには、4つの要因があるといいます。1)ウクライナ軍は、正規軍19.6万に国家親衛隊などを加えると30万となり、一方のロシア軍の侵攻兵力は15万で親露派の勢力を加えても19万。戦力ではウクライナが勝っていた、2)さらに地の利があり、3)米供与の対戦車ミサイル・ジャヴェリンが威力を発揮した。4)ウクライナには国家と自己を同一視して大量の犠牲を払う覚悟を持った「国民」という存在があった、と述べます。
 ロシア兵は大義名分の無い戦争に駆り出されていますが、ウクライナ国民には祖国を護るという明確なモチベーションがあり、それが頑強な抵抗に繋がっているといいます。民間施設や一般住宅を狙ったミサイル攻撃、ブチャの虐殺が明らかになるにつれ、ウクライナ国民の戦意は高揚したことでしょう。

ゼレンスキー
 プーチンに真っ向勝負を挑んだのが、”Person of the Year”としてTime誌12月号の表紙を飾ったゼレンスキーです。開戦翌日にゼレンシキーは自分のスマホで撮影した自撮り映像をネットで公開し、国民に徹底抗戦を呼びかけます。政府首脳部が逃げずに踏みとどまっていることを、自撮りという非常に臨場感のある形で示してみせた。その後もゼレンシキーは、大統領執務室などから2日に1度の割合で自撮りを公開し続けます。大国の侵略という事態に際して不安の極致にある国民に対し、このパフォーマンスは非常に効いたと思われます。
 米国はゼレンシキー政権に対して亡命を勧めたそうです。この時のゼレンシキーの返答は必要なのは弾薬であって(亡命のための) 移動手段ではないというものだったそうです。これが、政治経験の無い元コメディアンの44歳の大統領ですから、驚きです。
 国民の支持を得たゼレンシキー政権は開戦後に発動した総動員によって5月には70万、7月にはウクライナ軍70万、警察部隊10万、国家親衛軍9万、国境警備隊6万と合わせて100万の兵力を確保します。国民の反発を恐れて総動員がかけられないプーチンは、9月になってやっと30万の予備役を招集します。と、この辺りまではプライムニュースを見ているので馴染みの話。 →(2)へ

タグ:読書
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