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小泉 悠 ウクライナ戦争 (2)(2022ちくま新書) [日記 (2023)]

ウクライナ戦争 (ちくま新書)ウクライナ戦争.jpg
続きです
第三次世界大戦
 ウクライナ戦争の最大の懸念は核と第三次世界大戦です。ウクライナ反撃でロシアが窮地に立てば、プーチンは核を使ってくるおそれがあり第三次世界大戦に発展します。
 従って西側、特に米国の武器援助は、ジャヴェリン対戦車ミサイルやスティンガーといった兵士が肩に担げる武器が中心だそうで、戦車、装甲車、 榴弾砲 などの重装備は含まれていません。ゼレンスキーは戦車や戦闘機、ロシア軍の後方を叩ける長距離ミサイルなどの援助を要請しますが、バイデンはこれを拒否。ロシアvs.ウクライナの戦闘がエスカレートし、ロシアvs.NATOの全面戦争 →第三次世界大戦を恐れたわけです。NATOの援助は、ウクライナが負けない、第三次世界大戦が起こらない範囲に留まります。後に多連装ロケット砲(HIMARS)を供与しますが、ロケットは射程80㎞のミサイルに限定され、ロシア領内まで届くようなものは供与していないそうです。つまり、軍事援助は「ウクライナが勝てる(あるいは負けない)だけの支援」と「第三次世界大戦の回避」という二つの相反する要求の下に実施されていたわけです。中国を最大のリスクとする米国は、プーチンの覇権主義を決して許すわけにはいかないが第三次世界大戦も怖いと云うところに、バイデンの苦しさがあります。

核使用
 全面戦争と核戦争、第三次世界大戦の恐怖はプーチンも同様に怖れていると思われます。著者は核使用について3つのシナリオを想定します。1)通常戦力を補う戦術核使用する「戦闘使用シナリオ」、2)限定的な核使用によりウクライナの戦意を挫く「停戦強要シナリオ」、3)NATOの参戦を阻止するために、被害の出ない場所で限定的な核を使用する「参戦阻止シナリオ」です。いずれのシナリオが実施されても、西側のウクライナに対する軍事援助は制限が無くなり、場合によってはNATOの直接介入や報復の核攻撃があり得ます。戦争は泥沼に陥り大統領再選はあり得えません。プーチンが冷静であれば、核使用の可能性は少ないと言います。

古い戦争
 ウクライナ戦争では、ロシアとウクライナの双方がドローンを飛ばし、衛星通信システム「スターリンク」や商用衛星サービスを使い、リアルな戦場の画像がインターネットで拡散します。おそらくは衛星通信や衛星航法システムに対する電波妨害なども実施されているはずです。
 一見新しい形態の戦争の様に見えますが、やっていることは

村落の取り合い、機甲戦力による大規模な突破、航空機による近接航空支援や阻止攻撃、兵站の鍵を握る鉄道への攻撃などは、80年前の戦争をそのまま再現しているようでさえある。
 戦場における一般市民への非人道行為、捕虜の虐待、戦争がもたらす市民生活の破壊なども同様だ。言うなれば、第二次ロシア・ウクライナ戦争は 21 世紀のテクノロジーを用いたハイテク独ソ戦とでも呼ぶべき戦争であり、根本的な「性質」の方はあまり変化していないのではないか。

と言います。ドンパスの戦いやドニエプル川を挟んでの攻防を見ると確かに第二次世界大戦当時の戦争です。侵攻まえに多額の資金を投入し、侵攻時に協力する民間警備会社や協力者のネットワークを作り、ウクライナ諜報機関内部にも協力者がいたと言います(全く機能しなかった)。CIAが中南米でやっていたことと同じです。その「特別軍事作戦」たるや、数百機の武装ヘリで空港を占拠し、空挺部隊を送り込んでキエフの議会と官庁を占拠、臨時議会を招集させて傀儡政権を作るという、映画の様な作戦です。この辺りもKGB出身のプーチンの考えそうな作戦です。大義名分が、「ウクライナの非軍事化、非ナチ化、そしてロシア系住民の虐殺の阻止」だと云いますが、今どきネオナチはないでしょうが。

 著者は、ウクライナ戦争は極めて古典的な「古い戦争」であるとした上で、

テクノロジーや非軍事的闘争手段による「新しい戦争」に備えること自体の重要性は低下しないとしても、それは「古い戦争」への備えを無視してよいことを意味しないのである。この点は、我が国の抑止力をめぐる議論においても重要な論点となろう。

と結びます。新書ですが、巻末の膨大な参考資料のリストがあることから分かるように奇を衒うことのない論考です。著者の専門であるロシアの軍事・安全保障が中心で、その分「読み物」としては面白みに欠けますが、素人が「ウクライナ戦争」を概観するには手頃な本です。

タグ:読書
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