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ヘレーン・ハンフ チャリング・クロス街84番地(2021中公文庫) [日記 (2023)]

チャリング・クロス街84番地-増補版 (中公文庫, ハ6-2)ニューヨーク、ロンドン
 NYの作家ヘレーンとロンドン・マークス古書店のフランクとの往復書簡集です。ヘレーンがこんな本を読みたいと発信し、探し出して送ったよとフランクが返信。こんな本があるけど要る?、是非送って!、というやり取りもあります。出てくる書名の大半は馴染みのない18~19世紀のイギリス文学で、現代文学や新刊書は一切出てきません。ヘレーンは、ペーパーバックで文化や思想を「消費」するアメリカ文明に背を向けるかのように、英国文学の古書をロンドンのフランクに注文するわけです。ヘレーンの手紙に出てくる書名で知っているのは『釣魚大全』、『高慢と偏見』程度。『ピープスの日記』や『トリストラム・シャンディ』など、つい「読んでみようかな」と思わせる読書案内でもあります。

 ヘレーンがマークス書店にベーコンの缶詰や卵を送ったことで、従業員やフランクの奥さんとも文通の輪が広がり、本書が生まれます。1950年当時イギリスでは食糧は配給制で、肉は1週間に1世帯当り60g足らず、卵は1ヶ月に1人1個なのだそうです。これに同情したヘレーンはデンマークの業者を通じて食料品を届けたわけです。

 ヘレーンはTVドラマの脚本を書いて生計を立てています。

ところで、エラリー・クイーンの作品を元にして、いささか気どった殺人事件のテレビ・ドラマを書いてること、お話ししましたっけ?・・・あなたに敬意を表して、いつか稀覯本を扱う商売を背景に使って、台本を一本物してみるわ。あなた、人殺しの役と殺される役とだったら、どっちになりたい?。

 ヘレーンは、エリザベス女王の戴冠式の見学を兼ねてロンドン旅行を計画します。ところが歯の治療、

歯冠をかぶせてもらうことにしました。でも、費用が天文学的数字でものす ごいんです。だから、エリザベス女王の戴冠式には行けないの。むこう二年間、冠を戴くのはわたしの歯だけなのだわ。

等など、本の注文の注文にユーモアに満ちた一文を付け加えます。

古書偏愛
 マークス社から古書がとどきます

まるで発行当時そのままのように新しくて、一見だれの手にも触れられたことがないみたいですが、じつはちゃんと読んだ人がいるのです。というのは、この本の中でいちばん楽しい個所が何個所か、パラッと自然に開くのです。まるで、前の所有者の霊が私の読んだことのない詩を教えてくれているようです。

本は、読者から読者へと読み継がれてゆくべきものだと言うのです。また、

あなた方にさしあげたプレゼント(食料品)は一週間もすれば食べ尽くしてしまって、新年までには、その跡形すら消えてしまうのです。ところが私のほうは、死ぬ日まで手もとにおいておけて――しかも、この本を愛してくれるだれかほかの人のためにあとに残すことを承知のうえで死んでいくのですから、私、しあわせです。 本の中じゅうあちこちに鉛筆で薄くしるしをつけて、だれか後世の愛書家のために、いちばんよく書けているくだりを教えてあげることにしましょう。

本は、食物のように「消費」されるのではなく、愛書家から愛書家へと受け継がれる人間の知恵だと言います。

 本書は1970年にアメリカで出版され、1972年に江藤淳の訳で日本で出版、1984年に文庫化され、2021年に再版されています。
 映画化されているようなので、探してみます。
IMG_20230706_0001.jpgマークス古書店(1969)

タグ:読書
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