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タランティーノ(2) イングロリアス・バスターズ(2009米) [日記 (2024)]

イングロリアス・バスターズ [DVD]  2010年にblogに書いた感想文の改定版です。原題、Inglourious Basterds、「名誉なき野郎ども」。ドイツ第三帝国ものは、『戦場のピアニスト』『シンドラーのリスト』の様にユダヤ人虐殺とそれに抵抗するレジスタンス or 連合軍の正義が描かれることが多いですが、タランティーノにかかるとナチスも連合運も平等に戯画化され、エンタメになります。

ユダヤ・ハンターとナチ・ハンター
 舞台はドイツ占領下のフランス、冒頭は至ってマトモ。「ユダヤハンター」の異名をとる親衛隊大佐ハンス・ランダ(クリストフ・ヴァルツ)がユダヤ人を匿う農家を襲い、ユダヤ人を虐殺します。この時唯一人逃げ出したのが少女のショシャナで、後にナチス復讐劇を演じます。

 米軍中尉アルド・レイン(ブラッド・ピット)が主人公ですが、ナチスを殺すのが趣味で殺したドイツ兵の頭の皮を剝ぎます →よってアルド・アパッチ・レイン。SSに「ユダヤ・ハンター」がいるように連合軍にも「ナチ・ハンター」がいるわけです。おまけに、レインの部下で「ユダヤの熊」の異名をとる軍曹(イーライ・ロス)はバットでナチスを撲殺することが趣味。で、レイン中尉率いる部隊は「イングロリアス・バスターズ」となるわけです。レインは、バスターズの存在を誇示するために、ドイツ軍捕虜の額にナイフでハーケンクロイツを刻んで開放します。ナチスはユダヤ人に五芒星を強要していますから、レインの行為はナチスの裏返し。正義ヅラをしてナチスを糾弾するのではなく、ナチスもそれと戦う連合軍も一皮むけば同じだというわけです。タランティーノは、ヒトラーの独裁と民主主義の二項対立ではなく、実はこの2つは表裏一体だと言いたいのかも知れません。

虐殺
 ユダヤハンター 、アパッチ、ユダヤの熊では味気ないので、成長したショシャナ(メラニー・ロラン)とドイツ女優ハマーシュマルク(ダイアン・クルーガー)が花を添えます。ショシャナは叔父から受け継いだ映画館の経営者、ハマーシュマルクは連合軍のスパイという設定です。
 ナチスがフランスのナチス高官を集めて、プロパガンダ映画をショシャナの映画館で上映する計画が持ち上がります。両親をナチスに殺されたショシャナは、350本の可燃性フィルムを爆薬の代わりに使い彼等を一挙に殺す計画を立てます。『ニュー・シネマ・パラダイス』で起こった火災と同じです。テロに映画と映画フィルムが使われるところがミソです。
 一方で、レインもプレミア上映の情報を掴み、映画館爆破を企てます。この計画に加担するのがドイツ女優ハマーシュマルク。ドイツ軍将校に扮したイギリスのスパイと酒場で密談中にゲシュタポに正体がバレます。親衛隊ランダ大佐が匿われたユダヤ人を摘発するシーンと共にこの映画では真に迫ったシーンです。で、お決まりの派手な銃撃戦。このシーンはストーリーとは直接絡んで来ず、銃撃戦大好きのタランティーノが無理やり挿入したシーンではないかと思いますw。
 プレミア上映会でショシャナの復讐とレインの襲撃が合流します。上映されるのは、ドイツ軍の狙撃兵が連合軍兵士300人を撃ち殺すというプロパガンダ映画で、観客のヒトラー、ゲッペルス、ゲーリングは拍手喝采してハシャギまくる有様。そう、ヒトラーまで登場します。映画は途中でショシャナの顔の大写しとナチス糾弾シーンに替わり、彼女が「死ね!」と叫ぶとスクリーンの後ろに積まれていたフィルムが爆発。逃げ惑うナチスにバスターズの機関銃が火を吹き大虐殺シーンとなり、ヒトラーは死にます。ヒトラーは、ベルリンの総統地下壕で愛人エヴァと共に毒を仰いで自殺した筈ですが、そんな事実は関係なし。歴史的事実より「映画」が優先されます。ともかく連合国側も正義の名の下に「虐殺」を行ったわけです。

オチ
 前後しますがレインは上映会場でランダ大佐に捕まり、ランダはレインに取引を持ちかけます。レインのテロ計画でヒトラーが死ねば第三帝国は敗北し戦争は終わります。戦争終結はオレの手中にあるというわけです。ランダは、計画を黙認する代わりに、第三帝国の敗北後の身の安全と連合国を勝利に導いた功績による報酬を要求します。レインの上部組織OSS(戦略情報局)はこれを飲みプレミア上映会の大虐殺が起こります。
 テロ終結後、ランダはレインを釈放しランダとその部下は形だけレインの捕虜となります。レインの「ナチ・ハンター」の本領が発揮されます。レインは部下を撃ち殺して頭の皮を剥ぎ、ランダの額にハーケンクロイツを刻み →the end。

 『イングロリアス・バスターズ』はタランティーノの映画で最大のヒット作となり、クリストフ・ヴァルツはその年の助演男優賞を総なめにします。この映画の面白さは(ストーリーに少々無理があるものの)、ナチスも連合国もやってることは同じじゃないかと戯画化しエンタメにした辺りでしょう。この後、『ジャンゴ 繋がれざる者』で白人と黒人を、『ヘイトフル・エイト』で南部と北部の対立軸をタランティーノの視点で描くことになります。

監督:クエンティン・タランティーノ
出演:ブラッド・ピット、クリストフ・ヴァルツ、メラニー・ロラン、ダイアン・クルーガー

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