保阪正康 瀬島龍三―参謀の昭和史 [日記(2014)]
児島襄『満州帝国』のなかに、スェーデンの駐在武官・小野寺信はヤルタ会談の密約(ドイツ敗戦後3ヶ月以内に対日参戦)をつかみ、参謀本部に打電したが、参謀本部はこれを握りつぶしたという話が出てきます。『消えたヤルタ密約緊急電』では、小野寺の緊急電を握りつぶした参謀を瀬島龍三だと匂わせています。
瀬島龍三は、大本営参謀からソ連抑留を経て、戦後は伊藤忠で航空機商戦に辣腕を振るい、第二次臨調の事実上のトップとして国家の参謀をつとめた人物です。先日亡くなった山崎豊子の『不毛地帯』のモデルとして有名です。小説のモデルは別として、国家の運命を左右しかねない情報を握りつぶしたと噂される瀬島龍三とは如何なる人物なのか?。【参謀本部作戦課】
電報を握り潰した時、瀬島は、陸軍の中枢である参謀本部第1部作戦課の参謀です。自分たちの立案した作戦に邪魔になる情報だったから握りつぶしたのでしょう。本書では、そうした国家の舵を握っている部局の一佐官が個人の判断で、国家の命運を左右する情報を握りつぶすことができたのかという背景が述べられています。「作戦参謀・瀬島龍三」こそ、この人物を解く鍵だということです。
電報を握り潰した時、瀬島は、陸軍の中枢である参謀本部第1部作戦課の参謀です。自分たちの立案した作戦に邪魔になる情報だったから握りつぶしたのでしょう。本書では、そうした国家の舵を握っている部局の一佐官が個人の判断で、国家の命運を左右する情報を握りつぶすことができたのかという背景が述べられています。「作戦参謀・瀬島龍三」こそ、この人物を解く鍵だということです。
作戦は、瀬島等作戦参謀が立て、作戦課長、第1部長、参謀総長の認可のもとに大本営の命令として実施されますが、実質は現場(どの戦力が何処にいるか)を把握している佐官クラスの作戦参謀の意見が無条件で採用されていたということです。
【陸軍大学校】
この作戦課の参謀たちは、陸軍大学校の卒業席次が5番以内の者(御賜の軍刀組)に限られています。幼年学校→士官学校→陸軍大学校というエリート養成コースの成績優秀な5人です。
陸軍大学で学ぶのは主に戦術ですが、これには正解というものがありません。優秀な成績をおさめるためには、如何に教官に気に入られる回答をするか、教官に気に入られる生徒であるかということにかかっているわけです。そこでは、個性や独創はほどほどに、日本陸軍という組織に順応した人間と回答が求められるということです。そうした成績優秀者5人が、戦争遂行の中枢「参謀本部作戦課」に配属されます。日本陸軍は、自分自身を再生産していることになります。
(陸大で教える)戦術も教官の考えに一致させようとその顔色をうかがう風潮もあった。もともと戦術は、芸術作品と同じでベターはあってもベストはあり得ない。学生の書く答案は、教官の主観的な判断によって採点される。つまり人間の感情が働く。瀬島に限らず陸大の軍刀組は、教官の気にいられるように答案を書くのに長けていたから、それだけ成績をあげたと思われるし、ときには教官がこのような回答がほしいと思っているのを予期して、それに近い回答をだし、文章力でまた教官を泣かせる才をもっていたといえる。・・・日本陸軍の組織原理に心情も思考も適合させて陸大を卒業した軍人---そのひとりが瀬島龍三だったといえよう。
軍刀組は、言い方は悪いですが、上官に阿る才能があったということです。瀬島龍三は、陸軍大学をトップで卒業し、関東軍の参謀を経て1940年に参謀本部作戦課に配属されます。瀬島龍三のその後の行動は、この陸軍大学をトップで卒業した才能に帰結されるのではないかと思います。
【参謀】
瀬島は、参謀本部から終戦間際に関東郡参謀に転じ、11年のシベリヤ抑留を経て伊藤忠商事の経営者となり、第二次臨調(土光臨調)委員として国鉄、NTT民営化に辣腕を振るいます。瀬島は、自分の人生を4期に分けるそれぞれの時期に、常に上位の者を戴いて活動しています。参謀本部では参謀総長、シベリヤ抑留時ではソ連政治将校、伊藤忠商事では越後正一、第二次臨調では中曽根康弘。そして瀬島は、陸軍大学校で上官が気にいる答案を書いたように、これら上位の者の気に入る回答を書いてみせたわけです。
宮仕えと言ってしまえばそれまでですが、瀬島にはそう言い切れない問題があります。瀬島は、大本営参謀として数々の作戦を立案して多くの将兵を死地に追いやっています。またシベリヤでは、戦後補償の一環として50万の捕虜を労働力としてソ連に引き渡した疑惑についても取り沙汰されています。そうしたことに一切口を閉ざしたまま、第二臨調などの公人としてして活動することに対して、著者は疑問を呈します。瀬島龍三は、語るべきことを語らず、取るべき責任を取っていないと。
瀬島龍三は、口を閉ざしたまま2007年亡くなっています。
いまの混沌とした時代、瀬島さんのような存在は必要なのかも知れませんね。
by cocoa051 (2014-03-02 02:45)
増税なき財政改革と言った土光さんにはしびれます。
by べっちゃん (2014-03-02 08:14)