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角田房子 閔妃暗殺②(1988新潮文庫) [日記(2019)]

 引き続き角田房子『閔妃暗殺閔妃(ミンビ)暗殺―朝鮮王朝末期の国母 (新潮文庫) 』を読んでいます。
江華島事件(1875)
 閔妃のクーデターによって鎖国大院君が政治の表舞台から去ったことをチャンスとして、明治政府は軍艦三隻を派遣して恫喝外交を始めます。ペリーの真似です。江華島の朝鮮軍から砲撃を受けたためこれに報復、江華島事件を起こします。朝鮮が日本の軍艦の挑発に乗せられたわけです。事件は日朝修好条約(不平等条約)の締結で終わり、1877年に釜山を開港します(1879元山、1880仁川開港)。日本を皮切りに1882年にはアメリカ、次いでイギリス、ドイツと国交を結び、朝鮮は開国します。
 著者は江華島事件の賠償と条約締結の使節団の中に、後に閔妃暗殺で重要な役割を担う岡本柳之助(砲兵大尉)の名前を見いだし、岡本と陸奥宗光の関係から、閔妃暗殺の影に陸奥がいたことを推測します。

 明治維新1868年に早くも朝鮮に親書を送っています。明治政府が何故これほど朝鮮にこだわったのか?。朝鮮通信使の伝統、一足早く近代化に踏み出した隣国のよしみ、貿易による利益、列強のように植民地が欲しかった?。朝鮮に貿易で利益の上がる産物ははなく、植民地として投資価値も疑問。江戸末期から日本にはロシアの南下を恐れる思想的風土があり、その防波堤として朝鮮半島に橋頭堡を築く必要があったと思われます。
 韓国の”民族史観”によると、日帝が朝鮮を植民地にして収奪したということになっていますが、『朝鮮紀行』を読むと、李朝末の朝鮮にそもそも奪うものは何も無かったのではないかと思われます。イザベラ・バードによると、

通常の意味での「交易」は朝鮮中部と北部のおおかたには存在しない。つまり、ある場所とほかの場所とのあいだで産物を交換し合うことも、そこに住んでいる商人が移出や移入を行うこともなく、供給が地元の需要を上回る産業はないのである。

ということになります。朝鮮の経済史があれば読んでみたいです。

壬午軍乱(1882)
 きっかけは兵士への給与支払い。これが横領による量目不足だったため兵士の怒りは軍乱へと発展します。李朝の横領というのは病弊みたいなもので、給与支払いの各段階で行われわけですから末端の兵士はたまったものではありません。横領は『朝鮮紀行』にも繰り返し記されています。反乱軍は大院君と結び、これに貧民が加わって、”反閔(妃)、反日”の様相を呈します。反日は、日本の軍事支援で生まれた別枝軍に対する国軍兵士の反感、開国より物価が上昇した庶民の反感です。これに干魃による大凶作、コレラ流行が加わったものと思われます。”反閔”が大院君と結び付くしか無く、第三の極が無いというのがこの時代の朝鮮の悲劇です。

 反乱軍は別枝軍の日本軍事顧問、日本と条約を結んだ閔氏の高官を殺害、日本公使館を焼き討ちにし、民間の日本人も殺され公使・花房義質は命からがら長崎に逃げます。反乱軍は閔妃を殺すため王宮に乱入し閔妃は逃亡。この頃から閔妃暗殺の下地はすでにあったわけです。反乱の背後に大院君の在ることを知った王(閔妃)は大院君に乱を終息させ、大院君は生死不明の閔妃の国葬を断行し葬り去ろうとします。清は朝鮮の要請に基づいて
出兵し、日本もまた江華条約に基づいて出兵。大院君は清に調停を依頼し、清は軍乱を煽動した大院君を天津へ拉致します。清はこう発表します、

大院君をソウルに置けば、外は日本と衝突して戦火を見ることは明らかであり、内は国王や重臣たちと相容れることなく、一大変事を誘発する形成であったため、清国は日韓国交の和平を保つ最善の方策として、大院君を拉致した。

 大院君が拉致されても、王も臣下も気にしなかったようで、閔妃などは大喜びだったことでしょう(笑。王の父親は宗主国に拉致され、国母・閔妃は兵士に殺されかけ、政権は統治能力を完全に失っているというという有様。閔妃は50日後に逃亡先から昌徳宮に戻って復権を果たし、大院君は3年天津に幽閉されます。

 軍乱の後「済物浦条約」が結ばれ、50万円の賠償金を払うことになります。50万円は10年割賦。朝鮮政府は日本の銀行から借りて払うこととなりますが、17万円借りて12万は国庫に入れ残りの5万円を賠償金の支払い当てます。当座の資金繰りに事欠いていたわけです。15人の留学生が来日しますが、朝鮮政府は留学費が払えず日本政府が肩代わりするという状況で、国家財政は完全に破綻しています。
 日本の近代化を目の当たりにした留学生たちによって、明治維新をモデルとした新政権樹立を目指す”甲申政変”が起きます。

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