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映画 空母いぶき(2019日) [日記 (2021)]

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 久々に映画。
 中国は尖閣諸島を自国の領土と主張し、武器を搭載した警備艦が、尖閣諸島の接続水域に頻繁に出没しています。米国は、日本、オーストラリア、インドの4カ国が参加するQUADを結成して中国を牽制、アジア版NATOが進みつつあります。という情勢下で、東シナ海で自衛隊が戦争の危機に直面する『空母いぶき』はリアリティのある映画です。原作は、『沈黙の艦隊』の〈かわぐちかいじ〉です。

 東南アジアの島嶼国家カドレフ(架空)が〈東亜連邦〉を結成し(〈大東亜共栄圏〉を連想して笑いますが)、沖ノ鳥島西方450kmの波留間群島の領有権を主張します。20XX年12月23日03:15、東亜連邦は群島付近で巡視船を攻撃し、付近の初島(架空)に乗員を拉致拘束、カドレフの国旗を立てます。日本は〈空母いぶき〉を中核とする第5護衛隊でこれに対抗、一触即発の危機が訪れるという幕開きです。原作は東亜連邦ではなく「中国」だそうです。
 日本は現実には空母を保有せずヘリを搭載した護衛艦だけですが、「いぶき」は戦闘機(F35)を搭載した「空母」。4隻の護衛艦と潜水艦とともに〈第5護衛隊群〉を構成しています。戦闘機が飛びミサイルが発射され、潜水艦と魚雷が登場しないと緊迫感が出ません。ソナーの探査音を聞くとワクワクします。

 憲法9条で縛られた日本国と自衛隊が、他国の侵攻に際してどう行動するか、国を護るとはどういうことかが問われます。政府は、第5護衛隊には軍事衝突を避け拉致された乗員の救出を命じ、国連安保理に調停を依頼し、内閣は専守防衛派と防衛出動派に分かれ侃々諤々。政府同様、「いぶき」でも防衛出動の艦長と専守防衛の副艦長で意見が分かれます。たとえば、東亜連邦の潜水艦が「いぶき」に向かって来る状況下で、副長は回避を第5護衛隊群指令に具申し、艦長は「脅しに負けて屈するか、それとも戦う姿勢を取るか、試されているのは我々の覚悟だ」と直進を具申します。全編、この「戦う覚悟」がテーマです。
 全艦に「総員戦闘配置」の号令が流れ、「戦闘って、何と戦うんだ」と言うのが、「いぶき」に取材で乗り込んでいるベテラン新聞記者とnetニュースの女性記者。自衛官と内閣が第一の視点とするなら、このふたりは事件を外から眺める視点です。ふたりは、目の当たりに戦闘を体験し、戦争など起きる筈はないという平和慣れした市民の代表です。
 もうひとつの視点が、コンビニの店長と女性アルバイト。店長はクリスマスイヴのために黙々と菓子を靴下に詰め、アルバイトは、戦争の危機で買い占めに走る客の応対に忙殺されます。このふたりは、第三の視点、生活者(国民)の視点です。否応なく戦場に投げ込まれた第5護衛隊自衛官の視点、首相官邸で「いぶき」動きに神経を尖らせ戦争回避に動く閣僚の視点に、第二、第三の視点を加えることで戦争の危機を重層的に捉えようとしたのです。重層的に描く筈だったのですが、残念ながら「浮いてしまって」います。

 さらに失敗したのがラスト。「いぶき」と戦闘機60機を搭載した敵空母が戦闘に突入しようというその時、国籍不明の5隻の潜水艦が現れます。潜水艦は魚雷を〈いぶき〉と東和連邦の空母双方に発射し、魚雷は空母の手前で自爆します。一触即発の危機に割って入ったので。浮上した潜水艦は、米英仏露中の国旗と国連旗を掲げ、なんと国連安保理事会が派遣した国連軍だったのです、「あり得ない!」。かくして、戦争勃発の悪夢、庶民にとってはクリスマスイヴの24時間が終わります。

 中国が尖閣諸島で領海侵犯を繰り返し、北朝鮮がミサイル発射実権を繰り返すなかで、国連が正義の味方のようなノーテンキな映画をよく作れるものだと思います。その1点を除けば、それほど悪い映画だとは思いません。軍事・政治シミュレーション映画としては面白いです。他国から侵略をうけ、憲法九条と防衛出動の狭間でうろたえる首相、演じた佐藤浩市の演技は上手いものです。「いぶき」の艦長の西島秀俊、副長の佐々木蔵之介より一枚上手です。

監督:若松節朗
原作:かわぐちかいじ
出演:西島秀俊、佐々木蔵之介、佐藤浩市、本田翼

タグ:映画
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