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木村紅美 雪子さんの足音(2018講談社) [日記 (2023)]

雪子さんの足音  暮に読んだ『あなたに安全な人』が面白かったので読んでみました、第158回芥川賞候補作です。『あなたに安全な人』より薄い120ページの中編。40歳の男が、学生時代に住んだ高円寺のアパートの大家「雪子さん」との思い出を語る小説です。DEENやTUBEの音楽の話がありますから1990年代の東京の大学生の話でしょう。

 薫は、雪子さんが熱中症で孤独死をしたことを新聞で知り、大学時代に住んだアパート月光荘と大家の雪子さんに想いを馳せます。登場するのは、雪子さんと、同じアパートの住人の小野田香織のほぼ二人。雪子さんは東京大空襲の思い出を語りますから、60代の女性。夫に死なれ引きこもりの一人息子を亡くしている天涯孤独の女性。薫の部屋の一軒於いて隣に住む小野田さんは、薫とは同い年で声優ができるほど声は綺麗だがはっきり言ってブス。薫は、雪子さんの息子は雪子さんと小野田さんが共謀して殺したのではないかと疑っています、ホラー?。

 雪子さんは薫と小野田さんを食事に誘い手料理を御馳走し、余った惣菜で弁当を作って差し入れるという面倒見のいい大家。時によっては、薫と小野田さんの二人を招待して自分は外出してしまうという見えすいた手を使って間を取り持とうとします。薫が実家に帰っている間に、部屋は綺麗に掃除され、(口から出任せに)作家を志していると言ったため、小遣いまで呉れる始末。
 小野田さんは雪子さんの企みに乗り、結婚して雪子さんの養子にならないかと薫に持ちかけます。それが雪子さんの望みだと言って関係を迫る始末。この提案は拒否しますが、薫のだらしないところは、雪子さんの親切の押し売りを鬱陶しいと思いながら食い物と小遣いに釣られて関係を絶てない辺り。
 この辺りまで来ると、老後に不安のある雪子さんと恋人が見つからない小野田さんに薫が絡め取られ、アパートの一室に飼われるホラー小説に違いない、と結末を読んでしまいますw。

 ガールフレンドからの手紙が届かなかったため、雪子さんか小野田さんが隠したに違いないと、薫はふたりの部屋に忍び込みます。雪子さんの部屋は初老の婦人の片付いた部屋で、遺産は国境なき医師団に寄付するようにと書いた遺書が発見されます。小野田さんの部屋は、汚れた食器が積み重なり脱ぎ捨てた衣服で足の踏み場もない有り様。手足がもがれ腹を裂かれて綿のはみ出た縫いぐるみが散乱、やはりホラーだ!。薫はふたりの毒牙に倒れるのか?。

 この後薫は月光荘を出ますからホラーとはなりませんが、雪子さんが薫の部屋のに食事を運ぶ足音と小野田さんの手足をもがれた縫いぐるみが脳にシッカリ刷り込まれ、薫は40歳になっても未だ独身、やはりホラーだw。青春を懐かしんだ小説の様でもあり、身寄りのない老人と結婚願望の強い女性が老人の遺産を餌に若い男を取り込もうと云うサスペンスのようでもあり…と。テーマがハッキリしていた『あなたに安全な人』とは違って、なかなか読み方の難しい小説です。
 2019年に映画化されたようです。キャスティングは、雪子さん→吉行和子、小野田さん→菜葉菜、薫→寛一郎だそうです。

タグ:読書
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