SSブログ

川村裕子 更級日記 (1) (2007角川文庫) [日記 (2023)]

更級日記 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫)1.jpg
 蜻蛉日記、和泉式部日記、紫式部日記とともに有名な平安時代の日記文学です。蜻蛉日記の成立は974年ごろ、枕草子が書かれたのは1001年頃、和泉式部日記と紫式部日記の成立は1008年頃。更科日記は、1020年~1059年の出来事を綴った日記(回想記、1060年頃成立)ですから、10世紀末から11世紀にかけて次々に女性によって日記文学が書かれたことになります。かな文字が使われるようになったのは10世紀ですから、かな文字の普及と女性の日記文学の成立は深い関係があるのでしょう。

 解説によると、更科日記は 

第1章:旅の記 (1~13段) ・・・13歳
第2章:都での生活 (14段~48段) ・・・13歳~31歳ごろ
第3章:宮仕えから結婚へ(49段〜62段).....32歳ごろ~37歳
第4章:物詣での記 (63段~74段) ...... 38歳〜47歳ごろ
第5章:晩年(75段~82段) ・・・ 48歳ごろ~52歳ごろ

の5章82段、原稿用紙100枚弱の「日記」だそうです。13歳の菅原孝標女(むすめ)が、父親とともに上総から都に帰る旅から始まって、晩年の52歳までの一生を回想したものです。藤原道綱母から始まって、和泉式部、紫式部、菅原孝標女まで日記の著者はすべて受領階級の婦女子。平安文学は彼女たちに支えられたわけです。
1.jpg 千葉県市原市の菅原孝標女像
源氏物語
世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばや」と思ひつつ、つれづれなる昼間宵居などに、姉、継母などやうの人々の、その物語かの物語、光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらにいかでかおぼえ語らむ。(1段)

  姉や継母の話から源氏物語の存在を知り「いかで見ばや」と憧れるわけです。夢見る13歳。千葉県市原市に菅原孝標女の像があるそうです。都へ上れば源氏が読めると旅立つ13歳の少女を彷彿とさせる像です。少女の名前は伝わっていませんが、藤原道長の娘は彰子(しょうし)、清少納言が仕えたのは定子(ていし)ですから、孝標女も*子と呼ばれていたのでしょうか。

 3ヶ月かけて都に帰った孝標女は、「若紫」(5帖)を手に入れて読みますが、前後が無いわけですから欲求不満→続きが読みたい!となります。念願が叶って叔母さんから櫃(ひつ)に入った源氏物語全54帖を贈られます。源氏が完成したのは1008年頃ですから十数年後には櫃に入った『源氏』が流通していたことになります。

はしるはしる、わづかに見つつ、心も得ず心もとなく思ふ源氏を、一の巻よりして、人もまじらず几帳の内にうち臥して、引き出でつつ見る心地・・・昼は日ぐらし、夜は目の覚めたるかぎり、灯を近くともして、これを見るよりほかのことなければ・・・(17段)

こんな様子でしょう、
で、彼女は空想します、

ひたすら物語だけに夢中で「私はまだ今のところ、幼いからきれいじゃないけれど、きっと年ごろになったら器量だってすごく美しくなって、髪もすばらしく長くなるわ。私だって、光源氏様が愛した夕顔や、宇治の大将様(薫)に愛された浮舟の女君のようになるのだわ」と思っていた気持ちは、今考えると、ひどく浅はかで、あきれたものだったのです。

贈答歌
 孝標女は源氏の「色好み」に憧れる女性ですが、実際に恋があったんでしょうか?。著者は、29段にそれらしい記述を見つけます。東山の霊山に詣った際に岩清水を飲んでいると、「この水は美味しいね」と話しかけてきた人がいます。孝標女は歌で返します、

奥山の 石間の水をむすびあげて あかぬものとは 今のみや知る

その人は

山の井の しづくににごる水よりも こはなほあかぬ 心地こそすれ

と返してきます、贈答歌ですね。さらに都に帰ると

山の端に 入日の影は 入りはてて 心ぼそくぞ ながめやられし

と歌を贈ってきます。歌が自宅に届くのですから、ふたりの関係が偲ばれます。きっと霊山でデートしていたんでしょうね。孝標女はこのとき18歳。

浮舟の女君
このごろの世の人は十七 八よりこそ経よみ、行ひもすれ、さること思ひかけられず。からうじて思ひよることは、「いみじくやむごとなく、かたち有様、物語にある光源氏などのやうにおはせむ人を、年に一たびにても通はしたてまつりて、浮舟の女君のやうに山里に隠し据ゑられて、花、紅葉、月、雪をながめて、いと心ぼそげにて、めでたからむ御文などを時々待ち見などこそせめ」とばかり思ひ続け、あらましごとにもおぼえけり。(37段)

光源氏のような男性に、1年に1回でいいから通ってほしい、浮舟のように山里にひっそりと暮らし恋の手紙が届くのを待っているような生活を夢想しているわけです。浮舟は薫と不倫相手・匂宮の間で思い悩む女性なんですが、孝標女はそんな悲恋の主人公に憧れていたわけです。18歳の夢見る乙女は、今も千年前も変わりはないようです。 →(2)へ

タグ:読書
nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。