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川村裕子 更級日記 (2) (2007角川文庫) [日記 (2023)]

結婚
 父親の菅原孝標が引退し、何故か母親が尼となって在家のまま出家してしまいます。孝標女は 、読書三昧の生活から現実に引き戻されます。そんな折り、祐子内親王家から、ヒマなら宮仕えをしませんかと声が掛かり、彼女は女房となります(32歳頃)。紫式部も清少納言も(若い頃には和泉式部も)宮仕えをしていますから、貴族の娘が宮中に入って貴人に使えることはごく普通だったのでしょう。

 宮仕えの翌年、親の勧めで39歳の橘俊道と結婚させられます。孝標女は33歳、当時では相当の晩婚で、それまで彼女に通う男がいたのかいなかったのか?。日記には「霊山の出会い」以外にそれらしい話は記されいません。『更科日記』は53歳の孝標女が来し方を振り返った回想記ですから、男女の出会いがあれば書いた筈、無かったのか書けない禁断の恋だったのか?。

 その結婚は如何なるものだったのか ?。光源氏のような男性に通ってほしい、薫大将に匿われる浮舟のような生活をしたいと夢想していた孝標女に、39歳の俊道との結婚生活に満足できる筈はなく、

その有様の、たちまちにきらきらしき勢びなどあんべいやうもなく、いとよしなかりけるすずろ心にても、ことのほかにたが(違)ひぬる有様なりかし

現実は物語のように「きらきら」したものではある筈はありません(55、56段)。また内親王家から出仕の要請があり、主婦のまま宮仕えが始まります。

源資通
 祐子内親王は天皇の娘、皇女ですから、殿上人や上達部もやって来ます。孝標女は源資通に出会います。(62段)

星の光だに見えず暗きに、うちしぐれつつ、木の葉にかかるおとのをかしきを、「なかなかに艶にをかしき夜かな 月の隈なく明かからむも はしたなくまばゆかりぬべかりけり。

時雨が降って星の光もない夜で、「こんな夜も奥ゆかしくていいものですね、月が煌々と輝いていると、はっきり見えすぎて興ざめですから」などと話しかけてきます。源資通は3歳年上で管弦、和歌に秀でた人物らしいです。春が好きか秋が好きかと季節の話に及び、資通は春がいいと言います。

あさみどり 花もひとつに霞つつ おぼろに見ゆる 春の夜の月 と孝標女は歌で同意し、資通は今宵より 後の命の もしもあらば さは春の夜を 形見と思はむ と返します、相聞歌ですね。資通は冬もいいもだと思い出を語り、。孝標女は、別れし後には、誰と知れじと思ひしをと自分が何処の誰とも告げずその夜は別れます。なかなかロマンティックな出会いです。

 この出会いには後日譚があります。翌年の8月に清涼殿で管弦の催しがあり、資通が孝標女の局(部屋)を訪れ、「あの時雨の夜のことは、片時も忘れることなく恋しく思っています」と言うので、彼女は「何さまで 思ひい出でけむなほざりの 木の葉にかけし 時雨ばかりを」と問います。人が来たのでそれで別れたのですが、後に友人が「ありし時雨のやうならむに、いかで琵琶の音のおぼゆるかぎり弾きて聞かせむ」と仰っていたいたことを聞かされます。ゆかしくて、われもさるべきをりお待つに、さらになし(再会の機会を待っていたが、そんなチャンスはなかった)となります。さらに翌年の春の夕刻に資通が局を訪い、この時も人が多く話せないままに終わります。あからさまに口説いてくることもなく、この出会いはいつの間にか終わります。孝標女35歳~37歳の甘くも切ない出来事です。原稿用紙100枚の回想記にしては、気合が入っています。
 『更級日記』には夫・俊道の出番が少ないそうで、孝標との間には一男二女の子供も生まれていますが(本書を読む無限り)子供の記載も殆どありません。猫が可愛いという記述はあるのですがw。
 この後は、寺社詣や子供の成長と家庭の切り盛りに励み、51歳のとき夫俊道が亡くなります。

『日記』のラストは、
 年月は過ぎ変はりゆけど、夢のやうなりしほどを思ひいづれば、心地も惑ひ、目もかきくらすやうなれば、そのほどのことは、まださだかにも覚えず。
 人々は皆ほかに住みあかれて、古里にひとり、いみじう心細く悲しくて、ながめあかしわびて、久しうおとづれぬ人に、
 茂りゆく よもぎが露に そぼちつつ 人にとはれぬ 音をのみぞ泣く

 『更級日記』の魅力は、父親の赴任先・上総国で母や姉の語る源氏物語に心ときめかせ、都に帰って念願の源氏を読んだ感動など、13~14歳の少女のキラキラしたトキメキです。そのキラキラも年を経て色褪せ「月も出でで 闇に暮れたる姥捨てに  なにとて今宵 尋ね来つらむ」という歌を思い出し、人に訪はれぬ音をのみぞ泣くとなります。孤独な晩年、今も千年前も変わらない人生の実相です。孝標女は、これではイカンと『更級日記』を書き出したのではないでしょうか。
 『和泉式部日記』『紫式部日記』『枕草子』と読んできました。『更級日記』は地味ですが13~14歳の孝標女は魅力的です。次は『蜻蛉日記』。
【備忘録 当blogの王朝日記】
島内景二 王朝日記の魅力
和泉式部日記
紫式部日記
枕草子
更級日記

タグ:読書
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