SSブログ

紫式部日記 ④ 源氏物語の誕生 (2009角川文庫) [日記 (2022)]

紫式部日記 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫) 続きです。青文字の原文は読み飛ばして下さい。
源氏物語の誕生
年ごろつれづれに眺め明かし暮らしつつ・・・行く末の心細さはやるかたなきものから、はかなき物語などにつけてうち語らふ人、同じ心なるは、あはれに書きかはし、すこしけ遠き、便りどもを尋ねても言ひけるを、ただこれを様々にあへしらひ、そぞろごとにつれづれをば慰めつつ、世にあるべき人かずとは思はずながら、さしあたりて、恥づかし、いみじと思ひ知るかたばかり逃れたりしを、さも残ることなく思ひ知る身の憂かな。

 久々に実家に戻り過去を振り帰るシーンです。夫が亡くなってこの何年か、紫式部は娘を抱え将来に不安を覚えて暮らしてたようで。そんな中で「物語」について語り合える友達の存在が支えになったといいます。感想を手紙に書いてやり取りし、「物語」によって慰さめられ寂しさを紛らわして来たと書いています。
 この「物語」とは『竹取物語』『伊勢物語』『蜻蛉日記』でしょうか?。紫式部は『日本書紀』も読んでいたようなので『古事記』も含まれるかも知れません。読書で行く末の心細さはやるかたなき気持ちを紛らわしていたようです。父親の藤原為時は、越前守になる前は天皇に漢学を教える官僚でしたから、紫式部も漢学を学び、「物語」が手に入る環境だったのでしょう。物語を「読む」ことから次第に物語を「書く」ことを覚え、『源氏物語』が誕生します。

師走29日
師走の二十九日に参る。・・・
夜いたう更けにけり。(中宮は)御物忌におはしましければ、御前にも参らず、心細くてうち臥したるに、前なる人々の、 「内裏わたりはなほいと気配異なりけり。里にては、いまは寝なましものを、さもいざとき履のしげさかな」と、色めかしく言ひゐたるを聞く。

年春れて わが世ふけゆく 風の音に 心のうちの すさまじきかな


とぞ、ひとりごたれし。

師走の29日です。紫式部は一人心細く横になっています。「内裏はやっぱり違うわね。家だったら今頃は眠っている時刻なのに、殿方の靴音がひっきりなしで本当に寝付けやしない」女房たちが艶っぽい言い方で話すのが耳に入ります。妻問婚で一夫多妻の時代ですから、公達たちが女房の元を訪れるわけです。紫式部は30を越えた年増ですから、若い殿方の訪問はありません。後の段で、道長と思われる人物が局の戸をたたいた、とは書いていますが。そんな年の暮れに一首

年暮れて わが世ふけゆく 風の音に 心のうちの すさまじきかな
(現代語訳)年は暮れ、私の人生は更けてゆく。また一つ歳をとるのだ。吹きすさ ぶ風にさえ場違いと言われるようで、心の中はただ荒涼とするばかりだ。

 夫を亡くして頼る人も無く、一人娘を抱えて気遣いの多い宮仕え、式部の寂寥感が溢れています。

消息体
(現代語訳)このついでに女房たちの姿形をお話ししてお聞かせしたら、それはおしゃべりが過ぎることになりましょうか。現在の同僚のことは、まさか。顔を突き合わせてお勤めしている人のことは厄介ですもの。それに、「これはちょっとね…」などと、少しでも欠点のある人のことは、触れないでおきましょう。

同僚の女房たちの品定めが始まります。著者によると、この段は原文では急に「侍り」が多用され、「です、ます」のおしゃべり口調になったと言います。

これまでは基本的に日を追って出来事を記してきた書き方が突然随筆風に変わって、ここからは同僚女房の紹介、斎院女房の話を糸口にした彰子後宮への世評、有名な清少納言批判を含む三才女批評に及ぶまで、話題が次々と展開します。気を付けて読むと文末には「ございます」にあたる「侍り」が前に比べてずっと多くなっており、果てには「手紙には書けないことですが申し上げました」とか「読んだらお返しください」などと挨拶のような文章が現れます。つまりこの部分は、これまでの記録形式とは違い手紙文体で書かれているのです。そのため「消息(手紙文)体」と呼ばれています。

巻末の解説によると『紫式部日記』は、

 1)寛弘五年秋の彰子出産前から翌年正月三日までも記録
 2)消息体 「このついでに」に始まる消息(手紙文)体
 3) 年次不明の断片的エピソード
 4)寛弘七年元日から正月十五日までの後半記録部分

から成り立っているそうです。道長が紫式部に彰子出産のルポルタージュを書けと命じたとするなら、2),3)は余分な記述です。小説家、紫式部としては、宮中の様子を挿入することでルポにリアリティーを付けたかったのでしょうか。もっとも清少納言への批評はちょっと筆が滑った?。

 さてその女房たちです。「宰相の君」は、ふっくらとした美人で口許に艶っぽい印象がある。「小少将の君」は、上品で優雅で春二月の垂れ柳ような風情。若い女房では、「小大輔」は理知的で誰もが「素敵な人だ」と感じる今風の容貌。「源式部」は顔立ち端正、カワイイ感じのお嬢様風。若い貴族が放っておかず、内裏ではすぐ噂になるのようです。
 いずれも知性と教養、美貌を兼ね備えた選りすぐりの貴族の令嬢です。内裏の若い公達が争って通うので、「殿方の靴音がひっきりなしで本当に寝付けやしない(私には通ってくる男はいない)」という女房たちのぼやきとなるわけです。
 外見だけではもの足りないので、彼女たちの性格も語ってみせます、

(現代語訳)こんなふうに外見中心にあれこれ言って来ましたけれど、性格というと、これが本当に難しいものですわね。それも人それぞれ、ひどく悪い人もいません。また、抜群に素敵で、落ち着いていて、才覚も教養、風情も、仕事の能力も…などというと、全部持つのはまず難しいですわよね。十人十色、どの方のどの点をとりあげようかとずいぶん迷いますわ。あらまあ、本当に偉そうなことばかり言ってしまって恐縮です。
あからさまに書くわけにもいかないので適当にはぐらかせています。


nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。