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映画 ある画家の数奇な運命 (2018独伊) [日記 (2023)]

ある画家の数奇な運命(字幕版)  原題”Werk ohne Autor”「作者無き作品」ナチスの支配、ファシズムと敗戦、復東西分裂と激動のドイツ現代史を背景に、実在の画家ゲルハルト・リヒターの半生が描かれます。監督は、旧東独の監視社会を描いた『善き人のためのソナタ』のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク。3時間の大作です。
 1937年ドレスデン、美術館で展覧会を観る少年クルトと叔母のエリザベトから始まります。二人が観たのはナチス主催の「頽廃芸術展」。解説員は、抽象画のカンディンスキーやモンドリアンは精神障害者であり、彼らの遺伝子が拡散しないようにする必要があると説明します。エリザベトは、「頽廃芸術」が好きだとクルトに告げます。

 エリザベトは統合失調症を患い、施設に収容されて強制不妊手術(断種)を受け、「生きるに値しない命」の烙印を押されて安楽死させられます(=ホロコースト)。

 
第二次世界大戦後、クルト(トム・シリング)は共産主義国となった東ドイツ・ドレスデンで、美術大学に入ります。社会主義リアリズムvs.キュビズム(ナチスの頽廃芸術)の構図の中で画家として生きることになるわけです。
クルトは美大の同級生エリー(パウラ・ベーア)と恋に落ちます。エリーの父親こそ、統合失調症のエリザベトを安楽死させた医師ゼーバント教授(セバスチャン・コッホ)だったのです。ゼーバントは、娘の妊娠相手がクルトだと知ると、

問題なのは年ではなく相手だ、父親は掃除人の落ちぶれて自殺、私の父なら”淘汰”と呼ぶ、子孫に遺伝すると困る阻止せねば...

「アーリア人種優越論」を信奉し、ユダヤ人や精神障害者、身体障害者を「生きるに値しない命」として抹殺したナチズムの信奉者は、不適格者の遺伝子が家系に入ることを防ぐため娘を中絶します。

 クルトは、写真を模写するフォト・ペインティングの技法にたどり着きます。エリザベトと幼い自分の写った写真に、ゼーバントと彼の上司のポートレートを重ねた絵を完成させます。クルトはゼーバントがエリザベトの安楽死の決定者だとは知りませんが、偶然にも、ホロコーストの被害者、加害者、画家を一枚の絵に描いたことになります。偶然が真実を写し出したのです。アトリエを訪れたゼーバントは愕然とし、クルトの絵を評価する仲間は個展を開くことを勧めます。
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 クルトの
フォト・ペインティング   ゲルハルト・リヒターの作品

 クルトは後にフォト・ペインティングについてこう語ります。数字の羅列は何の意味も持たないが、それが宝くじの当選番号と一致した時、数字は真実味を帯びて美しくなる、と。クルトの作品を紹介するTVキャスターは、クルトは自分の存在を消す手法で絵を描いた最初の画家であり、その絵は”Werk ohne Autor”(原題)「作者なき作品」だと解説します。

 映画は、「退廃芸術展」から始まり「数奇な運命」を経て現代美術の巨匠ゲルハルト・リヒターに結実します。

 面白いかと云うと、ドイツの観客は現代史の詰まったこの映画に感慨ひとしおなのかも知れません。日本人としては、サスペンス味の効いた『若い芸術家の肖像』(ジョイス)、ビルドゥングス・ロマンとして楽しめます。完成度という点では『善き人のソナタ』には及びませんが、マァお薦め。

監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演:トム・シリング、セバスチャン・コッホ、パウラ・ベーア

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