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読書感想文 川村裕子 現代語訳 和泉式部日記 [日記 (2022)]

和泉式部日記 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)
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 夏休みの宿題「読書感想文」の第3弾です。平安時代の日記文学『和泉式部日記』など読んで面白いのかと思われるかも知れませんが、これが実に面白い。もちろん現代語約+解説です。学校では古文の文法が中心でしたが、日記文学の生まれた背景や時代を合わせて読むと、平安人の現代人と変わらない息使いが伝わってきます。

以下読書感想文本文。

 《和泉式部》は越前守・大江雅致の娘で夫も和泉守・橘道貞、「受領階級」の出身の貴族としては中流?。その和泉式部が冷泉天皇の第三皇子・為尊親王と浮名を流し、親王が亡くなると弟の敦道親王と恋仲になります。身分違いの恋と兄弟との恋は宮中でスキャンダルとなり、藤原道長からは「浮かれ女」と言われ、紫式部には、歌と文章の才能はあるが「怪しからぬ方」と日記に書かれています。

 和泉式部の夫道貞は、長保元年(999、式部22歳)に和泉守(地方長官)となりに和泉赴任しますが、式部は都に留まったようです。長保三年(1001、式部24歳)に天皇の第三皇子・為尊親王と恋愛関係となり、この時式部が離婚していたのかどうか?ですが、中流貴族の娘と天皇の息子の恋ですから話題となります。
 平安時代の結婚は妻の元に通う「妻問婚」。男性は、これはと思う女性に和歌を贈り、返歌があれば女性の元に通って3晩連続して通えば婚姻成立だったそうです。『日記』には、そうした平安貴族の恋愛の様子が記されています。

花橘
 和泉式部の最初の恋人・為尊親王は1002年26歳の若さで亡くなります。喪の明けた翌1003年のこと、親王の弟・敦道親王の従者が式部に橘の花を届けに来ます。橘の花は、「五月待つ 花橘の香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする(古今和歌集)」を踏まえたメッセージで、和歌の代わり。当時の恋は和歌の交換から始まります。敦道親王は橘の花に託して兄の恋人・和泉式部にモーションを掛けたわけです。親王は兄の愛人・式部を知っていて、美人の誉れ高い?式部に横恋慕していたのかも知れません。式部が恋多き女性であることも知っていた筈。兄が亡くなったので、ここぞとばかり言い寄ったわけです。
 和泉式部は橘に掛けたメッセージを読み取り、「薫る香に よそふるよりは ホトトギス 聞かばや同じ 声やしたると」と返します。橘の香りより郭公の声で兄親王を偲びますという意味。

 「反応があった!」と敦道親王も歌を返します「おなじ枝に 鳴きつつをりし 郭公 声は変わらぬ ものと知らずや」。私は弟なので声は似ていますよ、亡くなった兄の代わりに私と付き合いませんか、という誘いです。ホイホイ応じてはハシタナイので、ここは一旦間を取ります。すると敦道親王から追いかけるように「うち出ででも ありにしものを なかなかに 苦しきまでも 嘆く今日かな」。告白なんかしなければよかった、告白した為にかえって苦しい想いをしているよ。
式部も歌を返します、「今日のま(間)の 心にかへて 思いやれ ながめつつのみ 過ぐす心を」。あなたは恋の告白したから苦しいと仰るが、私は為尊親王を失ってからずっと苦しいのですよ、と。恋の駆け引きです。

暮にはいかが
 やがて親王から誘いの手紙が来ます。お寂しいことと思いますので、お話でもしませんか?。よければ暮れにでも伺いますが。式部は、「なぐさむと 聞けば語らまほしけれど 身の憂きことぞ 言ふかひもなき」。慰めて頂くのは嬉しいけれど、私の悲しみは晴れそうもありません、と返しますが、これ事実上のOKの返事です。
 やがて親王がやってきます。式部は妻戸を開き縁側に座布団(円座)を出して招き入れます。いきなり部屋に上げるようなことはしません。男に顔を見せるのはハシタナイことだったようで、逢う瀬も御簾越し。

「世の人の言へばにやあらむ、なべての御さまにはあらず、なまめかし」と式部は日記にかいています。世間で言うように、なかなか「なまめかし」=イケメンじゃない。打ち解けて話す間に月が出てきます、設定は抜群!。

 縁側というのは居心地がどうもね。あなたのいる御簾の中に入れて下さい、あなたが今まで付き合ってきた男性のように無礼な振る舞いはしませんよ。式部は牽制します。今宵はしんみりと亡き兄親王を偲ぼうということでしたね、私の付き合った過去の男性?…、などと話している間に夜が更けて来ます。

 このまま縁側で夜を明かすんですか?、「分かっているでしょう」と親王は御簾の中に入り「分かっている」式部は招き入れ、恋は成就。この時親王は23歳で式部は27歳くらい。23歳の青年が恋に長けた女性の罠にはまったようなもの?、面白いです。

 式部と親王の恋は成就し、親王は正妻を追い出して式部を屋敷に住まわせ、やがて一子が生まれます。これを世間はどう見ていたかは、道長の「浮かれ女」という発現と紫式部の日記が語っている通りです。

 1007年、親王が亡くなり式部の恋は終わります。敦道親王との恋で、和泉式部は貴族社会で孤立していたはずです。真剣な恋がなぜ世間から批判されなければならないのか?。式部は「浮かれ女」と噂する世間に昂然と立ち向かい、敦道親王との恋の顛末を『和泉式部日記』として世に問います。

感想文、ここまで。
読書感想文の書き方
『蟹工船』を材料とした書き方実践編
小林多喜二 『蟹工船』・・・青空文庫利用
芥川龍之介 『藪の中』・・・映画併用、青空文庫利用 
山際淳司  『スローカーブを、もう一球』 [手(チョキ)]
須川邦彦  『無人島に生きる十六人』 ・・・青空文庫利用
坂口安吾  『ラムネ氏のこと』 ・・・青空文庫利用
藤沢周平  『蝉しぐれ・・・原稿用紙約3枚
吉村昭   『漂流』 ・・・原稿用紙約3枚
笹本稜平  『春を背負って』 ・・・原稿用紙約3枚
遠藤周作  『沈黙』 ・・・原稿用紙約3枚 
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タグ:読書
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