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映画 ザ・リトル・ストレンジャー(2018英米仏) [日記 (2020)]

ザ・リトル・ストレンジャー(字幕版) ストレインジャー1.jpg ストレインジャー2.jpg
 原題、The Little Stranger。ポスターを見るかぎりホラー映画です。ホラーを半分期待しながら観たのですが、ドアが鳴ったり、誰もいない部屋から呼び鈴が鳴ったり、出そうですが最後まで出ません。自殺か殺人か2人死人が出ますから、ミステリーかとも思うのですが最後まで犯人は不明。では一体この映画は何んなんだ?、というのが出発点です。

 地方の名家エアーズ家は、寡婦の老婦人エアーズ夫人(シャーロット・ランプリング)、戦争で負傷して足が不自由で顔に無残な火傷跡のある長男ロデリック、婚期を逸した姉キャロライン(ルース・ウィルソン)の3人暮らし。戦争後の窮迫で使用人も去り、館も荒れ放題で昔の栄光はありません。没落した貴族とその館は、『日の名残り』を連想しますが、 アンソニー・ホプキンスのような執事はいず若いメイドがひとりだけ。そのメイドの診察に医師のファラデー(ドーナル・グリーソン)がエアーズ家を訪れたことから、物語の幕が開きます。この斜陽と静謐、悲劇の予感でストーリーに引き込まれます。

 ファラデーは、母親がエアーズ家のメイドをしていたため、華やかりし頃のエアーズ家を知るひとり。館を訪れたファラデーに子供の頃に見た華やかな園遊会、館の豪華な造りや内装に感嘆した記憶が蘇ります。メイドを診察したことにより、ファラデーはエアーズ家に受け入れらます。次々と不思議な出来事が起こります。

 誰もいないはずの部屋で呼び鈴が鳴り
 エアーズ夫人は幼い頃に亡くなった長女スーザンの霊を感じ
 そのスーザンの存在を暗示する印が発見され
 狂った飼い犬がパーティーで少女を襲い
 精神の不安定なロデリックは「この屋敷には何かが潜んでいる」と
 挙句の果てに自分の部屋に放火して精神病院に収容され...と

 屋敷にはスーザンの霊がいるのか?。荒れ果てた古い屋敷、奇怪な容貌の長男、怪奇現象、とここまでは材料の揃ったホラーです。
 ファラデーは次第にキャロラインに惹かれ、結婚を申し込み彼女が受け入れます。古い屋敷を舞台にした男女の物語なのか?。キャロラインは、登場人物が語るように美人ではなく、とても名家の令嬢とは言い難い人物。ファラデーは、母親がエアーズ家のメイドをしていた事実から平民の出身と分かります。落ちぶれた名家の令嬢と平民出身の医師の恋、『斜陽』の物語?。

 呼び鈴が鳴り、3階の子供部屋に行ったエアーズ夫人は部屋に閉じ込められ人事不省となり、彼女は手首を切って自殺します。母親の死後、「(ファラデーの愛は)最初から愛じゃなかった」とキャロラインは婚約を解消して館を売りに出し、弟が回復するれば一緒にロンドンに住むと告げます。
 こうした状況下でキャロラインが3階の踊り場から落下して死にます。メイドによると、キャロラインは深夜に鍵のかかった3階の部屋に向かい、「あなた あなたが...」という言葉を残して死んだようです。裁判で、「精神疾患が原因の自殺か」と問われたファラデーは「最後の数週間における言動を振り返ると、意識の混濁がみられた、やはり自殺でしょう」と答え、キャロラインの死は自殺として一件落着。ファラデーは誰も居なくなった館を訪れ、初めて訪れた子供の頃の回想にふけって、幕。
 ホラーにしては中途半端、ふたりの人間が死んでいますが自殺なのか他殺なのか不明。ホラーでもなく、スリラーでもなく、観終わってスッキリしない映画です。

 以下ネタバレですが、映画が真相を明かしていませんから、個人的な推理に過ぎません。
 この映画は、医師ファラデーの子供時代の回想があるように、彼の独白という形をとっています。ファラデーが「信頼できない語り手」だとすれば、疑問は一挙に解決します。エアーズ夫人とキャロラインを殺したのはファラデーで、動機は館を手に入れるためです。
 ファラデーは豪壮な館とそこで暮らす華やかな一家に憧れ、いつか自分も館の主人となることを夢見ていました。数十年が経って、ファラデーが医師として館を訪れて、そこに見たのは没落したエアーズ一家。主人であるべきロデリックは館を維持できず荒れ放題、婚期を逸したキャロラインに令嬢の面影はなく、エアーズ夫人は過去の栄光にすがるも抜けの殻。数多く居た使用人は去り、たったひとり残ったメイドは、ガランとした屋敷に何者かが潜んでいると怯える始末。
 ファラデーはメイドの恐怖を利用して亡くなったスーザンの霊を演出し、館の乗っ取りを目論みます。ロデリックの恐怖を煽って追いつめ精神新病院に送り、キャロラインを取り込んで結婚の約束をさせます。エアーズ夫人にスーザンの霊が存在するかのように思い込ませ、自殺を装って殺害。遺産はキャロラインが相続し、彼女と結婚すれば館はファラデーのものとなります。ところが、「愛じゃなかった」と言いますから、キャロラインはこの企みに気づいたのでしょう。婚約を破棄し屋敷を売ってロンドンに行くと言い出します。ファラデーは城を手に入れるためキャロラインを殺害します。キャロラインが異音のする3階の子供部屋で出会い「あなた あなたが...」と言った「あなた」とは、ファラデーだったわけです。「信頼できない語り手」の最後の独白です、
館に初めて来たのは1919年7月 何度も前を通り過ぎたが 村の子供の自分が中に入れるとは思わなかった
僕は屋敷にひどく感銘を受けた 母から話は聞いていたが その魔力に取りつかれてしまった 
この時、ファラデーは館の鍵の束を持っていますから、館を手に入れたわけです。平民が成り上がって貴族の屋敷を手に入れるのジュリアン(赤と黒)の物語だったわけです。館がファラデーに殺人を犯させたとすれば、この映画はホラーです。「リトル・ストレンジャー」とは子供の頃のファラデーだったということになります。原作は、『半身』『荊の城』のサラ・ウォーターズの『エアーズ家の没落』。
 最近のアメリカ映画は面白くない!という方には、お勧め。

監督:レニー・エイブラハムソン
出演:ドーナル・グリーソン、ルース・ウィルソン、シャーロット・ランプリング

タグ:映画
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