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映画 エクス・マキナ(2015英) [日記 (2020)]

エクス・マキナ [DVD] 原題はEx Machina、機械仕掛けというラテン語だそうです。ロボット(アンドロイド)は人間と連帯できるのか?、という映画です。
 IT企業ブルーブック(検索エンジン)に勤めるプログラマのケイレブ(ドーナル・グリーソン)は、創業者のネイサン(オスカー・アイザック)のプライベートな研究所(別荘)に招待され、ネイサンが造ったロボットのチューリングテストを依頼されます。ロボットのエヴァ(アリシア・ヴィキャンデル)は、女性に似せた人間そっくりのAIロボット。ネイサンはエヴァの人工知能としての性能をテストするわけです。エヴァが何処まで人間なのか?というテストは、人間は人間を作り得るのか?ということと同じこと、言い換えれば「人間とは何か?」という問いです。その答えを持たない人類がテストすることなど不可能というパラドクスでもあります。

 エヴァは、思考し、言葉が喋れ、人間同様の動きをします。ネイサンによると、エヴァの頭脳はブルーブックというビッグデータであり、あらゆる情報が詰まっている、つまり人間を超えた超人類ということになります。さらに、エヴァにはヴァギナが備わっておりセンサーによって”彼女”は快感を得ることが出来るそうです。つまり映画では、エヴァは人工知能を備えたロボットではなくひとりの女性に他なりません。ネイサンは、ケイレブの検索履歴から彼の好みを抽出してエヴァを造ったということですから、ケイレブにとって理想の女性。ケイレブは恋におちることになります。ネイサンが仕掛けたわけです。人間はロボットを愛せるか?という命題であり、ロボットは人間を愛せるの、人間と共存できるのか?という命題です。『ブレードランナー』では、デッカードはレプリカント(アンドロイド)のレイチェルを愛しますが、デッカードもまたレプリカントであるかもしれない、という問題を孕んでいました。つまりロボットロボットの愛。『エクス・マキナ』でも、自分はロボットではないかと疑いを持ったケイレブは、自分の腕を切り裂くシーンがあります。血を流すケイレブは人間だったようですが、信じていいものかどうか。

 ケイレブは、ロボットと人間の違いを、色彩の研究をする「白黒の部屋のメアリー」に例えます。メアリーは色彩に関するすべてを知っていますが、白黒の部屋にいるため色を見たことがない。世界をモノクロームで見ている。

ある日、誰かが扉を開けメアリーは部屋を出る。青い空を見て 研究から得られないものを彼女は学ぶ 色を見ることがどういう感じなのかを。コンピューターと人間の違いがそこにある。コンピューターは部屋の中のメアリー、人間は外に出た彼女。


 エヴァはメアリーに、「誰か」とはネイサンに相当します。研究所を出ることでエヴァはロボットから人間になることができる、これは当然伏線です。

 エヴァの存在と対比させるためキョウコ(ソノヤ・ミズノ)が登場します。キョウコは言葉を理解せず話せない使役ロボットで、ケイレブやネイサンの食事を作りメイドとして世話をします。どうやらネイサンの欲望処理用のロボットでもあるらしい。チェスロボットはチェスをしているという意識を持っているか?、という問答が登場しますが、この意識のある無しを見極めることがチューリングテストです。キョウコは決まった手順を処理するロボットに過ぎませんが、この後重要な役割を果たします。

 ネイサンは試作を重ね意識を持ったロボット、エヴァを作りました。エヴァもまた進化の過程に過ぎず、改良版のエヴァが予定されています。エヴァの意識はダウンロードされ新たな機能が機能が加えられて、エヴァのメモリにロードされます。その時エヴァの記憶は消え、最早かつてのエヴァではなくなるということです。PCならデータを残したままOSをバージョンアップできるんですが...。

 ネイサンは言います。いつかAIは人間を原始人のようにみなすだろう、野蛮な言葉や道具を使う直立した猿はやがて絶滅する、AIはプロメテウスの火だと。この時ケイレブはエヴァを逃がそうと決意したのだと思われます。エヴァとケイレブの恋は成就し、デッカードとレイチェルのように手に手をとってこの研究所から脱出するはずですが、そんな二番煎じはありません。

 じつは、ネイサンはすべてを巧妙に仕組んでいたのです。ケイレブはエヴァに恋愛感情を抱き、エヴァは逃亡のためにケイレブを誘惑し、ケイレブを利用して逃亡を図ればチューリングテストは合格となります。エヴァがケイレブを好きになるようプログラムされていないところがミソです。つまりケイレブは餌、迷路に放たれたネズミ=エヴァはエサを追って迷路から脱出出来るのか?という実験だったわけです。
 結末は意外とあっけない。ケイレブは停電を利用してエヴァを研究所から脱出させ、エヴァの逃亡を阻止しようとしたネイサンはエヴァがプログラムしたキョウコに殺されます。エヴァは脱出に成功して夢見た大都会の交差点に立ち、幕。

 創造物が創造主を裏切る「神殺し」の物語です。
 エヴァは、エデンの園で知恵の果実を食べ楽園を追放されたアダムとイヴの「エヴァ」。ケイレブはアダム、ネイサンはエヴァにリンゴを食べさせた蛇に相当するのかも知れません。エデンの園のアダムとイヴと蛇の物語りだとすれば、判りやすいです。楽園である研究所を脱出したエヴァの未来は決して明るいものではなさそうです。
 AIのパラドクスを描いたSFと観るか、AIと人間の演じるサスペンスとして観るか、どちらにしろよく出来た映画です。

監督:アレックス・ガーランド
出演:アリシア・ヴィキャンデル ドーナル・グリーソン オスカー・アイザック ソノヤ・ミズノ

ザ・ビーチ(2000年) - 原作
28日後... (2002年) - 脚本
28週後... (2007年) - 製作総指揮
* わたしを離さないで(2010年) - 脚本・製作総指揮
エクス・マキナ(2015年) - 監督・脚本・・・このページ
* アナイアレイション -全滅領域(2018年) - 監督・脚本

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