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マルグリット・デュラス 愛人/ラマン(1992河出文庫) [日記 (2021)]

愛人 ラマン (河出文庫)
 ジャン=ジャック・アノーの映画『愛人/ラマン』の原作です。映画は、男物の帽子を被る挑戦的でコケテッシュなジェーン・マーチの魅力に尽きます。ジェーン・マーチと過激な?性愛描写から、『愛人/ラマン』は少女の恋愛譚だと思っていましたが、本書を読むとそう単純な話ではなさそうです。

思えばわたしの人生はとても早く、手の打ちようがなくなってしまった。18歳のとき、もう手の打ちようがなかった。・・・18歳でわたしは年老いた。
仏領インドシナ
 本書は作者デュラスの自伝的小説です。デュラスは、1914年に仏領インドシナ(ベトナム・ラオス・カンボジア)に生まれ1931年に(大学入学のため)フランスに帰国しますから、「18歳で年老いた」とはベトナムでの18年間が彼女の人生を決定づけたということになります。デュラスは、ベトナムで教師の両親の元に3人兄妹の末娘(兄2人)として生まれます。フランス人の若い夫婦が本国から遠く離れた植民地に行ったのですから、日本人が満州で「一旗揚げる」ということか思います。父親は彼女が幼い頃に亡くなり、母親が教師をしながら3人を育てたようです。

 フランス人小学校の校長である母親は教育熱心で、マルグリットに数学の大学教授資格試験で好成績を取ることを期待し、彼女はそう言い聞かされて育ちます。母親は子供に階級的上昇の夢を託しますが、長男は麻薬に溺れ、次男はサイゴンでやっとのことで会計士になり、娘に最後の望みを託したようです。
 母親は、一家の経済状況の好転のため、プランテーションを目論んで払い下げの土地に投資します。その土地は満潮時には海水に浸かる不毛の土地で、植民地で「一旗揚げる」夢はことごと失敗したようです。少女と華僑の青年のラブストーリーは一向に現れず、植民地で失敗した貧しい白人家庭の描写が延々と続きます。次男はサイゴンで死に、母国に戻って長男はパリで賭博にうつつを抜かし、母親は狂死したことが告白されますから、『愛人/ラマン』は、こうした家族から生まれた物語ということでしょう。

 宗主国のフランス人ですから、広い屋敷に住み、車を持ち、現地人の召使いを使う支配階級です。デュラス家も召使いを使い車もあったようですが、小学校教師の母親の給料で一家を支えるのは並大抵のことではなく、貧しい生活だったようです。
 少女は、母のお下がりの薄い絹の服に革ベルトを締め、金ラメのハイヒールを履き男物のパナマ帽子を被り自己を主張します。

あの日の服装で、異様さ、途方もなさをなしているのは靴ではない。あの日のありようはというと、娘は縁の平らな男物の帽子、幅ひろの黒いリボンのついた慣色のソフトをかぶっている。あの映像の決定的な多義性、それはこの帽子にある。

 ジャン=ジャック・アノーを小説の映像化に走らせたのは、この帽子です。
ラマン1.jpg ラマン3.jpg

植民地と宗主国

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タグ:読書
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