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パオロ・ジョルダーノ コロナの時代の僕ら(2020早川書房) [日記 (2021)]

コロナの時代の僕ら  人口6000万人のイタリアで600万部も売れたというベストセラーです。27本の短いエッセイ+「あとがき」で116頁のコンパクトな本で、文章は平易で2~3時間で読めます。日本で感染が確認されて1年が経ち、毎日のようにコロナの報道を見ていますから、書かれている内容に新味はありません。ありませんが、本書が2020年2月末~3月20日(あとがきの日付)に書かれたことに驚きます。その時、感染者数8.5万人、死者数3000人、それが現在(1/19)は感染者数9600万人、死者数200万人となります。ほぼ1年前に医療崩壊の危機が警告され、自国の防疫を喧伝して政権の安定化を図る政治、フェイクニュースを拡散させて自滅した政治家などが予見されています、直接の記載はありませんが。

想像力
自分の損得勘定だけにもとづいた選択はベストな選択とは言えない。真のベストな選択とは、僕の損得とみんなの損得を同時に計算に入れたものだ…。
つまり、代念だが、バーティーは次回にお預けだ。(隔離生活のジレンマ)

何だ「密」を避ける話か、と思うのですが、密を避けるとは感染するリスクを避けるためではなく、当然他人に感染させるリスクを避ける意味もあるわけです。このみんなの損得を計算に入れるというのが、コロナ時代を生きる上で重要なポイントで、本書に一貫して流れる思想です。先進国の人間だけがワクチンを接種しても、地球規模でコロナ禍を抑えることはできないわけです。

アクションを起こす僕らが大勢ならば、各自のふるまいは、理解の難しい抽象的な結果を地球規模でいくつも生む。感染症流行時に助け合いの精神がない者には、何よりもまず想像力が欠けているのだ。(運命論への反論)

 感染症(COVID-19)では、自分さえ良ければという利己主義は通用しないということです。「自分ファースト」では、地球的規模でウィルスを押さえ込むことは出来ないのです。

つまり感染症の流行は考えてみることを僕らに勧めている。隔離の時間はそのよい機会だ。何を考えろって? 僕たちが属しているのが人類という共同体だけではないことについて、そして自分たちが、ひとつの壊れやすくも見事な生態系における、もっとも侵略的な種であることについて、だ。(パラドックス)

 生態系の破壊によって、ウィルスは人間の群れる地域に「引っ越し」したのだ、といいます。「宇宙船地球号」に乗っているのは人類だけではなく、全生態系です。新型コロナウィルスを風邪だというフェイクニュースを流し、「アメリカファースト」の政策を奉じWHO、パリ協定から離脱したトランプは想像力が無かったことになります。

喪った日常
 私たちは、喪われた「日常」が戻ってくることを切実に願っています。

日常が不意に、僕たちの所有する財産のうちでもっとも神聖なものと化したわけだが、れまで僕らはそこまで日常を大切にしてこなかったし、冷静に考えてみれば、そのなんたるかもよく知らない。とにかくみんなが取り返したいと思っているものであることは確かだ。(日々を数える)

 「日常」を返せ!とウィルス(Cov-2)に言いたいわけですが、ウィルスは言うでしょうね、オレはオレの日常を生きているんだ、そもそもアンタはその日常を大切にしていたのか?アンタの日常とは何だ?と。そう言えば、わたしの大切な「日常」とは何だったのか...。

 コロナ後の日常はコロナ前の日常とは違ってくると思います。テレワークが進むとか云う現象面ではなく、広汎な分野でパラダイムシフトが起きるのではないか。価値観が一朝一夕に変わるはずはありませんが、価値や「カッコよさ」の多様化が起こると思います。外出もままならず「ステイホーム」を余儀なくされていますが、この不自由さに何を見つけるかです。人間はホモルーデンス(遊ぶ人)なんですから。

忘れたくない物事のリスト
 著者は「あとがき」で強いメッセージを発します。ウィルスの伝染経路とともに「世界でも、イタリアでも、状況をここまで悪化させた原因の経路」も探さなくてはいけない。と説きます。「だから僕は今、忘れたくない物事のリストをひとつ作っている」。パンデミックが終息して日常が戻ってきたら、そのリストを点検し何かできることはないか考えてみる、と書きます。

僕は忘れたくない。ルールに服従した周囲の人々の姿を…
僕は忘れたくない。頼りなくて、支離滅裂で、センセーショナルで、感情的で、いい加減な情報が、今回の流行の初期にやたらと伝搬されていたことを…
僕は忘れたくない・・・云々
家にいよう。そうすることが必要な限り、ずっと、家にいよう。・・・今のうちから、あとのことを想像しておこう。「まさか事態」に、もう二度と、不意を突かれないために。

 書かれていることは当たり前のことばかりです。当たり前のことを改めて僕らに突きつけたのがコロナ禍である、という本書は一読の価値があります。

タグ:読書
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