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映画 ザリガニの鳴くところ(2022米) [日記 (2023)]

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ザリガニの鳴くところ









湿地の住人
 原題:Where the Crawdads Sing、”ロブスター”に続いて今度はザリガニw。原作は、2019年に全米で500万部(最終的には1,500万部)売れたというベストセラー小説です。自然豊かなノースカロライナの湿地を舞台に、1952年の6歳の少女カイアの物語と17年後の1969年の殺人事件が交差します。

 「ザリガニの鳴くところ」とは湿地帯のこと。湿地は、人が住むには不適切な土地で、街からはじき出された人(プアホワイト)が住む土地です。カイアは街の住人から「湿地の娘」と呼ばれ蔑まれています。父親のDVによって一家は離散、家族に捨てられた少女は、学校にも通えず字が読めない少女として登場します。湿地でムール貝を獲りトウモロコシやロウソクと交換して独りで生きます。湿地は、鳥や魚が棲む生命に溢れた「豊穣」の地でもあったわけです。
 街の人間がすべてカイアを差別したわけではなく、雑貨店の黒人夫婦はムール貝を買い取り、カイアのために靴や服を与え、カイアの豊富な湿地の知識を尊敬する少年テイトは、彼女に字を教えます。6歳の少女が湿地で独りで生きる姿は、なかなか泣かせます。

殺人事件
 1969年、街の住人チェイス(ハリス・ディキンソン)が湿地の物見櫓からが転落し死体となって発見されます。カイアはチェイスと付き合っていたため疑われ、第一級殺人罪で起訴されます。雑貨店の黒人夫婦やテイトがカイアを応援した様に、引退した弁護士(デヴィッド・ストラザーン)がカイアを弁護し、殺人事件は事故とされカイアは無罪となります。ラストで明かされますが、チェイスを殺したのはカイア。チェイスは結婚をエサに「湿地の娘」を弄び暴力を振るったことが明かされていますから、カイア以外にはあり得ません。この映画は、原作を読むと更に明瞭ですが、ミステリと言うより湿地で生きる少女のビルドゥングス・ロマンであり、成長したカイアのジェンダーの物語です。カイアは湿地の生態系を観察し写生し本として出版し、「湿地の娘」が湿地を梃子に差別を跳ね返します。それが1,500万部売れた理由です。

 原作『ザリガニの鳴くところ』の魅力のひとつは、「湿地」の住人カイアが、人間の行動や男女の関係を鳥や昆虫の生態に重ねて理解することです。カイアとテイトの関係は、テイトがカイアに珍しい鳥の羽を贈りカイアがそれに応えるという「動物の求愛行動」のアナロジーです。チェイスとの関係も、雌のホタルが光の明滅信号によって雄を呼び寄せる求愛行動のアナロジーとして描かれます。動物学者ディーリア・オーウェンズならではのミステリーです。どちらかと言うと、映画より原作がお薦めです。

 余談ですが、ワシントン州の海辺の小さな町を舞台に繰り広げられる人種差別と殺人のミステリ『殺人容疑』(映画化され『ヒマラヤ杉に降る雪』)とよく似ています。

監督:オリヴィア・ニューマン
出演:デイジー・エドガー=ジョーンズ、テイラー・ジョン・スミス、ハリス・ディキンソン、デヴィッド・ストラザーン

タグ:映画
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