SSブログ

ゾルゲの暗号 スパイ・ゾルゲの昭和(7) [日記 (2022)]

sorge 1941tokyo.jpg クラウゼン.jpg
 ゾルゲ 1940東京        マックス・クラウゼン

 スパイの通信ですから当然暗号が用いられます。1930年代にどんな暗号がつかわれたのかを、垣間見ることができます。ゾルゲの報告書を暗号に置き換えるのもクラウゼンの仕事です。ネタ元はみすず書房『現代史資料1』。

1) 呼出符号(P88)
 クラウゼンは当時アマチュア無線で使われていた7.9MHzの周波数を使い、中華民国のアマチュア無線に偽装してモスクワに情報を送っています。特定されることを避けるため、送信の度にコールサインを変えています。

*東京側
:AC+数字1文字+アルファベット2文字、ACは中華民国のアマチュア無線局を表し、AC以外はその都度変更。Losangeles(ロサンゼルス)という単語と送信日の日付を使います。例えば12月20日の呼出符号は、日付の合計に2を加え、12+20+2=34、の「4」を使い、Losangelesの前と後ろから4番目の文字をコールサインに使います。
 LOSANGELED
 1234     4321= AC4AE
ウラジオストック側:XU+数字1文字+アルファベット2文字で、数字は12月20日の場合は、
 12+20=32
 SANFRANZISCO
 12        21
を使用し、XU2ACとなります。XUも中華民国のアマチュア無線局を表します。
これで東京側もウラジオストック側も間違わずに相手を識別できるわけです。

2) 通信方式(P89)
 通信は方式は、モールス符号を使い、通常の《Q符号》やアマチュア無線の慣用符号を用いて通信を確立します。例えばVVV AC4AE AC4AE QRK? HR MSGS PSE K は、

VVV(テスト信号)、AC4AE、QRK?(こちらの符号は了解できますか?)、HR(Hereこちらには)MSGS(メッセージあり)、PSE K(受信に入ります)

となり、一旦通信が確立した後は、アルファベットを暗号化した5桁の数字で、ゾルゲの報告が本文として送信されます。

3) 連絡日時の打合
 定時の交信ではなく、交信の都度次回の連絡日時を決めています。連絡日時の暗号化には
『Morgenstunde hat gold im Munde.』(ドイツの諺「朝起きは三文の徳」)が使われ、のMorgenstunde hat gold imを7文字に区切りいう独語が使われます。

 月 火 水 木 金 土 日
 M  O  R  G  E   N  S morgens
 T  U  N   D   E   H  A tundeha
 T  G  O   L  D   I  M tgoldim

月曜はMTT、火曜日はOUG・・・。予定日と予定時刻(グリニッチ標準時)の数を加へ、曜日三文字の次に配列、例えば16日火曜日(OUG)15時は、16+15=31 →OUG31となります。

4)本文の暗号化(p93)
 本文の暗号化は、アルファベットを数字に置き換える「サイファー式換字暗号」が使われています。使用頻度の高いアルファベットを1桁の数字、その他を2桁の数字で表す方法です。A=5、B=87、C=80、D=83、E=3...。Japanは”84 5 85 5 7”となります。

例えば
Japan will soon declare war on USSR は、

Japan(84 585 5 7)will(91193 93)soon(0227)declare(83 3 8093543)war(9154)on(27)USSR(27 8200 4 90)となるわけです。

 通信本文の最初にはにDal(Dal は極東の意。 その他 organizer, Uirectorの場合もある)が、終りには「ゾルゲ」のコードネームRamsay(4 5 96 0 5 97) 又はInson(1702 7)が付加されます。
 サイファー式だけでは解読されるため、《乱数表》として1935版『ドイツ統計年鑑』が用いられます。

 最初通信文を作成し、これを数字暗号化し、さらにその各数字に対して此の統計年鑑の任意の頁の数字を加算します。「任意の頁の数字」も本文に組み込まれ、さら2段3段の迷彩を施して暗号文が作成されます。数字の羅列は、5桁毎に区切りの記号《R》が入ります。『現代史資料1』にサンプルがありますが、暗号化と送信は結構大変な作業だったと思われます。
 暗号.jpg 
Ramsay. Try to find out dislocations of
106 109 110 114 and 116 divs (divisions)
at present. Wire me results. Dai 12297

5)方向探知に関する認識
 クラウゼンは、官憲による探知を避けるために、無線機をトランクに詰め都内数カ所を転々と移動して通信しています。ゾルゲの自家車(国産のダットサン17型)を使って都内を移動していたのでしょう。クラウゼンは、探知対策として

 1)送信場所の移動
 2)長時間の通信を避けること
 3)周波数の変更
を挙げています。ゾルゲの通信は傍受されてはいますが、対策が奏効したのか送信場所の探知はされていません。
クラウゼンの自供による通信回数と送信語数は、
 昭和14年(1939)60回、23,139語
 昭和15年(1940)60回、29,179語
 昭和16年(1941)21回、13,103語
これを平均すると1回当たり464語。1分間に100文字(20WPM)とするなら、1回当たり要する時間は5分。
 暗号化と通信はクラウゼンの担当で、クラウゼンの苦労がしのばれます。1941年の後半には、ゾルゲの指示する通信を適当に間引いていたというのも分かります。スパイも楽ではないw。

 当時ドイツ軍は「エニグマ」という暗号作成機を使っています。軍とスパイの違いはありますが、ゾルゲたちの「暗号戦」が如何に原始的であったのかが分かります。何しろ「手作り」ですから。

4.jpg 映画「スパイ ゾルゲ
PDVD_005.jpg PDVD_002.jpg
エニグマとイギリスの暗号解読機bombe(映画「エニグマ」)

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。