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中沢新一 大阪アースダイバー ① (2012講談社) [日記 (2020)]

大阪アースダイバー 「アースダイバー」とは、

地質学年代上の第四紀(およそ258万8000年前から現在に至る時間軸。ヒト属の出現によって定義される)に起こった長期的な「人類と地形(景観)の相互交渉の過程」に光を当て、歴史のなかで実際に起こった出来事や、神話・伝説を含む人間の無意識レベルでの表現を、具体的な土地との関わりのなかから読み解いていく(wikipedia)

淀川の砂州
 大阪は、生駒山地、洪積層の上町台地と、淀川、大和川が作った大阪平野と海沿いの砂州から成り立ち、その地形よって人の暮らしと文化が築かれ「大阪的」が出来上がった、という論考でどちらかと言うとエッセイです。学術的に正しいのかどうかは別とし、これが説得力に富みすこぶる面白い。
 確かに、大阪は北に淀川南に大和川が流れ、その間に大阪城から四天王寺を経て帝塚山に至る上町台地があり、台地の西に淀屋橋、本町、難波の繁華街があり、西に生駒山に続く大阪(河内)平野があります。上町台地の北端に難波宮(河内王朝)、石山寺(蓮如)→大阪城(秀吉)と権力の象徴が存在し、台地の途切れた南端に住吉大社、その南の堺に仁徳天皇陵を始めとした百舌鳥古墳群があります。この地形のもとで、大阪が生まれ大阪が育ったです。本書の中核は、第二部「ナニワの生成」、第三部「ミナミ浮上」。

ナニワの生成
 淀川が運ぶ砂が堆積し砂州島(難波津)が生まれ、ここに定住地を持たない言わば「社会の外に生きる」海民や渡来人が住み始めたいうのが著者の想像です。上町台地や生駒山麓には、農民と農民を支配する権力が住み「有縁社会」を形成し、土地と繋がらない人々、流民が無住の地砂州に住み始め「無縁社会」を形成します。彼らはやがて、朝廷や寺社に「贄」を献上する「海部」に組織され、中世になると「供御人」と呼ばれて、天皇に直結して海産物を獲り、それを都まで運んで献上する役目を果たします。こうした供御人たちが、余剰の海産物などを売りさばく市場をつくったのが、この列島での商業の始まりだと著者は書きます。大阪商人のルーツは淀川の砂州にあったことになります。

商品と座
 古代社会では、どんな生産物にも、それを生み出した土地や、それに所有権をもつ人の霊(タマ)が宿っていると考えられていたから、自由勝手にモノとして売り渡したり、買い取ったりすることは難しかった。人から人へ、モノの所有の移動がおこるとき、モノといっしょにタマも移動した。そのために古代世界では、あらゆるモノの交換が、「贈与」のかたちをとることになった。贈与社会では、モノの交換がおきているところでは、かならず人格や愛情や信用や元気の交換も同時おこっていて、それを通して人と人の間に絆が発生することになっていた。
 ところが、神へのお供物に選ばれたモノは、もはや人間の所有には属さなくなって、贈与社公からはずされてしまうのである。

 著者によるとこれが「商品」の始まりだというのです。確かに、他人の霊力が宿ったモノというのは、ちょっと引きます。お供えモノのお下がりという御祓をしてモノは使用価値を持った商品となる、というのは気分として納得。淀川の砂州という無縁社会に住む人々が、人とは無縁のモノ=商品を産み出したというあたりが面白いです。
 この砂州の上の市場に、無縁社会から閉め出されて商品を商う者同士が、信頼という「縁」に基づく新しい組織、(村落の宮座をモデルとした)同業者組合「座」を作ったといいます。著者は、無縁社会の中にそれを越える「超無縁社会」が生まれた、と書きます。

船場の信用と暖簾
 無縁の商品が等価交換の原則によって売買される無縁社会に座が生まれ、商人同士が結束するために、宮座の結社原理、規範を持ち込みます。それが相互信頼、「信用」だと言うのです。

 贈与の社会では、贈り物と「お返し」によって人と人が絆で結ばれます。金銭による売買では、モノの移動とゼニによる決済で売り手と買い手の関係は一旦「ご破算」となります。無縁社会とはいえ、これではナンボなんでも、と彼らが考えたのかどうか...。

 ナニワの商人たちが取り組んでいたのは、ゼニの力の上に築かれる自分たちの社会に、どうやったら有縁社会のような凝集力を生み出すのり(糊)をもつことができるか、という、現代にも通じる大問題であった。ゼニを扱うプロである商人は、根っからの個人主義者である。そんな商人をつなぐ糊があるだろうか。商人たちが発見した新しいタイプの糊、それが「信用」であった。

 信用という絆で結び付いた商人の有縁社会が生まれ、信用が流通する「手形」が生まれます。信用は、自分さえ良ければという自我を排し、相手を尊重し場合によっては利他的である強い倫理から生まれます。この信用の象徴が暖簾で、信用という信仰に似たものの下で船場が繁栄してゆきます。何やら「船場の倫理と資本主義の精神」といった雰囲気です。

 次はミナミ、千日前です。

タグ:読書
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