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中沢新一 大阪アースダイバー ③ (2012講談社) [日記 (2020)]

大阪アースダイバー続きです。
飛田
  四天王寺から上町台地が大阪湾に落ち込む崖下の飛田、そこから旧釜ヶ崎に至る一角を、著者は大阪のなかでもとりわけディープな地帯だと言います。飛田、鳶田は、梅田、千日前など大阪七墓の一つで、 四天王寺や茶臼山古墳があることを考えると、古くからある墓地のようです。上町台地西側一帯は「夕陽丘」と呼ばれるように、大阪湾に沈む夕日を眺めるに最適の場所で、上町台地に住む人々は、夕日の沈む西の方角に西方浄土を想い墓所を作ったんでしょう。

 四天王寺には重い病人を収容する悲田院が設けら、五重塔の脇にあった引声堂の床下には、土地を捨てて逃亡した流人など村に住めなくなった人々が住みつくようになります。彼らは夜には四天王寺の床下に眠り、昼は村々に物乞いに出かけ、四天王寺は、そうやって無産者たちを護っていたといいます。四天王寺の崖下の墓地飛田(荒陵)は、千日前の墓地と一体化し、刑場が併設され、deepな大阪を形成します。近世のはじめに大量に出現した流民がこの地は流入してスラムを形成し、転びキリシタンまで流れ込んだといいます。

 こうして私たちの前に、地図に描き込まれることなく、言葉にされることもないが、確実に存在している「見えない」もう一つのアースダイバー的地層の存在が、浮かび上がってくることになる。それは東の端に四天王寺を配し、上町台地が古代の海に崩れ落ちていた崖沿いの荒れ果てた土地をとおって、飛田(ここの一角に旧飛田遊郭がある)の古代墓地に至り、そこからさらに北は千日前墓地界隈から、南は西成・釜ヶ崎にわたって広がっていく広大な空間である。

 飛田遊郭は現在でも営業を続けています(たぶん)。灯ともし頃となると、軒を連ねる待ち合いの玄関の上がり框に、ライトアップされた御姉さんが浮かび上がります。荷風こ『濹東綺譚』の風情があります。アニメ『千と千尋の神隠し』の「油屋」のモデルとも言われる割烹「鯛よし 百番」は、当時の面影を残す建物で一見の価値ありです。
鯛よし.jpg
愛鱗的空間、釜ヶ崎

明治36年の「内国勧業博覧会」(この跡地に新世界が誕生)のため名護町(現在の日本橋電気街)一帯のスラムが取り壊され、住民は南に流れ、飛田墓地の流民と合流して釜ケ崎が形成されます。

かつて四天王寺が魔術の網を投げかけるようにして、ミナミに敷設しておいた愛隣的空間は、消えたりはしなかった。釜ヶ崎から飛田、新世界、天王寺公園、美術館、植物園、ジャンジャン横丁へと続く大きなミナミの世界は、親しみあふれる同じ周波数をもった、無産者の波動を放出し続けている。

 著者は、無縁・無産の人々が流れ込む地を「愛隣的空間」と呼び、この愛隣的空間は古代から現在まで、大阪という都市構造の重要な部分を担ってきたと言います。

 都市は「無縁の原理」から造りだされたと言います。土地や財産や家柄に結ばれた有縁の共同体、つまり上町台地から離脱した人々が集まって淀川の砂州に住みつき、市場が生まれ都市の原型が生まれます。この無縁の人々には、半島から渡来した人々、難波津に流れ着いた海民が含まれるというのが著者の想像です。したがって都市住民の原型は商人であり、成功した商人は都市のなかに新しい有縁社会(例えば船場)を作ります。

 しかしその都市には、商人よりももっと即物的に無産・無縁の人々も、流れ込んでくる。都市の奥底を流れている無縁の原理にひかれて、ほんもののプロレタリアたちが、都市に住み着くようになるのである。プロレタリアたちは、都市が無縁の世界などではなく、都市の中心メンバーである市民が、分厚い意味や地位や富の蓄積に守られながら暮らす、有縁な安全システムであることを、思い知らされる。こうして都市に流入した、ほんものの無産・無縁の人々は、しだいに私たちの言うところの愛隣的空間に、押しやられてくるようになるこういうプロレタリア的な人々にたいして、大阪という都市は、生存のための受容器をあたえ続けた。

 これこそが「大阪」だと言います。

 第一部:プロト大阪、第二部:ナニワの生成、第三部:ミナミ浮上に続いて、第四部は「アースダイバー問題集」。坐摩神社と渡辺氏を取り上げた「大阪の地主神」、大阪のオバチャンは、原始 太陽であった?という「女神の原像」などなど面白い話が詰まっています。Appendix{河内・堺・岸和田ー大阪の外縁」の岸和田の「捕鯨とだんじり」は秀逸。面白いです、大阪人必読の一冊。

タグ:読書
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