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映画 タクシー運転手(2017韓) [日記 (2020)]

タクシー運転手 約束は海を越えて [DVD] 「光州事件」を描いた映画だというので観てみました。文在寅大統領は、光州事件の40周年式典でこの民主化運動を讃えています。光州事件を風化させないことが、文在寅のレゾンデートルでもあるわけです。
 この映画は、観客動員数1000万人以上、韓国映画史上10番目に動員数の多い映画だそうです。

 タクシー運転手のキム(ソン・ガンホ 宋康昊)は10万ウォンの報酬に釣られ、ドイツ人ジャーナリスト・ピーター(トーマス・クレッチマン)を封鎖された光州に運びます。

 光州事件を映画にすると、普通であれば『光州5.18』のように、市民・学生の民主化運動とそれを弾圧する軍事政権の構図として描かれるはずです。光州事件には全羅道と慶尚道の対立、全羅南道出身で後の大統領・金大中の逮捕などの背景があります。そうした光州事件の「根」みたいなものが描かれるのかと思ったのですが、『タクシー運転手』では、光州事件の中核である民主化運動と軍による弾圧は、弾圧を世界に伝えようとする外国人ジャーナリストとジャーナリストに協力する韓国庶民に”見事に”置き換えられます。

 ソン・ガンホ演じるキムは、政治的背景の全く無い個人タクシー運転手。妻を亡くし幼い娘とふたりソウルの片隅で暮らす庶民。その庶民が光州事件にまきこまれ、負傷者を助け事件の惨状を記録したフィルムを国外に運び出すために軍と闘います。民衆や学生の主張が描かれるわけでもありません。軍がデモを制圧する様、無抵抗の市民に銃を向け発砲する様が描かれるだけです。キムは同胞が同胞を殺戮する惨状を見て変わるわけです。民主派も軍事政権もありません。強い者が弱い者を虐めることに義憤を感じただけです。タクシー運転手の、この単純でストレートな正義感が、1000万人の足を映画館に運ばせたのでしょうが、そこにあるのは光州事件の風化に外なりません。

 ドイツ人ジャーナリスト・ピーターの存在がストーリーから浮いています。実話だそうですから登場しないわけにはいきませんが、ピーターはハングルが話せず、キムの英会話もカタコトで、主要なふたりコミュニケーションは成立せず、ソン・ガンホの熱演の側でトーマス・クレッチマンはボーッと立っているだけ。光州事件を世界に発信したいジャーナリストと、彼の正義感よりもソウルに残してきた娘が心配なタクシー運転手との確執と葛藤があってはじめて軍とのカーチェイス、金浦空港別れが生きてくるはずで。これは脚本の問題でしょう。トーマス・クレッチマンの出演料は高かったはずで、モッタイナイ。トーマス・クレッチマンが活かせていれば、アカデミー賞外国映画賞にノミネートあたりまではいったかもしれません。

 光州事件を描いたわけでもなく、韓国人と外国ジャーナリストの協業を描いたわけでもなく、中途半端な映画と言わざるを得ません。

監督:チャン・フン
出演:ソン・ガンホ トーマス・クレッチマン

タグ:映画
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