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ゾルゲ伝 (5) 尾崎秀実、宮城与徳 [日記 (2023)]

ゾルゲ伝――スターリンのマスター・エージェント (新資料が語るゾルゲ事件)
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 上海でアグネス・スメドレーから紹介されゾルゲの協力者となった朝日新聞記者・尾崎秀実とコミンテルンの宮城与徳が、諜報団に加わります。

尾崎秀実
 朝日新聞上海特派員だった尾崎は、1932年に大阪朝日の外信部に戻り,、ゾルゲの意を受けた宮城与徳が接触し1934年にゾルゲ諜報団に加わります。同年、朝日新聞「東亜問題調査会」に移り、1936年カリフォルニアで開催された「太平洋問題調査会年次大会」で西園寺公一の知遇を得ます。近衛文麿の政策研究集団「昭和研究会」に参加し、『嵐に立つ支那』 『国際関係から見た支那』を上梓、多くの論文を発表して中国に関する専門家として名を挙げ、1938年には第一次近衛内閣の嘱託となります。近衛の政策研究会「朝飯会」のメンバーとなり、政府文書にアクセスできる立場となり政策の決定に関与します。尾崎をスパイと呼ぶなら、日本国家の意思決定の中枢にいたスパイです。

最も重要なのは、尾崎が朝食会の仲間である蠟山政道、三木清らとともに、日本を中心としたアジア全体の発展のための大胆な経済計画を立案した一人であることである。 大東亜共栄圏は「反資本主義、反帝国主義によるアジアの被植民地解放と汎アジア文化の創造を基礎とした・・・『新秩序』」を構想したものである。尾崎とその仲間たちにより社会主義的路線で構想されたその共栄圏は皮肉なことに、すぐさま超国家主義者に利用され、日本の東南アジア全域征服のための青写真となり、イデオロギー的イチジクの葉ともなったのである。(p260)

 「大東亜共栄圏」は、1938年第一次近衛内閣で日本・満洲・中国による「東亜新秩序」として成立し、1940年二次近衛内閣で東南アジア、インドを含むアジア共同体として発展した構想です。尾崎はこの間、内閣嘱託、「朝飯会」のメンバーとして「大東亜共栄圏」構想に深く関わっています。尾崎はこの構想を元に政策をインドシナへの南進論に誘導し、結果的に日本のソ連侵攻を阻止した、と見ることができます。尾崎にとって、「大東亜共栄圏」と「共産主義」と「スパイ=共産主義の母国ソ連を日本の侵略から護る行為」は連続した思想だったわけです。

 尾崎の最大の諜報活動は、日本がソ連に侵攻せず石油など資源を求めてインドシナに南進する決定を下した7月2日の「御前会議」のスクープです。第一次近衛内閣が瓦解した後、尾崎は満鉄調査部に移り、満鉄の貨物輸送計画からロシアへの侵攻が無いこと、日本の石油備蓄はわずか半年分であることを突き止め、日本が資源を求めて南進策を選択する裏付けを取っています。スターリンはこの情報を元に極東軍を東部戦線に移動し、独ソ戦に勝利するわけです。

宮城与徳
 カリフォルニアでコミンテルンのメンバーであった宮城は、コミンテルンの支部を作るために日本に派遣されます。コミンテルン≒赤軍四部は、ゾルゲの日本人エージェントとして宮城を諜報団に加えたのです。宮城は主に軍事情報を収集しますが、スパイの訓練を受けたこともない単なる画家です。尾崎は政府中枢に人脈を広げたのに対し、宮城は庶民の中に反体制の情報提供者を発掘します。キリスト教牧師の元妻で共産主義者として逮捕歴のある久津見房子、医師・安田徳太郎、宇垣一成の元私設秘書・矢部周等々。(p234)

一九三七年の半ばには宮城は友人、金で雇われた代理人、協力者、無意識のうちに作り上げたカモのネットワークを、南は生地沖縄(宮城は沖縄生まれ)から北は北海道にまで広げていた。・・・銀座の画廊で知り合ったハイソなホステスから北海道のあまり教養のない漁師まで、どのような人間集団にも静かに入り込むことができた。
 ・・・ゾルゲは宮城を「とても素朴で気立てのいい男」で、「とても純朴で親切そう」だと評している。(p235)

宮城は尾崎に紹介された関西で小さな軍需品工場を経営する篠塚虎雄から様々な軍事情報を得ています。

(篠塚は)日本の最新鋭機である川崎八八式や三菱九二式について、また陸軍爆撃機の正確な数、武装、能力、海軍「偵察機、 観測機、攻撃機 戦闘機、魚雷機の詳細」 について、 宮城に詳しく語った。後日、この工場主は横須賀、霞ヶ浦、佐世保、 大村にある陸軍飛行部隊や海軍基地の配置や位置についても饒舌に語った。また、六年後には真珠湾に壊滅的な打撃を与えることになる、海軍の新航空母艦 「赤城」 「加賀」についても話してくれた。(p197)

「南進策」では、動員部隊に夏服が支給されたことを掴みます。尾崎が政府中枢から情報を得ることに比べると地味ですが、眼と耳で諜報活動をしますから、ゾルゲの眼と耳でもあるわけです。

(2) 諜報団

タグ:読書 ゾルゲ
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