SSブログ

ゾルゲ伝 (7) バルバロッサ作戦 [日記 (2023)]

ゾルゲ伝――スターリンのマスター・エージェント (新資料が語るゾルゲ事件)スクリーンショット 2023-05-31 6.29.37.png 諜報の舞台ドイツ大使館

 1941年5月初旬、ニーダーマイヤー大佐がバルバロッサ作戦の情報を携えて来日します。

ニーダーマイヤーはゾルゲに--
当然ながらバーで--自分は特に「日本が来るべき対露戦争にどの程度まで参戦できるのかを調査するために」 東京に派遣されたのだと語った。  ニーダーマイヤーはゾルゲ に、「独ソ戦の開戦はすでに決定された事実だ」と打ち明けた。(p325)

 これがゾルゲが独ソ戦(大祖国戦争)をソ連に伝えた第一報となります。面白いのはゾルゲの無線係クラウゼンの立ち位置です。

ゾルゲはニーダーマイヤーの最新情報をセンター宛に長文電報で送ったが、クラウゼンはそれを送信せず、重要な情報を省き、細部をわざと曖昧にして、自分なりの簡単な要約を作った。 クラウゼンは逮捕後、「非常に重要なテーマだと思ったが、当時すでにヒトラーの政策に好意的であったので、その情報を送ることはしなかった」と日本の尋問官に語っている。モスクワで受け取られた実際の電報は、その発言を裏づけている。 五月二十一日にクラウゼンが実際に通信し続け、〔その日]彼が送ったメッセージはわずか八通、合計七九七語群であり、元のメッセージの約三分の一でしかなかった。彼自身の告白によれば、ゾルゲが一九四一年に送信するよう指示した約一万七四七二語のうち、この無線技師は一四六五語しか送信しなかったのである。前年に記録を更新して大量に発信したのとは明らかに対照的である。
(p332)

モスクワからの返信は「あなた方の情報の信憑性を疑う」というものです。 

スターリンはその報告書に、「日本に小さな工場と売春宿を持っている糞野郎」からの情報であると書き込んだ。 クレムリンの首領は、ゾルゲとクラウゼンとを混同していたようだ。
(p335)

 ドイツの侵攻情報は、ゾルゲ以外にもヨーロッパの諜報員からももたらされています。NKVD(内務人民委員部)ベルリン支局長は「戦争は六ヶ月以内に始まる」「ソ連国境地帯の大規模な写真撮影飛行が開始され」「英国に対する軍事行動は延期された」と警告を発します。ドイツい外務省のスパイは「攻撃開始は5月20日と暫定的に設定されている」、ドイツ航空局情報部少佐(スパイ)はソ連攻撃の作戦計画の詳細を伝えます(事実その通りとなった)。ゾルゲ同様これらも根拠のない情報として退けられます。

 1940年に情報本部長となったゴリコフ将軍は、ゾルゲ等在外スパイの情報をすべて無視します。ゴリコフスターリンに提出した報告書は、
「一九四一年春におけるソ連との戦争可能性に関する諜報員報告の大部分は英米の情報源からのものであり現在のところその目的は間違いなくソ連とドイツとの関係を悪化させることにある」という文章で始まり、 ゴリコフはスターリン個人宛の報告書コピーに、チャーチルとルーズベルトがドイツとソ連との対 立を引き起こすかあるいはヒトラーと共謀して「最初の社会主義国家」を破壊することを望んでいるといった、独裁者の確信に訴えかけるような箇所に下線を引いたといいます。

前任者たち(粛清という)厳しい運命から得た明確な教訓は、ソ連軍情報機関の長として生き残る最良の方法とはスターリンの聞きたいことを正確に伝えることに他ならなかった。その結果として、ゴリコフはドイツ攻撃の可能性が高まっているという情報を、スターリンの懐疑論に沿うよう一貫して歪曲したのだ。まさに独裁者と情報部長との間に、致命的な自己強化の妄想の輪ができ上がっていたのである。(p326)

 スターリンにとって(準備が出来ていないため)開戦時期は遅い方がよく、そのためソ連侵攻の前にイギリス侵攻があると頑なに信じていた様です。クラウゼンの改竄がなくとも、モスクワはゾルゲの警告を無視したことでしょう。

 ゾルゲは5/31に来日したショル中佐と帝国ホテルで会います。

彼はゾルゲに、バルバロッサ作戦は六月中旬に開始され、開始日は数日延期されるかもしれないが、すべての準備はすでに整っていると率直に告げた。ドイツ国防軍はソ連との国境沿いに百七十から百八十個師団を集結させ、そのすべてが機械化されているか、戦車を装備していた。ドイツ軍の攻撃は全戦線で同時に行われ、主力攻撃部隊はモスクワ、レニングラード、キエフに向かう予定であった。ドイツ軍参謀本部はこの圧倒的な電撃戦によって赤軍がすぐに崩壊すると確信しており、戦争は二か月以内で終わるとしていた。ヒトラーは冬までにシベリア鉄道を奪取し、満州の日本軍と接触す
ることを計画していた。(p348)

ゾルゲは電文を作成し、クラウゼンは6月1日に打電します。1941年6月22日バルバロッサ作戦が開始され、応戦準備の出来ていないソ連軍は初戦で大敗を喫します。

 クレムリンからスターリンは総反撃 を命じたが、ドイツの地上・航空攻撃の最初の勢いが、当初の数時間でソ地の組織的指揮統制を完全に破壊し、歩兵小隊からモスクワのソ連最高司令部までのあらゆるレベルの指揮を麻痺させたという現実には気づいていなかったのである。(p364)

赤軍情報部は、侵攻が始まった翌日突然メモを送りつけてきた。「ドイツが起こした対ソ戦に関する日本政府の立場について、情報を報告せよ。 本部長」
(p336)

(2) 諜報団

タグ:ゾルゲ 読書
nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。