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映画 燃えよ剣(2021日) [日記 (2022)]

燃えよ剣 全2巻 完結セット (新潮文庫)燃えよ剣.jpg
 久々に映画、それも時代劇、しかも新撰組。原作の『燃えよ剣』は、司馬遼太郎の維新モノの中では「司馬史観」臭さが少なく、物語性が前面に出た傑作だと勝手に思っています。『燃えよ剣』の映画化は、栗塚旭主演の映画(1966)以来55年ぶりだそうです。新撰組はいまだ人気があります。映画では『御法度』、『壬生義士伝があり、最近の小説では、一刀斎夢録(2011)』、木内 昇『新選組 幕末の青嵐 地虫鳴く(2010)』『新選組 裏表録(2009)』等があります。新撰組は何故人気があるのか?、個人的には

 賀茂の河原に千鳥が騒ぐ
 またも血の雨 涙雨
 武士という名に 命をかけて
 新選組は きょうも行く (三橋三智也、あゝ新撰組)
 
みたいなところですw。身分制が崩れつつあった幕末に、多摩の百姓の倅が武士になりたい一念で京に上り、剣一本で運命を切り開いてゆく。勤王も佐幕も尊皇攘夷も関係無いわけで、その一直線の青春と近藤勇以下の試衛館メンバーの青春群像が作家の想像力を掻き立てるのでしょう。

 新撰組は会津藩の後ろだてを得て一時は輝きますが、時代からは疎まれ、近藤は罪人として斬首、土方は五稜郭で討死、沖田は植木屋の土蔵で病死します。新撰組を取り巻く男達の末路もまた凄惨。浪士組頭取・清河八郎は暗殺、初代局長・芹沢鴨暗殺、参謀・伊東甲子太郎暗殺、山南敬助切腹、井上源三郎戦死...試衛館のメンバーで生き残ったのは斎藤一、永倉新八のみで死屍累々。激動の時代の中で次々に斃れてゆきます。新撰組は時代が放った一閃の光芒で、そこが人々を捉えて放さないわけです。

 で、期待して映画を観ましたが、何か違う。多摩の薬売り歳三から始まり、江戸の試衛館、上洛、新撰組結成。内部抗争を経て京都守護職・会津藩預かり新撰組として倒幕の浪士を捕殺。池田屋事件を経て勢力を拡大するも、大政奉還によって存立基盤を失い、東北を転戦して五稜郭で敗走、と原作を忠実に辿っています。新撰組に在るのは、内部抗争と暗殺と暴力による勢力拡大。
 明治維新は、島津組と毛利組が手を組み江戸の徳川組に仕掛けた抗争みたいなものです。その争いに徳川組傘下の武闘集団・近藤組が ”長ドス” 引っ提げて乱入する「文久・慶応 残侠伝」ですw。

 日本史年表に新撰組の事跡を書き入れてみると分かりますが、明治維新のエポックに新撰組は殆んど参加していません。薩長土肥に比べて歴史的には微々たる存在。水戸の天狗党、天誅組などは思想集団が暴力集団に発展?するわけですが、新撰組のイデオロギーは旧来の士道。その泡沫の如き新撰組が、幕末史では輝ける存在だという不思議。幕府に義を尽くし共に滅ぶ辺りが、日本人のメンタリティにピッタリくるのでしょう。

 原作のポイントは、

 ・新撰組は、近藤、土方等試衛館9人の私党。特に初期新撰組に濃厚だったのは、私党の結束と排他性。
 ・身分制の隙間で土方が作ったのは、「士道」というイデオロギーを纏った武闘集団だった。士道とは生き方、美学の問題。
 ・その私党が「会津藩預かり」となって公的性格を帯び、変質して幕藩体制に組み込まれてゆく
 ・大政奉還よって、新選組はその役目を終え、以後は残党が旧幕府軍に合流して戊辰戦争を戦い、函館戦争で土方が戦死し終焉。

このあたりだと思います。
 『壬生義士伝』は吉村貫一郎、『御法度』は衆道という視点を持ち込むことで、新撰組という集団と時代相が浮かび上がってきます。 新撰組を時系列に描いても何も生まれて来ません。この映画には対象を切り取る視点に欠けていると思われます。森鴎外は、歴史小説を書く姿勢を「歴史其儘(ソノママ)、歴史離れ」と言っていますが、同様に「原作其儘、原作離れ」、原作のアレンジが必要だったのではないかと思います。

 映画では歳三の恋人にお雪が登場します。お雪は原作にも登場しますが、府中の神社の宮司の娘・佐絵の方が印象深いです。普通の娘では満足できない歳三は「くらやみ祭」で佐絵と情を通じます。佐絵は貴、歳三は賤の対立した関係です。 ふたりは京で再会、歳三は新撰組副長で佐幕、佐絵は前関白・九条尚忠に仕え勤王派のために宮廷工作する女志士。故郷での関係が、京では逆転する辺りが司馬遼太郎の上手いところ。佐絵は『燃えよ剣』のひとつの視点です。歳三の色恋を描くならお雪よりこっちでしょう。

監督:原田眞人
出演:岡田准一、柴咲コウ、鈴木亮平、山田涼介、伊藤英明

当blogの新撰組

タグ:読書 映画
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