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吉田修一 国宝(2021朝日新聞出版) [日記 (2023)]

国宝上青春篇 (朝日文庫) 国宝下花道篇 (朝日文庫)  上巻・青春篇と下巻・花道篇に分かれています。
 1964年正月、長崎丸山の老舗料亭の新年会から幕が開きます。集うのは長崎、佐世保などの侠客の親分衆。宴たけなわの頃、歌舞伎『積恋雪 関扉』が演じられ踊るのは立花組・組長の息子12歳の喜久雄でこの小説の主人公。艶やかな舞姿で登場します。この新年会に対立する組が殴り込みをかけ、宴会場は修羅場となり立花組の組長が殺されます。
 喜久雄は親の仇の組長を襲い、長崎に居れなくなって上方歌舞伎の花井半二郎に預けられます。ここから、侠客の息子が梨園で女形として頭角を現す物語が始まるわけです。 1964年は東京オリンピックの年です。喜久雄は、大阪万博、バブル期の中を歌舞伎の世界で成り上がってゆきます。喜久雄が後に人間国宝となるためタイトルは『国宝』。ストーリーの展開に、『伽羅先代萩』『曽根崎心中』『菅原伝授手習鑑』『国性爺合戦』『仮名手本忠臣蔵』『阿古屋』などの歌舞伎の演目が重ねられ、

⁠此の世の名残 夜も名残 死にに行く身を誓うればあだしが原の道の霜 一足ずつに消えて行く 夢の夢とそあわれなれ
徳兵衛 あれ数うれば暁の 七つの時が六つ鳴りて
お初 残る一つが今生の鐘の響きの聞き納め 寂滅為楽と響くなり (曽根崎心中)

と浄瑠璃の名台詞が挿入されます。歌舞伎の素養のある読者にはストーリーと演目の絡みが面白いのでしょうが、馴染みが無いので猫に小判。ストーリーが歌舞伎界のためか、文体は「~でありまして、~でございます。」と言う語り口です。語っているのが作中人物ではなく作者自身ですから少々違和感があります(好みの問題?)。

 半二郎の元で、喜久雄は半二郎の息子の俊介と、この生まれも育ちも異なるこの二人が修行を競い、役者として一本立ちして後も上方歌舞伎で覇を競います。半二郎が交通事故で骨折し、半二郎は演じるはずの『曽根崎心中』の遊女お初の代役に、跡継ぎの俊介ではなく「部屋子」の喜久雄を指名します。親に疎まれたと考えた俊介は、喜久雄の恋人と伴に出奔します。これによって喜久雄は上方歌舞伎の大名跡「丹波屋」を継ぎ三代目花井半二郎となります。歌舞伎界の役者の話ですから、「世之介」とは別世界の話で「そんなものか」です。

 出奔して行方知れずの俊介が三朝温泉のストリップ劇場で踊っているのが見つかり、興行会社が俊介の復活を目論みます。興行会社は、血統を重んじる歌舞伎界で、半二郎の名跡を息子から奪った喜久雄を悪役に仕立て、喜久雄の隠し子をTVのワイドショーに売り込み俊介復活劇を演出します。隠し子あり、反社勢力との交流ありで、この小説自体がワイドショーですが...。俊介は復活を果たし花井白虎を襲名、三代目花井半二郎の喜久雄は新派に軸足を移します。圧巻は(たぶん)、病気で両足を切断し義足となっても歌舞伎への執念を棄てない俊介の『隅田川』。喜久雄と俊介は若い頃共演した『二人道成寺』で世に出、『隅田川』では攫われた我が子を探す狂女「班女」を喜久雄、対する「船人」を俊介が演じ、両足の無い鬼気迫る演技で千穐楽まで勤め上げ、倒れます。

 演劇という虚の世界、しかも女形という男が女を演じる魔の世界に取り憑かれた男たちの話ですが、正直最後までノレませんでした。吉田修一は、怒り路 ルウ 、横道世之介続・横道世之介永遠と横道世之介悪人と面白かったのですが…。

タグ:読書
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