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夏休みの宿題・読書感想文 田渕久美子 ヘルンとセツ(2022NHK出版) [日記 (2023)]

ヘルンとセツ
思い出の記
 毎年この時期になると、夏休み宿題用の「読書感想文」をblogにupしています。そもそも、今でもそんな宿題があるのかどうか知りませんが、8月後半になると「読書感想文」のアクセスが増えるので、学校によってはあるんでしょうね。私が中高生の頃には必ずありました、恐怖の「読書感想文」。
 この1年読んだ本のblogから、面白そうなものを1冊取り上げていますから、blogの二番煎じでWポストです。

 今夏は、標題の一冊。ここの焼き直しです。面白いのは、有名な小泉八雲の『怪談』は妻セツの「語り」によって生まれたことです。暗い部屋で、セツが円朝の如く怪談を語り、ハーンがそれを聴き”Kwaidan”が生まれたようです。

### 読書感想文 本文 ###

田渕久美子 ヘルンとセツ   1年1組 駄犬ターボ
 ヘルンとは『怪談』の著者・小泉八雲ことラフカディオ・ハーン、セツはハーンの奥さん小泉セツ。セツがハーンに日本の民話、伝説を語り聴かせ、それが『怪談』になったと言われています。

 ハーンは、1890年(明治23年)新聞記者として来日し、島根県松江でお雇い外国人の英語教師となります。小泉セツは明治元年、松江藩の武士の家に生まれ、実家が没落したためハーンの住み込み女中となります。セツは離婚歴があり小泉家の多額の借金のため、お雇い外国人の女中兼「お妾さん」となったわけです。
 ハーンがセツに望んだのは、出雲地方の民話を語り聴かせることでした。新聞記者の取材は、後に『知られぬ日本の面影』、『怪談』に結実します。

 ハーンはとりわけ恐ろしい話が好きで、幽霊の話をするときは、

灯火の芯を短くして明かりをしぼった暗い部屋で、ハーンは見える方の目を見開きながら、セツの話を聞いていた。その姿は、怪談以上におそろしいものだった。(p190、元ネタ小泉節子『思い出の記』p42)

と作者は書いています。暗い部屋で女が出雲方言で「怪談」を語り、日本語のおぼつかない隻眼の異国の男が目を輝かせて聴いている、その光景そのものが「怪談」です。

 セツは憶えている噺を筆記しそれを読むと、ハーンは読むのではなく、「話して聞かせろ」と注文をつけます。セツはそれからは、前もって物語を暗記し、まるでそれがいま目の前で起こっているように語ります。”Kwaidan”(1904)は「噺家」セツの「語り」によって生まれたのです。

それにしてもとハーンは思う。セツはすぐにハーンの癖を憶え、何が好きか嫌いか、まるで自分のことのように理解して動く。これもまたハーンには「魔法」だった。この「察する」能力は日本人の美徳のひとつであると思っていたが、セツは飛び抜けているようだった。(p224)

このセツの「察する」能力が、言葉の壁を越えたのでしょう。1891年ハーンはセツと結婚し第五高等学校の英語教師として熊本に赴任します。ハーンは、4歳で 母親に、7歳で父親に捨てられ、大叔母に育てられたといいます。肉親の情の薄いハーンは異国に来て家族を得、セツとの愛情を育み『怪談』を生み出した話はなかなか感動的です。

###感想文、ここまで###

感想文.jpg Libreofficeで原稿用紙にしてみました。
 
原稿用紙3枚程度です。本書が面白い様でしたら、ネタ元の小泉節子『思い出の記 』(1914青空文庫)をお勧めします。
 芥川龍之介『南京の基督』(青空文庫)、六草いちか『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』もお薦めです。芥川はテーマがはっきりしているので書き易く、おまけに青空文庫で読めます。『鴎外の恋』は『舞姫』のモデル・エリスの謎を追ったノンフィクションで、ミステリとして読んでも面白いです。もっとも当blogの一番人気は山際淳司『スローカーブを、もう一球』、坂口安吾『ラムネ氏のこと』の2編です。

【当blogの読書感想文】

小林多喜二 『蟹工船』・・・青空文庫利用
芥川龍之介 『藪の中』・・・映画併用、青空文庫利用
山際淳司  『スローカーブを、もう一球
須川邦彦  『無人島に生きる十六人』 ・・・青空文庫利用
坂口安吾  『ラムネ氏のこと』 ・・・青空文庫利用
藤沢周平  『蝉しぐれ』・・・原稿用紙約3枚
吉村昭   『漂流』 ・・・原稿用紙約3枚
笹本稜平  『春を背負って』 ・・・原稿用紙約3枚
遠藤周作  『沈黙』 ・・・原稿用紙約3枚
百田尚樹  『海賊とよばれた男
夏目漱石  『こころ』・・・定番!
西村 淳  『面白南極料理人』・・・映画もあり
佐藤 剛  『上を向いて歩こう』・・・お馴染みの歌の話
門井慶喜  『銀河鉄道の父』・・・宮沢賢治です
馳星周   『少年と犬』・・・1910文字
伊集院静  『ノボさん』・・・1100文字
司馬遼太郎 『故郷忘じがたく候』・・・原稿用紙約3枚
川村裕子    『現代語訳 和泉式部日記』・・・原稿用紙約5枚
田渕久美子   『ヘルンとセツ』・・・原稿用紙約3枚、このページ

タグ:読書
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