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浅田次郎 兵諫(2) (2021講談社) [日記 (2022)]

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          張学良と蒋介石
西安事件(1936.12.12)
 続きです。作者は、同じ1936年に起きた二二六事件と西安事件を兵諫と断じます。
 西安事件とは、西安で東北軍司令官・張学良が国民政府のトップ蒋介石を拉致監禁し、共産党の討伐停止などの要求を突きつけた事件です。満州事変で行き場を失った張学良と東北軍は、蒋介石と手を組んで共産党と戦っています。戦局が膠着するなか張学良・周恩来会談が行われ、「抗日救国協定」を結び停戦となります。業を煮やした蒋介石がハッパをかけに西安に来たところを拉致監禁したわけです。

 大倉商事の営業課長の肩書で上海で諜報活動に携わっている志津大尉に、朝日新聞記者・北村修治、NYタイムスのジェームス・ターナーが加わります。
 西安とは通信と交通が遮断され、張学良がクーデター(兵変)を起こし蒋介石は殺されたという噂が飛び交います。志津は、張学良によるクーデターなら蒋介石を生かしておく理由は無くその死をいち早く公表して、クーデターの成功を宣言する筈であり、蒋介石が殺害されたのなら国民政府軍は反撃する筈。奉天軍と国民政府郡の戦闘が起きていないことから蒋介石は生きていると判断します。
 
そう。政権奪取という意味ではない。だが、蒋介石の身柄を拘束して、説得をするというのなら、やはりクーデターと言えるでしょう。 力ずくで国家の方針を変えるのですから。
 
 張学良は蒋介石に、国共内戦の停止と抗日(内戦停止・一致抗日)を柱とした8項目を要求し、蒋介石はこれを飲んで解放されます。日本が侵略して来ようという時に身内で争っている場合か!と云う張学良の主張が通ったわけです。西安事件は第二次国共合作を促し、日中戦争の勝利に繋がります。西安事件は、ニニ六事件と同様に救国を掲げた張学良の「兵諫」だと言うのが作者の見解です。国民政府軍の副司令官の張学良が総司令官である蒋介石を監禁し方針の変更を迫ったわけですから、クーデターです。蒋介石を殺さず権力奪取も行わず、8項目の要求を飲ませ、張学良は投降します。クーデターを起こしたわけですから、張学良は反逆罪で軍事裁判にかけられ禁固50年の刑を言い渡されます。本書では、張学良の軍事裁判の代わりに張学良の護衛官・陳一豆大佐の裁判が描かれます。
 
(陳一豆)兵諫が成ったのであれば、潔く罰を受けねばならぬと(張学良は)お考えになったからであります。 もし明日の法廷において、救国の英雄に苛酷な宣告がなされるのであれば、蒋委員長の権威は地に堕ちます。 亡国の内戦が勃発いたします。
(裁判長)何ということだ。張学良は蔣委員長を人質に取って国策を変え、次にはみずから人質に取られて、その策を実行させる。これは美談などではないぞ。究極の謀略だ。
(陳一豆)いえ、閣下。これは兵諫であります。
 
 著者が「漂泊の貴公子」と呼ぶ張学良は面白い人物です。父親の張作霖が暗殺され27歳で東北軍の総帥となります。中国人同士が争う愚を悟り1928年には北伐の蔣介石に降伏して軍門に下ります。中国を統一するのは自分ではなく蒋介石だと考えて身を引いたかたちです。西安事件を起こして蒋介石に中国の統一を促し、自らは反逆者として罪を被ります。軍閥の長として国民政府と戦って中原に覇をとなえていい筈ですが、自らは近代中国建設の捨て石となります。西安事件によって懲役10年の刑を受け、戦後は台湾に軟禁され1980年代にハワイに隠棲して100歳で亡くなっています。
 
 余談ですが、wikiに個人的に面白い記述があります。
 
当時、朝日新聞社の記者であった尾崎秀実は、スターリンが蔣介石の暗殺を望んでいないという情報を元に蔣介石の生存や抗日統一民族戦線の結成など事件の顛末を正確に予測。対支分析家として近衛文麿の目に止まり近衛の私的機関昭和研究会へ参加することとなる。(wiki)
 
 本書では、西安事件をの実態と蒋介石の生存を見抜いたのは志津大尉であり、上海で活躍する新聞記者の岡や北村が描かれます。尾崎秀実の姿を彷彿として興味深いです。

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浅田次郎 兵諫(2021講談社) [日記 (2022)]

兵諫  兵諫(へいかん)とは馴染みのない言葉ですが、兵による「諫言」という意味で、

遠い昔、楚の忠臣が主君を懼れ敬するがゆえに、剣を執ってその行いを諌めた。兵を挙げてでも主の過ちを諌める。すなわち兵諫である。

《クーデター》です。本書では、ニニ六事件と張学良が蒋介石を拘束して「安内攘外」(内戦停止、一致抗日)を迫った西安事件が取り上げられます。

ニニ六事件(1936.2.26)
 昭和11年秋、東京。『マンチュリアン・レポート』で天皇の密勅を帯びて「張作霖爆殺事件」を調査した志津大尉と、張作霖軍の列車に同乗して 片足を吹き飛ばされた元軍事顧問の吉永大佐が登場します。志津は、ニニ六事件の首魁のひとり元陸軍大尉・村中孝大尉を陸軍刑務所に訪ねます。治安維持法改悪反対の怪文書をばら蒔いて禁固6ヶ月となった将校と、ニニ六事件の首謀者の面会です。普通なら実現しない面会ですから、何らかの力が働いていたはず。これも勅命で、事件に際し蹶起部隊を反乱軍と呼び、近衛師団を自ら率いて鎮圧するとまで言った天皇が、張作霖事件に続きことの真相を志津大尉に調査させたわけです。

 ニニ六事件の首謀者15名は7/12に処刑されますが、村中大尉と磯部大尉は北一輝、西田税の裁判のため処刑は伸ばされ、北、西田と同じ8/19に処刑されます。志津大尉は

蹶起将校たちは北と西田に踊らされた、という図にすれば、軍は被害者ということになります。

北と西田を有罪として極刑にすることで、軍は被害者となりその威信は傷つかないわけです。

 ニニ六事件の背景には、陸軍の皇道派と統制派の派閥闘争があります。事件の前年には、皇道派の相沢中佐が統制派の永田少将を惨殺する事件が起き、統制派は皇道派の将校の多い第一師団を満州に飛ばし皇道派を日本から遠避けようとします。相沢事件と第一師団が引き金となってニニ六事件は起きます。陸軍中央=統制派は事件を予測していたのではないか、これは一種の謀略ではないか、と志津は考えます。事実、事件後には皇道派は一掃され壊滅します。

二・二六は予測されていた、と」
「あるいは当日ではなくとも、近々起きるであろうことはわかっていたと思います。事件を誘導して、危険人物を一網打尽にする。戒厳令下の軍法会議ならば全員を抹殺できます。むろん、相沢中佐も、民間人もいっぺんに」

危険人物を一網打尽にして軍法会議で全員を抹殺しようというわけです。ニニ六事件は謀略だったという新説です。
  自ら兵を率いて鎮圧すると言った天皇も、二・二六事件によるショックは大きかった様です。事件はトラウマとなって、後年の2/26には側近に「治安は何もないか」と尋ね、警視庁を視察した際には、警視総監に「色々な重要な施設等暴漢例えば、二・二六の如き折、充分防護は考えていようね」とご下問があったそうです。 続きます。

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映画 キネマの神様(2022日) [日記 (2022)]

キネマの神様 [DVD]  「映画」そのものをテーマとした映画は数多くあります。映画の持つロマンティシズムをベースに、映画の製作に携わる人々や映画館に集う人を哀感をもって描いたものが多いようです。郷愁を込めて「キネマ」「シネマ」という言葉が使われ、代表が『ニュー・シネマ・パラダイス』。『キネマの神様』もそうした一編です。

 話は何のヒネリも無く、1950年代の松竹蒲田撮影所の青春と彼彼女の半世紀後の物語です。主人公は、監督助手のゴウ(菅田将暉)、テラシン(野田洋次郎)、撮影所の面々が通う食堂の看板娘・淑子(永野芽郁)。原節子、小津安二郎に相当する?桂園子(北川景子)、出水宏監督(リリー・フランキー)も登場します。

 ゴウは監督を目指し脚本を書き、テラシンは己の才能に見切りを付けて好きな映画を上映する映画館を持つ夢を語ります。青春ですから恋があります。テラシンが淑子に惚れ、淑子はゴウに恋する三角関係。ゴウは脚本「キネマの神様」を書き監督デビューを果たしますが、あえなく失速。「キネマの神様」は、映画のヒーローがスクリーンから抜け出し観客の女性と恋におちると云うもの。こrが映画のオチとなります。

 半世紀が経ち、ゴウ(沢田研二)はアル中でギャンブル依存症の後期高齢者。テラシン(小林稔侍)は夢が叶って小さな映画館「テアトル銀幕」のオーナーとなり、かつて所属した出水組の桂園子主演映画を上映しています。フィルムのリールを映写機に掛ける昔ながらの映画館で、何処かで見たような映写室が描かれます。
 淑子(宮本信子)は、パートとして「テアトル銀幕」で働き、アル中でギャンブル依存症の夫・ゴウの借金の尻拭いに追われる日々。松竹蒲田撮影所の輝ける青春も、半世紀経つと酒とギャンブルの日々となります。

 と、云う前提で本題に入るわけです。テラシンがゴウの孫・勇太に脚本「キネマの神様」を見せ、勇太はこれをアレンジしてゴウ名義で脚本コンテストに応募。見事最優秀作となり、監督になれなかったゴウは78歳の新人脚本家となります。コンテストの優勝賞金100万円!、これで借金が返せる →折からのパンデミックの緊急事態宣言で客足の途絶えた「テアトル銀幕」は、その100万円で救われます。都合よく出来ています。

 オチは脚本「キネマの神様」。「テアトル銀幕」で懐かしい映画を観ているゴウの元に、桂園子がスクリーンから現れゴウを映画の世界に誘い、ゴウは映画館のシートで眠るように亡くなるわけです。
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 キャメラ、カチンコ、原節子に小津安二郎と郷愁の映画愛が満載で、山田洋次の想いの丈は分かるんですが…。50本作られた山田洋次の代表作『男はつらいよ』は、マンネリズムの持つ「安心感」で成り立っています。『キネマの神様』もまた同様で、マンネリを安心と感じるか陳腐と感じるかは、見る人によるでしょうね。ゴウ役は志村けんが予定されていたようですがコロナに感染したため沢田研二に変更になった様です。志村が演じれば映画の印象もまた変わったでしょう、残念。
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松阪市にある小津安二郎 青春館(自転車で行きました

監督:山田洋次
出演:沢田研二、菅田将暉、永野芽郁、野田洋次郎、リリー・フランキー、北川景子

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再読 浅田次郎 マンチュリアン・リポート(2) (2010講談社文庫) [日記 (2022)]

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皇姑屯
 続きです。大元帥府書記・岡圭之介、日本公使館の駐在武官・吉永中佐が登場します。岡は萬朝報の記者として『蒼穹の昴』に登場したキャラクターで、吉永は張作霖の軍事顧問として列車に乗り合わせ、片足を吹き飛ばされる重傷を負った人物。志津はこの2人の情報提供によって張作霖爆殺事件の真相を探り、「満州報告書」によって事の次第を天皇に報告します。

 志津が調べた張作霖爆殺事件は奇々怪々、

1)張作霖が北京を立つ際、関東軍の情報少佐が私服でプラットホームに佇んでいた。
2)怪電報が傍受された、〈三日〇一一五 特別列車北京ヲ発ス コバルト色十九輛編成ノ列車ナリ カノ人物ハ第八輛『展望車』ニ乗レリ 但シ同色ノ囮列車十輛編成ニテ先行ス 本夕刻 現着予定>。
3)軍事顧問の町野大佐と安国軍副総司令の張宗昌は天津で下車し、張作霖・北京政府の常蔭槐は囮列車に乗りかえ、列車に同乗した張作霖派の要人3人は惨事を免れた。
4)張作霖の命令で、列車は通常の半分の速度、時速27kmで走っていた。その為、奉天到着は予定の6/3ではなく6/4となった。
5)現場から2名の麻薬中毒者の刺殺死体が発見され、関東軍は犯人は蔣介石軍のゲリラだと発表。

1)はともかくとして2)は暗殺実行には必須の情報であり、3)に至っては張作霖側の人間も暗殺計画を事前に知っていたとしか考えられません。4)は張作霖も暗殺計画を知り、用心して列車をゆっくり走らせ到着を1日遅らせたと考えられます。5)に至っては偽装工作であることが明白です。

 謎を解くために、志津は張作霖の乗った北京→奉天間の京奉線に乗車します。爆殺の現場・皇姑屯は瀋陽(奉天)の市街地で、京奉線と満鉄線の立体交差地点。張作霖の乗った客車を爆薬で吹き飛ばしたではなく、爆薬は満鉄線の橋脚に仕掛けられ、橋脚が落下して張作霖の乗っていた客車を直撃したのです。どの様に張作霖の乗った客車が橋脚直下に来るタイミングを正確に狙ったのか?。列車は瀋陽に近づくと時速10kmに減速し、張作霖は奉天駅で出迎えを受けるために必ず展望車に移動します。減速した展望車が橋脚の下に来るタイミングを狙うのはそさほど難しいことでは無いわけです。

 さらに決定的な証言を得ます。志津の士官学校の同期、鉄道守備隊の古賀中尉の証言です。古賀は張作霖が奉天に到着する6/3の前夜、大量の爆薬と起爆電線を積んだ関東軍の工兵を目撃したと言います。
あいつらは、二度も予行演習をしたんだ。それで、満を持して張作霖を殺した。そんな大がかりなことは、何人かの将校でできるはずはない。関東軍司令部の謀略だ。
張作霖爆殺は関東軍の総意。河本大佐は高級参謀の職責上、罪を被ったにすぎん。
 満鉄線は関東軍の管理下ですから、客車に爆薬を仕掛けるより満鉄の橋脚を爆破する方がはるかに容易です。

奉勅命令
 当時の中国は、奉天軍、国民党、共産党の三つ巴の混乱の中で反日暴動が多発しています。関東軍は居留民保護の名目で軍を派遣し奉天軍、国民党を武装解除して、一気に満州での覇権を確立しようと目論みます。中国領への軍の派遣は天皇の命令が必要ですが、天皇は奉勅命令を出しません。

 あなたが奉勅命令をお出しにならなかったのは、軍と政府の目論見を読み切ったからなのでしょう。・・・勅命さえ下れば、この際に満蒙問題を一挙解決しようと企んでいたのだと思うのです。しかし関東軍は、あなたの明晰さを知っていました。すなわち、奉勅命令が下りなかった場合の行動を用意していたのです。
張作霖を爆殺する。犯人はどう考えても日本軍ですから、これは戦争になる。 実は国軍の便衣隊の仕業であったとすれば、誤解によって生じた戦争に勝利し、善意を以って新しい満洲の支配者となったという論理が成立するのです。非道きわまる話ですが、すでに弦から矢を放ってしまった関東軍は、この方法を強行するしかなかったのでしょう。そして、奉勅命令が下りなかった場合に備えて、かねてより予行演習までしていた。

 志津は、これが張作霖爆殺事件の真相だと天皇に書き送ります。予行演習までしていたかどうか別にしてほぼ史実です。
 半藤一利によると、張作霖事件は昭和史の分岐点だっといいます。天皇側近の西園寺は事件が関東軍による謀略だと見抜き、内大臣の牧野伸顕、侍従長・鈴木貫太郎と共に総理大臣・田中義一に圧力をかけ、田中の辞職で事件は決着します。事実上天皇が総理大臣の首を切ったわけです。これは憲法違反だとの指摘があり、以後、天皇は内閣や軍部が一致して決めたことに異を唱えない、余計な発言をしないという立場を守り抜くことになります。「沈黙する天皇」の誕生です。もう一つがロンドン海軍軍縮会議に係わる「統帥権干犯問題」。統帥権を持ち出せば軍部は政治に何でも言えるという「魔法の杖」(司馬遼太郎)を得たことになり、統帥権と天皇の沈黙によって軍部の独走が始まったといいます。余談です。

 蒼穹の昴シリーズは、戊戌の変法、戊戌の政変(蒼穹の昴)→義和団事件(珍妃の井戸)→清朝の崩壊と軍閥霖の勃興(中原の虹)を経て、『マンチュリアン・レポート』で張作霖爆殺まで来たわけです。続いて満州事変、満州国建国(天子蒙塵)と長城を越えた征服王朝・清朝の没落とそれに関わった日本(それは同時に日本帝国の崩壊でもあるわけですが)が描かれます。

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再読 浅田次郎 マンチュリアン・リポート(1) (2010講談社文庫) [日記 (2022)]

マンチュリアン・リポート (講談社文庫)
 『蒼穹の昴』第四部、1928年の《張作霖爆殺事件》です。現在では、事件は関東軍司令官・村岡長太郎が発案し参謀・河本大作が決行した謀略、と明らかになっています。
 昭和4年、「治安維持法改悪に関する意見書」をばらまき軍規紊乱の廉で陸軍刑務所に収監されていた志津中尉は、突然刑務所から連れ出され昭和天皇と対面させられます。怪文書を読んだ天皇が志津との面会を望んだのです。話しは昭和3年6月の「張作霖爆殺事件」(当blog)に及びます。時の総理・田中義一は、最初は関東軍の関わりを認めたものの、後に前言を翻したため天皇の不興を買い内閣は総辞職となります。小説の昭和4年夏の時点で真相は不明。天皇は、

命令を達する。張作霖将軍が何者かの手によって爆殺されたる、満洲の重大事件につき、陸軍中尉志津邦陽に事 実調査を命ずる。

 天皇が一陸軍中尉に勅命を下すわけです。天皇は、堂々と国家を批判する私心の無い志津中尉を選んだわけです。報告は書簡で内閣書記官長・鳩山一郎経由で「私」にせよ、上下の儀礼は一切無用。従って、「満州報告書」の「あなた」とは天皇を指します。もう国際スパイ小説でスパイマスターは天皇。「満州報告書(マンチュリアン・レポート)」と交互に「鉄鋼の独白」が配されます。鉄鋼とは、西太后の御料車を引く英国製機関車のことで、張作霖は北京からこの機関車で奉天に向かう途中爆殺されます。人格を与えられた蒸気機関車は、事件の目撃者というわけです。

 清朝が倒れた後の中国は、中華民国(国民政府)と地方軍閥の内戦状態にあり、一頭地を抜く満州の軍閥・張作霖が北京に侵攻し中華民国の主権を握ります。日本にとっては、日清戦争で得た満州の利権を護り伸張するためには、張作霖の北京進出はマズイわけです。

満洲を支那と分離し、朝鮮と地続きの勢力圏に組みこんで、いずれは併合する、というのが大陸進出主義者たちの描いた絵図でした。

張作霖暗殺は、大日本帝国=関東郡の満蒙領有計画の障害を取り除く謀略だったのです。

 「満州報告書 2」で、事件の責任者処分について天皇に苦言を述べます。関東軍司令官の村岡中将の処分は「依願予備役被仰付」であり、「関東軍司令官として満洲独立守備隊の統督および満鉄ならびに付属地警備の行届の理由によるものとして自発的に辞表を提出せしめた」ことがその理由です。関東軍高級参謀の河本大佐は、満洲独立守備隊が警備すべき京奉線と満鉄線との交叉点に支那兵の配置を独断専行をもって許可したため「停職被仰付」。いずれも依頼予備役、停職という軽いものです。

「被仰付」という文言はいかに成句であるにせよ、奏上を裁可したあなたがそのように命じた、ということになります。

 田中義一総理大臣に至っては、「満洲事件の解決に関し、聖慮を煩わし奉るに至り何とも恐懼に堪えないからここに全責任を負い」内閣総辞職すると云うもの。事件の責任をとったのではなく、天皇を煩わした、畏れ多いから辞めるというわけです。

この方法が採用されれば、あらゆる法律も議決も超越した国家行為が可能となり、かつその結果について、誰も責任を負う必要がなくなります。日本は立憲君主国家でも法治国家でもない、非科学的な神憑りの国になってしまうのです。

 作者は、これが昭和3~4年(1928~29年)の日本の姿だと言います。

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ドクダミ酒 試飲 [日記 (2022)]

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 5月に漬けたドクダミ酒        半年経って飲み頃?

 3ヶ月経てばあの独特の香りが消えて飲めるらしい、半年経ってますから飲み頃かと試飲しました。琥珀色になり、ドクダミの香りは消えています。ストレートで飲んでますが、砂糖を入れなかったにも拘わらずほのかな甘味。美味いかというと?、人それぞれとしか言いようがありませんが、食前酒にいいかも。香りだけ言えばカリン酒が上。
 効用はいろいろあるようですが、蚊に刺された時のかゆみ止めには効きます。ハッカ油ほどではないですが虫よけにも効果がありそう?。

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久々にオールドレンズ [日記 (2022)]

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28mm装着              28mm、50mm、150mmズーム

 スマホを使うようになってデジカメの出番が無くなりました。先日デジカメ棚卸しをし、レンズが何本もあるので使ってみようかと思います。望遠、マクロコンバーター、ビューファインダまであります。レンズは一時期遊んでいたフィルカメラのレンズ(オールドレンズ)です。アダプタを介してデジカメで使えます。OlympusのOM-1の50mmがあったのでこれをE-PL1で使ったのが発端で、描写力が優れているとかで一時ブームになりました。マイクロフォーサーズで使うと150mmの望遠がX2の300mm相当になるのも魅力です。50mmは中望遠の100mmとなって使いにくいので28mmを入手、次いで75~150mmも。当たり前ですが、デジカメで撮った画像はスマホに比べると段違いです。スマホを止めてデジカメを使うことします。オールドレンズを付けるとオートは効かなくなり、絞り優先となります。
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zuiko 28mm F3.5・・・ピント合ってない^^;
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スマホ                150mm(300mm相当)
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コッチは、ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm+マクロコンバーター

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カメラの棚卸し & ファームウェア アップデート [日記 (2022)]

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 オリンパス PENもあるw        新しいオーナーさん

 スマホを使うようになってデジカメの出番は殆ど無くなりました。デジイチが嫁入りすることになり、古いのが何台もあるのでついでに棚卸し。手持ちは

・オリンパスE-PL1 →正常
・キャノンEosKiss X5 →正常・・・嫁入り
・オリンパスXZ-1 →シャッター切れず
・リコーR7 →レンズ出ず
・京セラSR300 →バッテリ不良
・オリンパスPEN EE3、EED →フィルカメラ

あとQV10もあったのですが処分しました。XZ-1はファームウェア自体が壊れている様で、レンズが明るいので気にいっていたんですが…。R7はレンズが出る時もあるので何とかなるかも?。適当に使って動態保存しないと駄目みたいですw。
 デジタル一眼は正常に稼働しますが、コンデジは不具合が出ています。いずれも修理の受付も終了しているようです。棚卸しついでにファームウェアの更新をやりました。

Canon EOS Kiss X5:PCでファームウェアをダウンロードして解凍 →SDカードに入れてカメラ本体でアップデート。 →Version 1.0.3

オリンパスE-PL1:オリンパスはアップデーターをPCにインストールしてUSBで繋げば、自動的にアップデートしてくれます。 →Version1.3

リコーR7:canon同様にSDカードにファームウェア入れてカメラ本体でアップデート。 →VersionV1.28

 Canonを嫁入りさせオリンパスは継続使用。リコーと京セラとXZ-1は廃棄です。E-PL1はフィルムカメラ(OM-1)のレンズ(オールドレンズ)が24mm、50mm、150mmと3本あるので、久々に使ってみます。嫁入り先の新オーナー(中学生)は、「カメラマンみたい!」とデジカメがいたく気に入った様です。

タグ:デジカメ
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映画 ドクター・スリープ(2019米) [日記 (2022)]

 スタンリー・キューブリックの『シャイニング』の続編だと云うので観ました。ジャック・トランスは雪の迷路で死にましたから、今回の主人公は当時幼かった息子のダニー。40年後ですからダニーも中年のオッサンで、ユアン・マクレガーが演じます。ダニーは、オーバールックホテルの出来事と自分の超能力シャイニングのために父親同様のアルコール中毒。これではイカンと断酒会に入り酒を絶ってホスピスの看護師となります。ホスピスで死を迎える患者を看取り”Doctor Sleep”と呼ばれています。

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シャイニングのダニー            40年後のダニー

 スタンリー・キューブリックの『シャイニング』の続編だと云うので観ました。ジャック・トランスは雪の迷路で死にましたから、今回の主人公は当時幼かった息子のダニー。40年後ですからダニーも中年のオッサンで、ユアン・マクレガーが演じます。ダニーは、オーバールックホテルの出来事と自分の超能力シャイニングのために父親同様のアルコール中毒。これではイカンと断酒会に入り酒を絶ってホスピスの看護師となります。ホスピスで死を迎える患者を看取り”Doctor Sleep”と呼ばれています。

 ダニーに対峙するのが、人の「生気」を糧に生きる超能力者ローズ(レベッカ・ファーガソン)→ヒロイン登場です。もう一人ダニー同様に「シャイング」を持つ少女アブラ(カイリー・カラン)が登場します。3人がESPで繋がり、ローズが生気を吸い取ろうとアラブを襲い、ダニーが割って入ってダニー+アブラvs.ローズの闘いが始まります。

 ローズたち(仲間がいます)が生気を吸い取ると言っても、死際に出る煙の様なものを吸い込むだけ。このヴァンパイアはライフルで簡単に撃ち殺され、銀の銃弾も心臓に杭を打ち込む必要もない割りと単純な奴ら。人間の生気を吸って何百年も生き続けていますから、死ぬと塵になって消えます。煙にしろ塵にしろ昔からある描写で何の工夫もありませんw。

 『シャイニング』は、オーバールックホテルに憑く死霊がジャックに取り憑き、次第に狂気に陥るとこが面白かったわけです。で、ダニーはホテルの霊の力を利用してローズを倒そうとおびきだしだします。ここでやっと『シャイニング』の続編となります。舞台がオーバールックホテルですから、血の洪水の洗礼があり、237号室の女ゾンビ、双子の少女などお馴染みの霊が登場します。ホテルのバーでバーテンがジャックにウィスキー出すシーンもシッカリあります。何とバーテンはジャックでダニーに酒を勧めるんです。当然ソックリさんですが似ていないところがご愛敬。ジャックの奥さんも幼いのダニーも登場し、雪の迷路の追い駆けっこもあって「どうだ続編だ!」というわけです...。

 で、闘いにアブラが参戦しダニーとローズは討ち死、『シャイニング』の続編というふれ込みですが面白くも何ともありませんw。『シャイニング』を観ていれば辻褄が会いマァ観れますが、この映画だけでは???でしょうね。ジャック・ニコルソンの登場しない『シャイニング』は続編と言われても…。

原作:スティーヴン・キング
監督:マイク・フラナガン
出演:ユアン・マクレガー、レベッカ・ファーガソン、カイリー・カラン

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再読 浅田次郎 珍妃の井戸(1997講談社文庫) [日記 (2022)]

珍妃の井戸 (講談社文庫)
珍妃の井戸.jpg
蒼穹の昴』第二部。珍妃は光緒帝の側室で、義和団事件の混乱に乗じて紫禁城の井戸に投げ込まれて殺された悲劇の皇妃です。犯人は西太后、袁世凱など取り沙汰されていますが、未だ謎。この殺人事件に浅田探偵が挑む歴史ミステリーです。

 戊戌の政変から4年後の光緒28年(1902)鎮国公・載沢の舞踏会で、ミセス・チャンが英国海軍のソールズベリー提督の耳に囁きます。珍妃の死は実は暗殺だった、彼女は何者かに殺されたのだと。ソールズベリーは、このことをプロシア貴族のドイツのヘルベルト・フォン・シュミット大佐に伝え、露清銀行総裁セルゲイ・ペトロヴィッチ公爵、東京帝国大学の支那学教授・松平忠永子爵 を加えた4人が真相の究明に乗り出します。

 珍妃が暗殺されということは光緒帝が暗殺される可能性があり、皇帝が暗殺されれば義和団事件を越える混乱が予測されます。混乱は、大清帝国という利権をめぐる列強の均衡が一挙に崩れる危険を孕み、皇帝暗殺は英独露日の立憲君主制の根幹を揺るがしかねない事件です。4人の貴族は危機回避ために事件の真相解明に乗り出します。事件の前後の出来事は、こうです。

1897:光緒帝、隆裕、瑾妃、珍妃を娶り親政を始める
1898:戊戌の変法を始めるが、西太后、袁世凱のクーデターで失敗(戊戌の政変)。光緒帝と珍妃は幽閉される。
1899:愛新覚羅溥儁を皇太子にするも3日で廃位
1900:義和団事件
 4月、義和団北京に入る
 6月、清朝が列強に宣戦布告
 8月、八カ国連合軍が北京に進攻、西太后、光緒帝は西安に逃れる、珍妃が殺害される
 9月、義和団鎮圧
1901:北京議定書

トーマス・バートンの証言(NYタイム記者)
 珍妃と彼女を取り巻く状況が解説され、「珍妃は慈悲深いみ仏様の怒りに触れて、お命を召し上げられた」と。蘭琴に聞けば分かるだろうとバトンが渡されます。

蘭琴の証言(光緒帝側近の宦官)
 蘭琴は暗殺について何も知らず、もし暗殺であれば袁世凱が関わっている可能性があると証言します。袁世凱は珍妃に横恋慕しており、光緒帝に復讐するために殺したと推理します。

袁世凱の証言(北洋軍司令官、戊戌の政変の裏切り者)
 続いて袁世凱。8カ国連合が迫り紫禁城に砲撃を加えてきたため、西安に逃れようと(蒙塵)西太后以下が集まります。珍妃殺害の現場に居合わせた人物は、西太后、光緒帝、皇后、珍妃の姉の瑾妃及び同治帝の未亡人珣貴妃、瑜貴妃、瑠貴妃、及び袁世凱、栄禄と春雲。動機は嫉妬で手を下したのは栄禄。珍妃も西安に連れていこうと幽閉場所から連れだします。瑾妃は、帝に愛される珍妃に嫉妬していたといいます。戊戌の政変で幽閉され病み衰えた足手まといの珍妃を殺してしまえと。

瑾妃の証言(珍妃の姉、光緒帝の側室)
 袁世凱は現場にいなかった。珍妃を殺せと言ったのは光緒帝の皇后の隆裕。隆裕は西太后の姪で皇后ですが光緒帝には珍妃を溺愛したため。珍妃に嫉妬していた、これが殺害の動機だと言います。隆裕は長身で浅黒い駱駝顔、瑾妃は丸々と太ったブス。一方の珍妃は、美人で戊戌の変法で光緒帝に助言が出来る程の教養がある、誰だって珍妃を選択するわけです。珍妃の命乞いをしたのは瑾妃付きの宦官・劉蓮焦だけ、劉蓮焦に聞いてみればハッキリすると瑾妃は言います。

劉蓮焦の証言(瑾妃付きの宦官)
 劉蓮焦は、瑾妃の証言は隆裕を陥れる偽証であり、犯人は西太后の甥で光緒帝の従兄弟の義和団に加わった載漪と3日で皇太子を降ろされ溥儁親子だと証言します。光緒帝に帝位を取られた恨みだというわけです。載漪と溥儁は義和団とともに紫禁城に乱入し、さすが光緒帝を殺すわけにもいかず恨みの矛先を珍妃に向けたというのです。

溥儁の証言(西太后の甥で光緒帝の従兄弟・載漪の息子)
 珍妃は西太后から死を賜り、自ら井戸に身を投げたというのです。幽閉されて会えなかった光緒帝にも会うことができ、思い残すことは無い。「魂の安らぐ場所は満州草原にしかない」と言って井戸に身を投げたというのです。疑うなら光緒帝に聞いてみろ、と。珍妃を殺したのはやはり西太后?。

光緒帝の証言
 で、4人は光緒帝に会うわけです。光緒帝が言うには、西太后を始め「珍妃を殺せ」などとは誰も言わなかった。珍妃を西安に連れて行くために袁世凱が迎えに 行ったが、時既に遅し。袁の後ろから珍妃を抱えて現れたのは、何と、ソールズベリー提督、シュミット大佐、ペトロヴィッチ公爵、松平忠永子爵の4人。

おまえらはみな、それぞれの首に何十もの宝珠をかけ、ポ ケットからは翡翠や真珠があふれでていたな。そして顔も服も、奪い犯し殺した支那人の血で、真黒であった。
 それからおまえらは、支那の希いを笑いとばしながら古井戸に寄った。
「豚を殺して、どこが悪い!」
四ヵ国の言葉で口々にそう叫びつつ、おまえらは、ぐったりと力の脱けた珍妃の、両手と両足とを握り、井戸の奥深くへと、沈めた。

 誰が珍妃を殺したのか?、真実は『藪の中』です。歴史ミステリーと云うより『蒼穹の昴』の第二部です。

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