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スタンダール 赤と黒(下) マチルド② 2007光文新訳古典文庫 [日記(2019)]

赤と黒(下) (光文社古典新訳文庫)  続きです。20歳の若者との恋に酔うルナール夫人と比べると、マチルドは奇矯の一言に尽きます。愛していると言った翌日には無視し、つれなくした翌日にはまたジュリアンを誘い翻弄します。マチルドはジュリアンを愛しているわけですが、それを邪魔するのが彼女の自尊心で、ふたりは絶交と仲直りを繰り返します。マチルドの気まぐれに付き合うのはジュリアンならずとも読む方も疲れます。
 ジュリアンもまたマチルドに恋していたのかどうか?。貴族の娘と結婚して上流階級で成り上がろうと思ったわけではなく、マチルドに仕掛けられたから受けて立とう、彼女をモノにして支配階級に一泡吹かせてやろうという身分コンプレックスが動機です。

 ジュリアンは、ロシア貴族から「恋愛必勝法」の手ほどきを受け、53通のラブレター・サンプルを貰い受けます、これは結構笑う話です。「当て馬」を使いマチルドを嫉妬させようという作戦。ジュリアンはラ・モール伯爵邸のサロンに集う夫人の中で、結婚1年で夫を亡くした元帥夫人を当て馬に選びます。53通のラブレターを送り、マチルドの眼を見ずマチルドに聞こえるように元帥夫人をかき口説きます。努力のかいあって、マチルドはジュリアンに屈服。ここでマチルドを許せば驕慢がまた頭を持ち上げる、そう考えるジュリアンは容易にシッポを振らず、マチルドに保証を要求します。一緒にロンドンで暮らそうと彼の気を引きますがジュリアンは応じません。

 そんな折、究極の「保証」が出来します、なんとマチルドが妊娠します。

これこそ保証じゃないかしら? 私は永遠にあなたの妻です。
そう聞かされてジュリアンは愕然となった。

 やはりジュリアンは愕然とするわけですね。妊娠がマチルドを変えます。父親ラ・モール侯爵に打ち明けて結婚を認めさせようとします。侯爵は怒り心頭。ジュリアンを秘書として重用し、貴族のサロンに出入りできるまで引き上げてやったわけですから、これは裏切り、恩を仇で返す行いだというわけです。いずれはマチルドを貴族の若者と結婚させ公爵夫人にすることを夢見ていたのに、あろうことか、平民のそれも使用人ふぜいと...この人でなしめ!。
 妊娠したマチルドは変わります。

あの人が死ねば私も死にます!・・・

 ジュリアンは暗殺されるかも知れない。もしジュリアンが死ねば、ソレル夫人として喪服を着てパリ中にふたりの関係をバラしてやる!と父親を脅します。ラ・モール侯爵は渋々折れて婚姻を認め、ジュリアンに従男爵・軽騎兵中尉の地位を用意します。
 ジュリアンの身元紹介の調査が行われ、ルナール夫人から手紙が届きます。手紙には、ジュリアンは家庭に入り込み、女性を誘惑して一家の財産を乗っ取る非道の男であるあることが記されています。教会の告解師によってルナール夫人が書かされたもので本心ではありません。ジュリアンがルナール夫人を誘惑したことは事実ですが、上流階級で町長のルナール氏の鼻をあかすためであり金銭目的ではありません。動機はどうあれ、ジュリアンはルナール夫人との恋に酔い、マチルドとの恋の駆け引きの最中でも常にマチルドとルナール夫人を比べ、思い出に浸っていました。
 この手紙を読んでジュリアンは直ちにヴェリエールに戻り、拳銃でルナール夫人を撃ちます。

 ジュリアンは何故ラモール夫人を殺そうとしたのか?。スタンダールは侮辱されたから書いていますが、読者としてはイマイチ納得できません。マチルドの妊娠で愛の「保証」を手に入れ、ラ・モール侯爵から大金と準男爵の地位を手に入れ、念願の貴族への階段を駆け上ったわけです。殺人をおかせば野望は一瞬にして潰えます。それを犠牲にしてまでルナール夫人を殺す必要があったのか?。ジュリアンは逃げようともせずむざむざと捕まり、まるで死刑を望むかのように、我を忘れた激情からの殺人ではなく計画した殺人であると証言します。
 ジュリアンがラモール夫人を殺したかったのではなく、スタンダールがジュリアンを殺したかったのです。欲しかったのはジュリアンの首であり、描きたかったのはジュリアンではなくマチルドです。この事件でマチルドの自尊心に火がつきます。あらゆる伝手を頼ってジュリアンを死刑から救おうとしますが、

あの人が死んだら、私もあとを追おう・・・私ような身分の娘が、死刑を宣告された恋人をこれほど愛しているのを見たら、パリのサロンではなんというかしら? こんな愛情を見つけるには、英雄たちの時代までさかのぼらなければならない。シャルル九世やアンリ三世の時代、人々の胸をときめかせたのは、こんな種類の恋だったはずよ

さすが、処刑された愛人の生首にキスした王妃マルグリットの名を受け継ぐマチルドです。ジュリアンは処刑され、マチルドはギロチンで切り落とされた首にキスします、La fin。

 スタンダールは何を描いたのか?。『赤と黒』は1830年の七月革命を予告した小説だそうです。美貌と頭脳で階級の壁を崩そうとする若者が主人公ですが、一方で光るのはマチルド。七月革命で消え去るジュリアンが倒そうとした貴族階級の娘ですが、七月革命を予告したのは実はマチルドかもしれません。
自由の女神.jpg ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』 


赤と黒(上) 、(下)  

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嫌韓は高齢者に多いのか? [日記(2019)]

 先日「申維翰と元駐日韓国大使」をblogにupしましたが、これも「嫌韓」の一種なんではなかろうかと思っています。「なぜ嫌韓は高齢者に多いのだろうか(2019.05.18)」(澤田克己・外信部長)という毎日新聞のコラムが言う「高齢者」ですから。blogでは「宗教」と「政治」は書かないようにしているのですが、最近の日韓関係は面白いのでつい...「もの言はぬは腹ふくるるわざなれば」です。

 筆者・澤田克己は、世論調査の「韓国に親しみを感じる」の回答が18~29歳では57.4%、70歳以上では28.1%という結果から嫌韓に「世代」を持ち込み、「高年齢層の方が韓国に対して厳しいというのは一目瞭然でしょう」と結論づけます。その根拠を「経済的にも、政治的にも、日本とは比べものにならない小さく、弱い存在でした。それなのに、バブル崩壊後に日本がもたついている間に追いついてきて生意気なことを言うようになった。そうした意識が嫌韓につながっているのではないか」とし、高齢者が嫌韓に走る理由を、「定年退職した後に感じる社会からの疎外感というものも無視できないのかもしれません」とします。
 さらに、朝鮮学校への補助金支出問題の弁護士に懲戒請求を出した人物の、「(定年後)社会に参加していない、疎外されているようなところがあった。自分は社会とつながっているんだという自己承認を新たにしたというような意識が働いて、一線を越えてしまったのではないか」という発言(反省?)を引用して「高齢者=嫌韓」論を補強します。高齢者が嫌韓でもいいのですが、その根拠を「定年後の疎外感」とすることは如何なものか。当然コラム炎上したようです。
 昨今の「日韓問題」ほど面白い政治ショーはありません。高齢者は時間があるので(要はヒマなので)新聞、雑誌、ネットなどでマメに情報収集し、ヒマな高齢者が煽られて嫌韓となる、とでも結論付ければ、炎上も無かったでしょう。
 ひょっとして、徴用工訴訟、自衛隊機レーダー照射問題、韓国国会議長の天皇を持ちだした発言などに憤る毎日新聞の記者が、高齢者をダシに自分の嫌韓を「吐露」したコラムなんじゃないか?(笑。もう少し取材を続けてみたい、と澤田克己・外信部長は書いていますから、嫌韓=高齢者を証明してほしいものです。

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