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ドラマ スパイの妻(2020日) [日記 (2021)]

「スパイの妻<劇場版>」DVD通常版  『スパイの妻』は、NHKのドラマと同一内容の劇場公開版の映画があるそうです。ベネチア国際映画祭で「銀獅子賞」を獲得し話題になりました。今回観たはドラマの方(4/12再放送)。

 1940年(昭和15年)、神戸で貿易商を営む福原(高橋一生)と妻・聡子(蒼井優)の物語です。冒頭、福原の商売相手の英国人がスパイ容疑で逮捕され、福原の元に友人の憲兵隊分隊長の津森(東出昌大)が現れ、「気をつけるように」と忠告します。
 1940年がどういう時代だったかというと、前年にドイツ軍がポーランドに侵攻して第二次世界大戦が勃発し、日本は中国大陸に侵攻しており翌年の12月には真珠湾奇襲によって太平洋戦争が始まるとう時期です。日独伊三国同盟が締結され、インドシナに侵攻する南進政策が決められたのもこの年。福原は、「危なくなる前にこの目で大陸を見ておきたい」と満州に出張し、「今のうちにアメリカを訪れたい」とも言います(事実、翌年に日米は開戦します)。英国人に貰った反物で洋服を仕立てるという福原を、聡子は「国民服令」が出たばかりに何を言っているとたしなめています。戦争が市民生活にまで及んできたわけです。大平洋戦争の暗雲が忍び寄る1940年、それが『スパイの妻』の舞台です。

 満州に出張した福原は女性を連れ帰り、懇意にしている有馬の温泉旅館に中居として匿います。実は、福原は、満州で関東軍・731部隊の人体実験を目撃し、実験に携わった医師の研究ノートを持ち帰り、看護師を伴って帰国します。有馬の旅館に匿った女性とは731部隊で人体実験に関わった看護師だったわけで、福原は、この機密をアメリカに流し日本軍部の暴走を止めようと考えます。女性は殺され、この事実を憲兵隊の津森から聞かされた聡子は福原を疑います。
 福原から真相を聞かされた聡子は選択を迫られることとなります。夫を思いとどまらせ平安な貿易商の妻となるか、夫の正義に加担し『スパイの妻』となるか、夫を官憲に告発するかの選択です。聡子は福原が撮影した人体実験の映像を観ていますから、731部隊の非道を知っているわけです。聡子の選択や如何に。
スパイの妻.jpg
 2020年の主題としてはかなりクラシックです。憲兵隊の津森が聡子を分隊に呼び出すシーンです。津森の後ろには「忠孝」と書かれた扁額が架かり、聡子はそれを正面から見る位置に座しています。津森は聡子に忠と孝の選択を迫り、聡子も国民としての忠と夫に従う孝の選択に迫られています。全編の80%を占める福原と聡子の物語、忠と孝の物語は、残りの20%のための長いプロローグです。この80%をどう観るかです。個人的には如何にもという感じで退屈でしたが、20%はサスペンス映画としてまぁまぁ面白いです。個人的な不満は、全員が標準語を喋ること。舞台が神戸ですから、ましてNHKですから、福原が横浜出身と逃げずここは神戸の山の手言葉を喋らせるべきだったのではと思いますw。
 
 戦後アメリカはいち早く731部隊の資料を押さえていますから、あるいは福原のような人物が存在したのかも知れません。福原がいたとすれば「スパイの妻」もまたいたはずです。
演出:黒沢清
出演:蒼井優、高橋一生、東出昌大

タグ:映画
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