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オールスン・ユッシ・エーズラ 特捜部Q-アサドの祈り- (2020 ハヤカワ・ミステリ) [日記 (2021)]

特捜部Q―アサドの祈り― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) q.jpg
 原題、offer2117=犠牲者2117、『特捜部Q』シリーズの最新作です。「アサドの祈り」と副題が付きますから、今回の主人公はアサド。本シリーズの魅力のひとつは、特捜部Qの主任マーク、捜査助手アサド、情報担当ローセの3人のコンビネーション。独善的で傍若無人なマークに対し、アサドは沈着冷静で謙虚。アサドは中東移民で正式な警察官ではない模様で、自分を語ることのない謎の人物。上司のマークを上手くコントロールして事件を解決します。ローセは、時々「自称」姉と人格が入れ替わる二重人格!。第8話にして、そのアサドの過去が明らかになりま。

 冒頭、キプロスの海岸で老女の水死体が発見され、写真が新聞に載ります。老女はシリア難民、ヨーロッパに逃れる途中ボートが沈んで溺死したと見られますが、実は刺殺されて海に投げ込まれた事実が判明します。この老女がOffer2117。この報道をしたのがスペインのジャーナリスト・ジュアン。この写真に激しく反応したのがアサドと「引きこもり」のゲーマー・アレクサンダ。老女はイラクから逃れたアサドを親身に世話したシリア人で、シリア難民を報じる新聞の写真には、16年前に別れたアサドの妻と娘とイラクのテロリストが写っていたのです。第二の母とも慕うシリア老女と消息不明の妻と娘、仇ともいうべきテロリストの写真を見てアサドの心はアワ立ち、マークとローセの過去を語りだします。

 『特捜部Q-アサドの祈り-』は、①老女の殺された現在と②16年前のアサドの過去が交差し、③老女殺人犯を追うジャーナリスト・ジュアン、④老女を殺害したテロリスト、⑤老女の運命に反応したゲーマー、⑥事件を追うマーク、アサド、ローセ、と時間と主体が重奏するサスペンスです。

 アサドは、イラク生まれの本名ザイード・アル=アサディ。1歳の頃混迷するイラクを出てシリア経由でデンマークに辿り着き、知遇を得て特殊部隊(猟兵隊)の兵士となり、イラク人の妻と二人の娘の父親となります。16年前、特殊任務でイラクに潜入して捕まり、看守を殺害して脱走を図ります。アサドを恨む看守のひとりガリーブ(本書の敵役)はテロリストとなり、アサドの妻と妻と娘を拉致しアサドを誘き出して復讐を企てます。本書のメインプロット「アサドvs.テロリスト」の構図が成立します。
 ジャーナリスト・ジュアンの撮った写真に妻と娘が写っていたことで、アサドは家族の生存を知ります。アサドは、マークの応援を得てガリーブがテロを企てるフランクフルトへ妻と娘の救出に向かいます。

 『特捜部Q』シリーズの特徴は、プロットに「時代」を巧みに取り入れることにあります。本書では、難民問題と「引きこもり」。アレクサンダは自宅に引きこもってひたすらゲーマに興じ、ゲームのレベルが”2117”に達すると両親の首を刎ね無差別殺人をたくらむ「引きこもり」。

「強制されたわけじゃないのに自らを監禁状態におく日本の若者の話を聞いたことがある。ローセ、正確には何んていうのか思い出せるか?」
「ええ、”ヒキコモリ”ですね」

「引きこもり」がこれほど有名?だとは知りませんでしたw。

 アサドの家族救出、ガリーブのテロ、ガリーブに拉致されたジャーナリスト、引きこもりのアレクサンダ、と4つのプロットと視点で物語は動きます。

 『特捜部Q』は、『檻の中の女』『キジ殺し』『Pからのメッセージ』『カルテ番号64』が映画化されています。アサドを演じるのが『ゼロ・ダーク・サーティ』『チャイルド44』ファレス・ファレス。第8巻でアサドがヒーローになりますから、第9巻のヒロインはローセでしょうね。楽しみです。

1.檻の中の女、2.キジ殺し、3.Pからのメッセージ、4.カルテ番号64、5.知りすぎたマルコ、6.吊された少女、7.自撮りする女たち、8.アサドの祈り

タグ:読書
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