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映画 軍中楽園(2014台湾) [日記 (2020)]

軍中楽園 [DVD]  台湾の金門島にある「慰安所」を舞台にした映画です。金門島は中国本土からわずか2kmの距離、国民党が台湾に移ってから中華民国がこの島を領土としています。中華人民共和国は1958年に金門島に侵攻しますが失敗、映画の1969年時点では緊張関係が続いています。そんな金門島に慰安所があった、しかも1969年に、という話です。

 徴兵で中華民国軍に入った小宝(阮経天)は、金門島に配属され特殊部隊に選抜されます。ところが泳げないことがバレて、教官の老張(陳建斌)に831部隊に飛ばされます。831部隊とは、軍に付属する「特約茶店」=慰安所を管理する部隊で、慰安婦を含む総称かもしれません。慰安所は1950年代から1974年まで実在したようです。金門島は戦地ですが、街もあるわけで、娼館は普通民営のはずですが、軍が慰安婦を抱えていたことはあるいは日本軍の影響かも知れません。慰安所は世界中の軍隊にあったようですが、1969年には珍しい存在。
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 特約茶店               娼婦、妮妮
 慰安婦の物語りですが、決して「慰安婦問題」ではなく、兵士と性の問題でもなく、娼館を舞台にした男と女の物語です。大陸からの侵攻から10年が経って敵の砲撃も演習の域を出ず、金門島の軍隊も平時の軍隊で慰安所は盛況。小宝は、慰安所を訪れる兵士たちに「娯楽券」を売り、慰安所の監理点検から慰安婦たちの諍いの仲裁と、娼館を切り盛りします。男と女の集まる場所ですから、当然ドラマがあります。

華興と莎莎
 小宝の同僚、華興と娼婦莎莎。補給部隊に配属された華興は、劣悪な環境とイジメめから、莎莎と大陸に逃亡します。莎莎の頭を丸刈りにし、兵士の服を着せて慰安所から連れ出し、ふたりで大陸に泳ぎ出します。

老張と阿嬌
 小宝の元上司の老張と娼婦阿嬌。老張は、若い頃に国民党軍に拉致され台湾に連れて来られた兵士。所謂外省人で、家族は大陸にいます。中年になり、慰安婦の阿嬌(陳意涵)の馴染みとなって結婚を決意。結納金を持参しプロポーズしますが、阿嬌は「朝起きて夫の顔を見て、自分が娼婦であったことを思い出す生活は出来ない」と言います。思い余った老張は阿嬌を殺してしまいます。慰安所から抜け出し結婚を夢見た娼婦と、家族を失った中年男の末路です。

小宝と妮妮
 小宝と娼婦妮妮(ニーニー)。小宝は電灯を修理したことで妮妮(万茜)と親しくなります。小宝は何処か影のある妮妮と彼女の歌う「帰らざる河」に惹かれます。妮妮は小宝にギターを教え、ふたりは急速に近づきます。妮妮の歌う「帰らざる河」のリフレイン”no return”は『軍中楽園』のバックグラウンドです。
 やがて妮妮の過去が明らかになります。彼女はDVのすえ夫を殺し、特約茶店で働けば減刑されると言われ慰安所に流れてきたのでした。小宝は、娼婦達を街に連れ出した際、妮妮がひとり抜け出して電話をかける姿を目撃します。小宝に問われて、ひとり息子に電話していたこと、早く刑期を終えてに帰らないと息子は母親の顔を忘れてしまう、と答えます。

 ふたりは男と女として関係を結ぶわけですが、小宝は寸前に「初めての相手は...」と言って身を引きます。ここまで、映画は小宝と妮妮の物語として進行してきました。DVから夫を殺し子供のために慰安所に来たというヒロインに相応しい過去を用意し、”月下美人”を見るため深夜に慰安所を抜け出し、夜の街を手に手を取って走る幻想的なシーンまであります。クライマックスで「初めての相手に娼婦は嫌だ」とはどういうことなんでしょうか。ストーリー上、妮妮をひとりの娼婦として突き放すことは有りえません。娼婦ではなくひとりの女性として妮妮を抱きたいという小宝の切ない想いなんでしょう?。妮妮は恩赦となり、小宝にギターと腕時計を残して慰安所を去ります。

 小宝は、妮妮出す当てのない手紙を書きます、「もし人生をやり直せて、別の選択をしていたら、すべては違っていたのか。よく君を思い出す...また会えるかは分からないけど、君に会いたい」と。
 小宝もまた除隊となって娼婦たちに見送られて慰安所を去ります。小宝は出す当ての無い手紙を出したのかも知れません。

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 幕が下りた後、3組のカップルの「あり得たかも知れない」写真が登場します。小宝と妮妮と子供が幸せそうに写る写真、小宝と妮妮は再会し結婚したのかもしれない。大陸に渡った華興と莎莎が天安門で並んで写る写真、無事大陸に泳ぎ着きふたりで暮らしているのかもしれない。3枚目は、餃子店を営む老張と子供を抱く阿嬌。阿嬌は亡くなっていますから、これはあり得ませんが、退役して餃子店を開くのが老張の夢でした。いずれも、娼婦と彼女を愛した男たちのあり得たかも知れない世界です。台湾と日本、共通するものがあるようです。

 台湾映画は『セデック・バレ』に続いて2本目、けっこう面白いです。

監督:鈕承澤
出演:阮経天、万茜、陳建斌、陳意涵

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