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映画 あるメイドの密かな欲望(2015仏ベルギー) [日記 (2021)]

あるメイドの密かな欲望 [レンタル落ち]  原題:Journal d'une femme de chambre=小間使いの日記。フランスの小説家オクターヴ・ミルボーの『小間使いの日記』(1900)を原作とした映画です。ジャン・ルノワール監督やジャンヌ・モロー主演で過去3度映画化された有名な小説らしいです。田舎出の若い女性が小間使として上流家庭に入り、その実態を暴き、下層階級の小間使いも自ら堕ちる様を描いています。さしずめ「家政婦は見た!」+αの様な映画です。エミール・ゾラなどのフランス自然主義だと思えば、起承転結のないこの映画もなんとなく納得します。『あるメイドの密かな欲望』というタイトルはなかなか扇情的w。

 起承転結が無いので感想の書きようがありません。冒頭、主人公セレスティーヌ(レア・セドゥ)が派手な服装で小間使紹介所みたいなところに現れます。紹介所で住み込み先を紹介して貰うわけですが、セレスティーヌは遠くへ行くのは嫌だ、好色な主人いるところは嫌だと文句タラタラで、アンタ性格悪いよとたしなめられています。この物怖じしないところがセレスティーヌの魅力。

 パリから離れた田舎町のランレール家に住み込み先が決まります。マダムは人使いが荒くムッシュウは好色で小間使いを何人も孕ませ、ランレール家では小間使いは長くは続かないと近所では有名。さっそく主人はセクハラを仕掛け、ルイ王朝の絵皿や銀食を偏愛する俗物マダムは小言ばかり。ランレール家の使用人は庭師のジョゼフと料理女、セレスティーヌの3人。このジョゼフがクセ者で、ドレフェス事件の新聞やパンフレットを後生大事に仕舞い込むゴリゴリの反ユダヤ主義者。ドレフェス事件など日本の観客には無縁ですが、フランスでは19世紀末の時代背景として重要なんでしょう。料理女は主人に妊娠させられ、近所の森で起こった少女惨殺事件はジョゼフの仕業らしい。ジョゼフはセレスティーヌに結婚を持ちかけます。故郷のシェルブールで居酒屋兼娼館をやろう、オマエのような美人が「商売」をすれば繁盛すると。ジョゼフは妻に稼がせようという魂胆です。
 これにはウラがあり、セレスティーヌは以前小間使いとして働いていた家で、結婚をエサに病人の青年に誘惑され腹上死させるいう過去があります。本人曰く、その後しばらく「路上の女」をしていたらしい。またパリで娼館の女主人から声をかけられ、「そんな女ではない」と言うセレスティーヌに女主人はいいます、「見れば分かる」と。セレスティーヌがそうなのか、19世紀末とい時代がそうなのか、フローベールが『ボヴァリー夫人』で描いたように?人は性と分かちがたく結び付いているようです。

 で、セレスティーヌは、ジョゼフの申し出をあっさり受け、馬車でシェルブールに向かうシーンでFin。エッこれで終わりというあっけなさ。起承転結どころか、好色な主人と人使い荒いマダム、主人に妊娠させられる料理女と妻を娼婦にしようという男と腹上死する病人が登場するだけで、ストーリーらしいストーリーもありません。小間使いの日常と生きざまをブッチャケて見せるところが「自然主義」なのかどうか。
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 特筆すべきは映像の美しさとレア・セドゥの魅力。印象派かフェルメールの絵画を思わせるような光に満ちた映像が各所に挿入され、視覚的には飽きません。レア・セドゥのファン以外にはあまりオススメできませんが。
監督:ブノワ・ジャコー
出演:レア・セドゥ

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映画 家に帰ろう(201スペイン・アルゼンチン) [日記 (2021)]

家へ帰ろう [DVD]
 原題”El último traje”=最後のスーツ。出だしが秀逸。アブラハム(ミゲル・アンヘル・ソラ)は、家族が集まった機会に一緒に写真を撮ろうと孫達を呼びます。ところが、そんな恥ずかしいことは嫌だ!と拒否し、iPhone買ってくれれば写真に入るという女の子が現れます。それはいくらするのだ、1000ドルよ、400ではどうだ、イヤ、500、600と競り上がり800ドルで手打ちとなります。1000ドル出すつもりだった、お前は200ドル損をしたと言うアブラハムに孫は、iPhoneは実は600ドル、200ドル儲けた!。孫にしてやられた爺さんのエピソードで、観客はたちまち映画の世界に...上手い!、おまけに伏線にもなってます。

 ブエノスアイレスに住む88歳の仕立屋アブラハムは、子供達から財産分与と老人ホームへの入所を迫られます。老い先短いことを悟ったアブラハムは、最後に仕立てたスーツをポーランドの友人届けることを決心します。基本、アブラハム老人がアルゼンチンからポーランドを目指すロードムービーで、何故ポーランドなのか?、これが映画のテーマです。

 アブラハムは一番早い飛行機でマドリッドを目指します。マドリッドからポーランドまで鉄道でフランス→ドイツ→ワルシャワと移動しようというわけです。88歳の爺さんのひとり旅ですから周りが放っておかず手を差しのべ、ロードムービーに人情が加わります。

マリア(アンヘラ・モリーナ)
 アブラハムが泊まったホテルの老女主人。老人同士で意気投合し、夜のマドリッドをほっつき歩き老春を楽しみます。ホテルに泥棒が入りアブラハムは有り金を盗まれます。これではポーランドへ行けない。ちょっとご都合主義ですが、マドリッドに娘のひとりが住んでいるのです。ところが、喧嘩別れしたので助力を頼めないというのです。喧嘩の原因は冒頭のエピソードと同じ。財産を分与するからひとつだけ頼みがある。一人づつ短い言葉で俺を愛する言葉を言え。で娘は言います、そんな恥ずかしいことは出来ない! →勘当だ出て行け!と喧嘩別れになったようです。孫といい娘といい、これはアブラハムの遺伝でしょうね。そんなつまらない事で娘を勘当し、異国で無一文となっても娘に頼らない痩せ我慢は。アブラハムはマリアに諭され娘と和解、お金を借り列車に乗ります。

イングリッド(ユリア・ベアホルト)
 パリで列車を乗り換えます。アブラハムは、「ドイツを通らずにポーランドに行きたい」「そんなことは無理!」と案内係とモメ、これを聞いていたイングリッドが手を差しのべます。アブラハムとイングリッドの共通語がイーディッシュ語(ユダヤ語)。アルゼンチン在住のユダヤ人がポーランドの旧友を訪ねる、しかもドイツの地には足を踏み入れたくない。これで映画の展開が読めます。イングリッドがドイツ人の人類学者だと名のると、アブラハムの顔がこわばります。ナチスのユダヤ人迫害とアブラハムと件の友人との関係が、回想として挟まれますから分かりやすいです。
 「ドイツの地を踏みたくない」というアブラハムの要望に、イングリッドは奇策を用いますが、観てのお楽しみ。

ゴーシャ(オルガ・ボウォンジ)
 アブラハムは列車の中で人事不省に陥り、看護師のゴーシャに助けられワルシャワで入院します。ゴーシャは、アブラハムの最終目的地、ワルシャワから100余kmにあるウッチ迄車で送ります。アブラハムは旧友に会えたのか?
 ナチスのユダヤ人迫害とユダヤ人をナチスから護ったポーランド人の友情の物語、それに老いを重ね、ロードムービーに仕立てた映画です。何のヒネリもない直球のストーリーがやや物足りないです。アブラハムは、娘や孫に愛情を強要します。これは、ポーランドからアルゼンチンに渡り、仕立ての腕一本で妻子を養い一家を支えたアブラハムの誇りなのでしょう(誰も褒めてくれない不満もあります)。ポーランドを発つ時に、助けてくれた友人から託された服の型紙で、それが彼の唯一の財産だったと思われますが、服を仕立て友人に届けることが、今こうして生きているという人生の確認だったわけです。父親やお爺ちゃんの人生を知らない娘と孫は、「そんな恥ずかしいことは出来ないと」言うわけですが、逆説的にそれはアブラハムの人生の証明でもあるわけです。
 マリアは奥さんの代わりとして、イングリッドは娘として、ゴーシャは孫としてアブラハムの旅を助けたと考えると、辻褄が合ってきます。原題は「最後のスーツ」、邦題の『家に帰ろう』の方がぴったりきます。

監督:パブロ・ソラルス
出演:ミゲル・アンヘル・ソラ、アンヘラ・モリーナ

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中川健一 全国2954峠を歩く(2018内外出版社) [日記 (2021)]

全国2954峠を歩く
 健康のためにウォーキングというか、散歩をしています。黙々と歩くのもつまらないので、音楽を聴くかラジオを聴きながらと云うことになります。土曜日の散歩は、必ずNHK R1の「石丸謙二郎の山カフェ」を聴きながらです。この番組に峠研究家・中川健一さんがご出演され、峠に関する蘊蓄を語っておられました、面白かったです。著書があるというので早速借りてきたのが本書。目次は、



峠っておもしろい!
峠の楽しみ方ー奥深い峠の魅力
効率よくまわるために乗り物に工夫を重ねた
厳選峠!33の物語
絶対行きたい峠120
僕がまわった峠リスト2801

 著者の中川さんは、早期退職?して後峠三昧。日本の峠全3,773の峠のうち、驚くことに3,000を超える峠を踏破されたようです。山の頂ではなく何故峠かと思うのですが、著者によると「峠は歴史を感じさせるタイムカプセル」で、昔から人々が往還した歴史が詰まった道だと言います。寺や神社にお参りする信仰の峠、例えば若狭小浜から京都に鯖を運ぶ物流の峠、参勤交代の行列が通り、脱藩の勤王の志士が通った峠だったりします。峠には番屋や茶屋があり、道標や石地蔵、道祖神があったりします。そう考えると峠巡りというのもアリです。

 私の住んでいる近くには西国三十三所の4番札所の槇尾山・施福寺があり、何本もある参詣道には沢山の丁石が並び峠があります。「絶対行きたい峠120」には七越峠が取り上げられています。七越峠は和歌山県かつらぎ町と大阪府和泉市のを隔てる峠で、高野山や西国観音霊場に参詣する旅人のために、江戸時代から昭和初期まであったようです。西行の歌碑もあります。
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 七越峠茶所跡の碑           左奥、西行の歌碑
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 「天誅組」も通った 千早峠
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三十丁石(千本杉峠)
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 槇尾山登山道にある超ローカルな「番屋峠」「ボテ峠」、当然本書には載っていませんw。

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村井章介 中世倭人伝 (1) (1993岩波新書) [日記 (2021)]

中世倭人伝 (岩波新書)境界.jpg
マージナル(境界)
 李氏朝鮮の公式記録『朝鮮王朝実録』に登場する、「倭人」「倭賊」「倭奴」「倭」などと呼ばれる人々の話です。「倭」ですから日本、日本人のことです。「倭」とは「魏志倭人伝」だけの世界ではなく14世紀~16世紀の朝鮮半島南部、対馬・壱岐、済州島、西北九州、中国江南の沿海地方などをふくむ海域での日本のアイコンだった様です。教科書で習う「倭寇」です。

「倭志」「倭人」「倭語」「医服」などというばあいの「倭」は、けっして「日本」と等置できる語ではない。民族的には朝鮮人であっても、倭寇によって対馬などに連行され、ある期間をそこでくらし、通交者として朝鮮に渡った人は、倭人とよばれている。海賊の標識とされた
衣服・倭語は、この海域に生きる人々の共通のいでたち、共通の言語であって、「日本」の服装や言語とまったくおなじではなかった。こうした人間集団のなかに、民族的な意味での日本人、朝鮮人、中国人がみずからを投じた(あるいはむりやり引きこまれた)とき、かれらが身におびる特徴は、なかば日本、なかば朝鮮、なかば中国といったあいまいな(マージナルな)ものとなる。こうした境界性をおびた人間類型<マージナル・マン>とよぶ。

  「日朝関係史」「日中関係史」などは、ふたつの国家が結ぶ関係を軸として研究されます。つまり国家という<点>と<点>とをつなぐ<線>として認識されてきたわけです。本書はそうした「点と線」から踏み込んで、倭寇が跋扈した14世紀~16世紀の朝鮮半島~対馬・壱岐~、西北九州~中国江南の沿海地方の海域をいずれの国にも属さないマージナル<面><場>として捉えます。その場で、国境や民族を超えて存在した倭寇と言われる一群の人々の話です。倭寇とは倭人でもなく朝鮮人でも中国人でもない、国家、民族からはみ出た疎外されたマージナル・マンとして捉えます。

倭寇
 倭寇は、フンドシ一丁刀をかついで東シナ海を荒らし回り、明の滅亡を早めたともいわれる「海賊」アウトローです。倭寇は13世紀始めに文献に登場しますが、14~15世紀に倭寇の被害が拡大するのは、元(モンゴル帝国)滅亡(1368)、高麗滅亡(1393=李朝成立)など東アジアの政情不安が影響していると考えられます。日本も鎌倉幕府(1333滅亡)→南北朝→室町幕府(1338成立)という政治の混乱期で、海賊を取り締まる余裕などなかった時代です。その権力の空白に乗じるようにアウトロー達が徒党を組んだ、それが倭寇です。

 倭寇は、多数の船と騎兵を擁する「倭寇集団」を組み、それらが各地を寇掠してゆくという状況だったようです。その活動回数が最も多かった1377年は、咸鏡道と江原道をのぞく朝鮮半島の全地域が被害にあい、高麗の首都開京まで迫っています。『朝鮮王朝実録』には、1379年に騎馬七百・歩兵二千という大規模な倭寇が、慶尚南道の晋州を襲った記録が記されています。騎馬七百・歩兵二千はもはや賊を超えた軍団です。
 倭寇の略奪は米や財物だけではなく人にも及び、1429年に日本を訪れた朝鮮通信使は、船で瀬戸内海を通過したとき、港に寄るごとに、枷や鎖でつながれた半島から拐われ人々が奴婢として使役されている様子を報告しています。相当多数の朝鮮人が倭寇によって日本に連行され、奴隷として使役され遠い国に転売されていたと言います。
 倭の暴虐ここ極まるというものですが、実はそう単純な話ではなかったようです。(続きます

*** 『中世倭人伝』目次 ***
「魏志倭人伝」によるプロローグ 
Ⅰ 国境をまたぐ地域 1)倭寇と朝鮮 2)地域をつくるもの 3)境界と国家
Ⅱ「三浦」―異国のなかの中世 1)都市「三浦」の形成 2)周辺地域への影響 3)三浦の乱
Ⅲ 密貿易の構造 1)三浦の乱後の「日本国使臣」 2)倭物にむらがる人々 3)〈環シナ海地域〉の成熟
中華の崩壊によるエピローグ

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映画 さらば愛しきアウトロー(2018米) [日記 (2021)]

さらば愛しきアウトロー [レンタル落ち]  原題はThe Old Man & the Gun。実在の銀行強盗フォレスト・タッカーを描いたクライムムービーです。タッカーは、15歳の頃車の窃盗を皮切りに84歳で亡くなる2004年まで投獄と18回の脱獄を繰り返したという伝説の犯罪者。その間(映画によると)一発の銃弾も撃たず誰一人傷つけなかったという異色の犯罪者です。

 タッカーを演じるのは80歳のロバート・レッドフォード。ダニー・グローヴァー、ティカ・サンプター、トム・ウェイツ、シシー・スペイセクらベテランが脇を固める、老人映画です。
 タッカー(ロバート・レッドフォード)は銀行の窓口に鞄を置き、拳銃を見せながら

僕は銀行強盗だ、バッグに金を入れろ。バカなマネはするなよ
君を傷つけたくない君が好きだから

 とか何とか言って金を奪う銀行強盗。窓口の女の子や支店長は、「犯人は優しかった」「紳士だった」などと言う始末。鞄1個ですから大した金額ではありませんが、オクラホマ、ミズリー、アーカンソー、テキサスなど、2年間で93件荒稼ぎ。タッカーが奪い、ダニー・グローヴァー とトム・ウェイツが見張りをし逃亡を助けるという3人組の老銀行ギャングで、世間では「黄昏ギャング」と呼ばれています。

 1981年テキサス州州ダラス、この老人ギャングの犯行に、刑事ジョン(ケイシー・アフレック)がたまたまた出くわします。出くわしたことで、ジョンは黄昏ギャングの捜査担当となります。子連れで客として銀行に行ったのです。ジョンは、(ケイシー・アフレックの)何時ものやる気のない口調、覆面パトカーの無線を子供に使わせたり、奥さんとの会話から刑事を辞めたがっていることが伺われる、ユルイ刑事。捜査を進める間にタッカーに親近感を抱く始末。

 タッカーは、逃げる途中でジュエル(シシー・スペイセク)に出会います。タッカーは「僕の職業は銀行強盗だ」、ジュエルは「主人が亡くなったのでひとりで小さな牧場をやっている」とかでたちまち意気投合、老いらくの恋となります。

 刑事を辞めたいジョンが「黄昏ギャング」を捜査し、老ギャングの老いらくの恋が進行します。派手な銃撃戦もカーチェイスも情熱的な抱擁も無く(少しはある)、凝ったプロットも劇的な展開も、深刻な人間ドラマもありません。すべてがゆったりと流れ、歳をとるということはこう云うことなんだ、という映画です。で、退屈かというとそうでもなく、俳優の演技に支えられたこう云うドラマも有りです。

監督:デヴィッド・ロウリ
出演:ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、ダニー・グローヴァー、トム・ウェイツ、シシー・スペイセク

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映画 ザ・ハント(2020米) [日記 (2021)]

ザ・ハント [DVD]  原題、The Hunt=狩り。リベラルな富裕層が保守派庶民を拉致して「狩る」という、狩る側ではなく狩られる側から描いたサバイバル映画です。
 トランプが人種差別的だ、分断を助長すると非難し(アンタがよく云うよ!)、銃撃事件が相次いだため一時お蔵入りとなっていた曰く付きの映画です。トランプが非難するぐらいですから、人種差別というより痛いところを突かれたんでしょう。トランプの嫌いな映画は好きになれそう、その辺りを重点的に観てみました(笑。

 12人の男女は、目覚めると猿ぐつわを噛まされて草原にいる自分を発見します。草原の真ん中に木箱があり中には大量の銃器(と子豚 →これも何かの象徴なんでしょう)、まもなく銃撃戦が始まります。ひとりまた一人と殺されます。登場人物も観客も、ここは何処?何故誘拐された?撃ってくるのは誰?と謎だらけ →この手の設定はありましたね、『メイズ・ランナー』とか。

 3人が森を抜けてガソリンスタンドに助けを求め、ここがアーカンソー州だと分かります。3人はNY州スタテン島、ワイオミング、オーランド(フロリダ州)から拉致されたと言ってます。いずれも共和党の強い地域です。NY州の男は、オレは自宅に銃を7丁の持っている銃の所持は憲法で保証されていると言ってますから、全米ライフル協会の支持者かも。拉致された12人はいずれもトランプ支持?。この間、店のTVは地球温暖化はフェイクだというニュースを流す芸の細かさ。
 3人は、拉致者「ハンター」側のガソリンスタンドの店主夫婦に殺され、いよいよヒロイン・クリスタル(ベティ・ギルピン)の登場となります。ちなみに彼女は「スノーボール」とハンターから呼ばれています。クリスタルは店の主人がハンターであることを見抜き、有無を言わさず射殺。兵士としてアフガンに派遣されていたとかでめっぽう強い。

 クリスタルと生き残った男は貨物列車に乗り込みます。列車に潜んでいたのは不法移民で着いた先は移民キャンプ。遠くに「壁」が写り込んでいますw。男は、不法移民も移民キャンプもヤラセでこれは陰謀だ!とキレ、クリスタルはここはクロアチアだと推理します。このシークエンスで、不法移民と陰謀論のアイコンが示され、クリスタルはミズーリ州から拉致されたことが明かされます(ミズーリ州も共和党)。

 ここで話は1年前に戻り「人間狩り」の背景が明かされます。巨大企業の経営幹部たちが冗談で「人間狩り」をメールで話題にします。これを知った誰かがSNSで拡散させ「年に一度リベラル・エリートが我々みたいな庶民を誘拐、バーモント州の館で人間狩りを楽しんでいる」という陰謀論(Qアノンみたいな?)に発展し、そのため、企業のCEOアシーナ(ヒラリー・スワンク)は辞職やむ無しに至ります。ヒラリー・スワンクは冒頭から正体を明かさず思わせぶりに登場する反保守のアイコンです。アシーナは、陰謀論を拡散させた中から12人を選んでアーカンソーかクロアチアに誘拐し、コイツラが拡散した陰謀論、人間狩り実際にやってみせたわけです。ラストは保守のアイコン・クリスタルとアシーナの対決となりますが、勝ったのはどっち?。

 アクション映画ですが、つまるところはトランプ元大統領とその支持者VS.トランプに対抗したリベラル層を皮肉ったパロディー。最後はクリスタルが勝つのですが、クリスタルが語る「ウサギとカメの寓話」のヒネリがありますから、全てはパロディーであり風刺。ウサギとカメが競争して最後には地道なカメが勝つのですが後日譚があり、カメの自宅を訪れたウサギはカメ一家を惨殺、結局強い奴が勝つのだという反御伽話。クリスタルのコードネーム「スノーボール」とはジョージ・オーウェル『動物農場』の主人公だそうです。同様の反トランプ映画には『犬ヶ島』がありこっちも楽しめます。

 アクション映画として十分に楽しめますが、映画にある風刺探しで二倍楽しめます。監督は『死の谷間』のクレイグ・ゾベル。

監督:クレイグ・ゾベル
出演:ベティ・ギルピン、ラリー・スワンク

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映画 ラストディール(2018フィンランド) [日記 (2021)]

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像 [DVD]  原題はOne Last Deale(最後の大勝負)、フィンランド映画は当blog初見参。サブタイトルの「美術商と名前を失くした肖像」は、ジョゼッペ・トルナトーレの『鑑定士と顔のない依頼人』のパクリ。正確にいうと、「署名のない肖像画」ですが、原題の方が映画の内容を的確に表しています。
 
 ヘルシンキで小さな画廊を営むオラヴィはオークションで落札した絵の支払いもままならない貧乏画商。孫のオットーからはガラクタばかり集めていると揶揄される始末。オラヴィはオークションの下見会である肖像画に強く惹かれます。署名がないため制作者は不明、制作者不明の絵画はオークションでも安値取引されます。同業者はフィンランド絵画黄金期の作だがそれほどの価値はないと言い、オラヴィはロシア・ロマノフ朝の画ではないかと推理します。ロシアの著名な画家の作品であれば10万ユーロを下るまい、オラヴィは制作者を突き止め、この絵を落札して画商としての最後の花道を飾りたいと考えます。オークション、これがテーマ1
 
 オラヴィの孫オットーが画廊に現れます。最初は孫と気付かないあたりからオットーの家庭環境が見て取れます。オットーは絵画に魅せられる余り家族を省みず、子供や孫にも見捨てられたようです。
 オラヴィの娘が息子の職業訓練を依頼し、オットーが現れたわけです。職業訓練とは高校生が店や工場で職業を体験し、雇用主はそれを採点するという教育課程のようです。素行の悪いオットーは訓練先が見つからず、娘はオラヴィに頼んだのです。孫、これがテーマ2
 
 老人と孫は件の肖像画の制作者を探を始め、オットーは、10万ユーロで絵が売れればボーナスが入る!と皮算用。画廊で、オットーは絵をそつなく売り商売の才能を見せ、オラヴィは孫に画商の教育を始めます。夕日をバックに老人と子供が描かれた絵を前に、
 
腰の曲がった老人と手をつないでいる幼子、命を歩んできたものと歩みゆく者だ。人生を全うした者にしか描けない
オークションなら20万になる
 
オラヴィとオットーの姿そのままで、疎遠だった二人に次第に絆が生まれ始めます。

 オークションまであと日、二人は、図書館で画集や展示会のカタログ・目録を片っ端から調べ、「イリヤ・レーピン展」のカタログから肖像画はキリストを描いたレーピンの絵であることを突き止めます。写真が無いとレーピンの絵であることが証明できない!。オットーはnet検索でその絵がある人物から展示会に貸し出されたことを突き止め、その人物を老人ホームに訪ねます。親戚だと偽って部屋に入り、写真の載った本を見つけ出します。この辺りは謎解きのサスペンスでけっこう面白い。
 オークションが始まり、レーピンの絵は1300ユーロから1500、3000、5000と値が付き、ついに9000ユーロ。オークションのスリルは「ヤフオク」と同じですね(笑。オラヴィは10,000ユーロで競り落とします。ここからが大変、1週間以内に入金しないと流れてしまいますが金が無い。友人に借金を申し込み、銀行、娘に融資を断られ、ついに孫の貯金にまで手を付け、「貯金して金持ちになる者はいない、なれるのは投資した者だけだ」とか何とか言って4000ユーロ!。この金はオットーの学資として母親がコツコツと貯めていたもの。娘は、離婚して女手ひとつで息子を育ててきた、アンタは孫と娘に何ひとつしなかった!とオラヴィを手酷く詰ります。絵のために孫の学費に手を付けるアンタが悪い!。レーピンの絵はコレクターに12万ユーロの値が付き、ここからテーマ3「命を歩んできたものと歩みゆく者」の物語が始まります…。
 
 仕事というか趣味にウツツをぬかす爺さんと、放っぽり出された娘と孫の話です。そんな話が映画になるのか?、これがなるんです。オススメというほどではないですが佳作です。
 北欧の映画というとイングマール・ベルイマン(スェーデン)が思い浮かびますが、『特捜部Qシリーズ』『ボーダー 二つの世界』『幸せなひとりぼっち』『パペットの晩餐会』『やかまし村の子どもたち』『THE GUILTY/ギルティ』などなど多彩です。
 
監督:クラウス・ハロ 
出演:ヘイッキ・ノウシアイネン、ピルヨ・ロンカ、アモス・ブロテルス

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絵日記 夏休み自由研究 [日記 (2021)]

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 夏休みの「自由研究」を手伝ってくれと頼まれました。テーマは「24時間TVのCMの研究」だそうです。8月21日、22日の「24時間TV」を録画し、番組に現れるCMの商品名(会社名)とCM時間(15秒か30秒だそうです)を書き抜き、それをパソコンで清書して欲しいという依頼。ついでに会社、商品別、洗剤や食品毎に分けて時間を集計して欲しい。中1の女の子なんですが、何処からこういう発想が生まれるのか?。いいよ、Excelのオートフィルタ使えば簡単だと引き受けたのですが...。なんとCMは600本近くあり、普段TVを観ないので「竜とそばかす姫」や「Cygame」は何?。Excelに打ち込みながらnet検索→カテゴリー、やたら時間がかかります。本人は、600本の書き抜きだけで朝の4時までかかったらしい(二度とやりたくないと言ってました)w。丸投げして淡路島の別荘に遊びに…。

 で、データ整理すると、
①CM合計は、593本で11595秒で24時間の13.4%、約3時間に当たる。24時間TVを見ているようで、13%の3時間はCMを見ている(見さされていること)になる。

②15秒が422本、30秒が168本、60秒が3本。71%が15秒CM
 →30秒のCMには、車や洗剤などの生活雑貨が多い、比較的大手の会社が多い

③会社別には、ニッサンが29本(840秒)、花王24本(420秒)、イオン18本(315秒)がベスト3

④カテゴリーでは、サービス139本(2565秒)、生活雑貨68本(1275秒)、車65本(1500秒)がベスト3
 薬品が54本(885秒)がこれに次いで多い

⑤サービスは、ACジャパン、オリンピックなどのなど公共性のあるものから、アルバイトのインディード、コミックシーモア、レンタ、フードパンダなどネットを使ったサービスなど色々。特にネットサービスが多い。

⑥VISAカード、PayPayなどは金融(20本、405秒)、かんぽ生命、JA共済などの保険(20本、495秒)も多い・・・などなど。

本人の結論 →24時間のうち3時間CMを見せられるのはバカらしい!。

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鈴置高史 米韓同盟消滅 (2018新潮新書) [日記 (2021)]

米韓同盟消滅 (新潮新書)
 米軍がアフガンを見限って撤退し、タリバンが全土を掌握しました。アメリカの外交が中東 からインド大平洋地域へ移ったことを象徴する事件だと思われます。アメリカの撤退とともに中国はタリバンと手を結び、アフガンに影響力を及ぼそうと企てています。中国は、タリバンとウィグル自治区のイスラム教徒が手を結ぶことを恐れているのかも知れませんが。
 バイデン大統領は否定していますが、アメリカが同盟国を切り捨てることが朝鮮半島でも起こる可能性があります。韓国は「親中従北」の文在寅大統領ですから、在韓米軍の撤退もあり得るということです。文在寅政権が望むように駐韓米軍が韓国から撤退すれば、朝鮮半島はどうなるのか、日本の安全保障は?を考えるには参考になります。

 この本の目的は米韓同盟が消滅しかかっているとを日本人に知らせることにある。米国の後ろ盾を失えば、韓国は表向きは中立を唱えるだろうが、実質的には中国の勢力圏に入る可能性が高い。朝鮮半島は日清戦争以前の状態に戻り、百数十年ぶりに日本は大陸と直接向き合うことになる。

第1章   離婚する米韓
第2章  「外交自爆」は朴槿恵政権から始まった
第3章   中二病にかかった韓国人
第4章  「妄想外交」は止まらない
 第1章では(本書執筆当時の)2018年当時の「同盟消滅」に向かう米韓の政治状況を分析し、第2章では歴代朝鮮王朝が中国に服従してきた歴史とそこから生まれた韓国人の歴史観・世界観を、第3章では現代の韓国の政治と外交を中学二年生レベルの幼児性「中二病」だとしたうえで、第4章「妄想外交」は止まらない、という本です。
 
 朝鮮半島は、台湾同様に日本にとって安全保障の要です。米韓同盟が消滅し、文在寅が望むように南北朝鮮が統一され(それは赤化、所謂レッドチーム入りと中国の属国化を意味する)、対馬海峡を挟んで中国勢力と対峙することなれば、百数十年ぶりに日本は「大陸と直接向き合う」ことになります。
 好太王碑に記された高句麗との戦い、白村江における唐との戦い、近世の日清、日露戦争を考えると、大陸勢力と結んだ半島勢力の伸張は日本にとって脅威です。モンゴル帝国と高麗による2度が侵攻(元寇)もありました。韓国の竹島実効支配、中国の尖閣諸島進出を考えれば、日本の安全保障は危機にさらされていると言えます。対馬海峡を挟んで中国+統一朝鮮と向かい合うと考えると、背筋が寒くなります。韓国には対馬は韓国領という考えがあり、李承晩は竹島と共に対馬の領有権を主張した実績があります。
 韓国と台湾は(いずれも旧植民地ですが)、安全保障上日本の同盟国である必要があります。本書は、その日米韓の同盟が危機にあるという警告の書です。
 
 米韓同盟消滅は、2018年6月のトランプ大と金正恩のシンガポール会談から始まったと言います。共同声明では、1)朝鮮半島の恒久的平和、2)朝鮮半島の完全な非核化、3)北朝鮮は「板門店宣言」を再確認し「挑戦半島の完全な非核化」に取り組む旨が謳われます。CVID(完全で検証可能、不可逆的な非核化)が確認されれば、在圏米軍の撤収もあり得るという内容だそうです。駐韓米軍の経費を削減したいトランプと、経済制裁を解除したい金正恩の思惑が一致した会談だったようです。続く2019年2月のハノイ、6月板門店の会談があったものの成果は無し。おまけに2020年には開城市の南北共同連絡事務所が爆破され、米韓同盟は消滅しかかり南北統一は遠ざかっているようにも見えます。
 
 2)の「朝鮮半島の完全な非核化」というのがミソで、これは北朝鮮が核を放棄することと、米の「核の傘公約(有事の際には米は韓国を核によって護るという)」の破棄がセットとなっていることです(在韓米軍は戦術核を持っていない保証はない?)。北朝鮮が非核化に応じれば在韓米軍は撤退するかも知れない。文大統領は朝鮮戦争の終結宣言(現在は休戦)を言いだしていますから、朝鮮戦争が終結すれば、米軍が韓国に駐留する名分は無くなります。アフガン撤退で、アメリカは自由を護る世界の警察であることを辞め、自国の国益に従うと宣言したわけですから。
 
1)の「朝鮮半島の恒久的平和」は、著者によると「非核化の見返りにトランプ大統領は北朝鮮の安全を保証する」という意味だそうです。そこから「朝鮮半島は誰の核の傘に入るのか?」という問いが生まれます(「完全な非核化」と矛盾するようにも思いますが)。
 
核の傘.png
 
著者は、「シナリオⅢに応じるフリをしながらどこまでシナリオⅣににじり寄れるか、北朝鮮は試し続けることになる」と結論づけます。米中がそれを許すかどうかですが、北朝鮮がICBMの開発を放棄し、在韓米軍が撤退すれば、あり得ると言うのです。南北統一が悲願の文在寅大統領とっては願ったりでしょう。韓国は北の核を積むためにSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の搭載可能な潜水艦を就航させ、軽空母、原潜の建造計画を進めています。その核はさしずめ日本に向けられることになるでしょう。
 
 GDPで日本の1/3の韓国の防衛予算が5兆2000億円で日本とほぼ同じ。防衛費1%枠を取っ払い、インド大平洋地域と朝鮮半島の安全保障に備えよ、本書にそこまで書いていませんが...。

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