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現代史資料 1 スパイ・ゾルゲ  ドイツ大使館へ浸透 (1)  [日記 (2023)]

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 『現代史資料 1 』は、1942 43年(昭和17,18年)東京地検の検事(吉河光貞)がゾルゲを取り調べた訊問調書とゾルゲの手記から成り立っています。調書は、

問:被疑者が駐日独逸大使館に接近して同大使館関係者達から信任を得た経緯如何。
答:私が駐日独逸大使館に...

検事の問にゾルゲが答えると云う建て付けになっています。

大使館への浸透
 ゾルゲは、諜報団を組織し近衛内閣ブレーンの尾崎等から情報を得る一方、オット大使の私的顧問として大使館に一室を与えられるまでにドイツ大使館に食い込みます。諜報活動で得た情報の60%がドイツ大使館から得たものだったと告白しています。

同大使館に接近して信任を得る様になれば之と同時に日本人に対しても信用を増すこととなり、万一自分に疑惑が生じた様な場合でも同大使館が自分の為に防壁となって呉れるであろうと思ひましたので、今後私は日本で諜報活動を遂行して行く為には是非とも此の独大使館と緊密な接触を保って行かねばならぬと云ふことを前よりも一層痛切に感じたのであります。偖(さて)其の当時私が独逸から貰って来た紹介状に就て申上げれば次の通りです。(現代史資料 1 P227)

 ゾルゲは、1933年(昭和8)来日にあたり、独陸軍少将ハウスホーファーからドイツ大使とワシントンの日本大使宛の紹介状を貰い、日本大使からは外務省情報部長宛てた紹介状を貰います。新聞記者ですから、ベルリンの一流新聞社テーグリッヘ・ルンドシャウ社からドイツ大使館の参事、書記官に宛てた紹介状、同社の記者ツェーラからオット中佐(独陸軍武官)宛の紹介状を貰います。オットは後に大使となり、ゾルゲはオットの信任を得て私設顧問となって彼から多くの情報を引き出すことになります。
 オットだけではなく、海軍武官、経済課主任、情報宣伝課主任等の信任を得、

私は大使館の殆んど全部の主なる関係者と館内では単なる一私人であり乍ら極めて高い道徳的な地位を獲得し其の中枢に這入り込む様になったのであります。(p233)

 ゾルゲがオットを通じて独国防軍司令部に出した報告書が陸軍少将で陸軍参謀本部の経済部長トーマスの目に止まり、トーマスは各種の問題をゾルゲに研究執筆させて送付せよとオットに命じます。また日本に送られる特使や将校にゾルゲ会うことを勧め、ゾルゲの人脈は拡大しゆきます。

 一新聞記者に過ぎないゾルゲがなぜこれ程の信任を得たのか?。

私が望も欲しがらず、地位も欲しがらず、又利益を追及すると云ふ訳でもなく、時には政治経済及軍事等の広汎な諸問題に亘って極めて鋭い意見を吐いたり、又は美術哲学歴史其の他の多方面に亘って多少の識見を述べたりして居りましたので、少なからず人間的な魅力を与へて居た様に思ひます。・・・更に私が割合話術に巧みで、例へば内蒙古の旅行談等を如実に興味深く話して居たことも、独大使館員達から親しまれた原因の一つではないかと思います。(234)

 ゾルゲの自慢話ですが、日本に来てわずかの間に人脈を築き得たのは、彼の知識と教養、弁舌だったようです。人心掌握はスパイの重要な技術です。

 1937年支那事変が勃発すると、大使館でのゾルゲの評判はさらに高まります。

同大使館に於きましては支那事変発生以来支那問題が特に重要となったのにも拘らず一人も権威者が居らず、フォン・ディルクセンやオットは此の問題に精通して居らず他の館員中にも然るべき者が殆んど居りませんでした。
斯様な次第で、西暦一九三七年 (昭和十二年) 七月支那事変が勃発した時、同大使館関係者一同には此の事件が青天の霹靂であり、唯一人其の原因や将来の見透し等に就て皆目見当が着かぬ様な状態でありました。之が為、私の支那問題に関する識見が同大使館内で相当重要視され高く評価される様になったのは当然な事でありました。(235)

 上海での3年の諜報活動の成果が遺憾なく発揮されたわけです。爽やかな弁舌と豊富な話題で人々を魅了し、大使の私的な政治顧問ジャーナリスト・ゾルゲは、裏では大使館から情報を盗み、諜報団を率いる赤軍のスパイ・ゾルゲでもあったわけです。

【スパイ・ゾルゲの昭和】
1)ゾルゲ諜報団 2)魔都・上海のゾルゲ 3)諜報団、東京ニ集結ス! 4)東京発ラムゼイ 三国同盟 5)東京発ラムゼイ バルバロッサ作戦 6)ゾルゲの無線機 7)ゾルゲの暗号 8)日本の対ソ戦略を探れ 9)日本ハ対ソ戦ニ参戦セズ 10)ゾルゲの給与、押収物 11)ゾルゲ 御前会議を盗む①
12)ゾルゲ ドイツ大使館に浸透①

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